NEWS / HEADLINE - 2020.1.14

職員全員を解雇。財政難のリオ美術館に国際美術館会議(CIMAM)が声明

国際美術館会議(CIMAM)の美術館監視委員会(The Museum Watch Committee)が、ブラジルのリオ美術館の危機的な財政状況について声明を発表した。昨年11月、同館の上級職員11人が解雇され、100人の職員が全員解雇の可能性を知らせる通知を受けとった。

 

リオ美術館 Photo by Thales Leite

 今年より、森美術の館長・片岡真実が新会長に任命された国際美術館会議(CIMAM)。同組織傘下の美術館監視委員会(The Museum Watch Committee)が、ブラジルのリオ美術館が陥っている危機的な財政状況について声明を発表した。

 リオ美術館は、2013年にリオデジャネイロ市政府によって設立された公立美術館であり、低所得地域社会に焦点を当て、国際的な展覧会や教育プログラムを組み合わせることによって、世界的な認知を得てきた。

 設立されて以来、9000点以上の作品を収蔵し、ブラジルのビジュアル文化を記録した2万点以上の資料を含むアーカイブを構築してきたリオ美術館。過去6年間、ブラジルや国際的なアーティストによる60以上の展覧会を開催し、国内外から約300万人の来場者を集めている。

 しかし現在、リオデジャネイロ市が陥っている深刻な財政難のため、同館の運営を支える公的資金の調達が困難な状態だという。昨年11月、同館は上級職員11人を解雇。100人の職員が全員解雇の可能性を知らせる通知を受けとったという。それは、同館の閉館を意味する。

 この状況下で、CIMAMはリオデジャネイロ市政府と市長、マルセロ・クリベラに対し、同館のさらなる公的資金を確保するため、以下のことを要請した。

 1)リオ美術館の存続
 2)国際博物館会議(ICOM)によって確立された、博物館業界の国際基準に準拠したコレクションの保存と管理

 3)美術館のアート専門家、教育者、文化管理者、運営管理者、警備員を含む100人の従業員チームの復職

 2012年に設立されたCIMAMの美術館監視委員会はこれまで、「あいちトリエンナーレ2019」内の「表現の不自由展・その後」展示中止をはじめ、世界中の博物館・美術館や所蔵品が直面する様々な危機的状況に対し、一連の声明や抗議文を発表してきた。今回の声明も、公的議論を巻き起こすことを通し、美術館が直面する危機的な状況への対処を促すものだ。

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NEWS / HEADLINE - 2020.1.9

ダムタイプは進化し続ける。18年ぶりの新作パフォーマンスは《2020》

日本を代表するアーティスト・コレクティブ「ダムタイプ」。その約18年ぶりとなる新作パフォーマンス《2020》が今年3月、ロームシアター京都で2日間にわたって上演される。これを前に行われた初の通し稽古で、ダムタイプメンバーが語ったこととは?

 

ダムタイプ《2020》より(通し稽古から抜粋) 撮影=井上嘉和

 ダムタイプは変わり続けている──この作品を見たら、誰もがそう思うだろう。ダムタイプの約18年ぶりとなる新作パフォーマンス《2020》が、今年3月28日と29日、ロームシアター京都にて上演される。

 ダムタイプの結成は1984年。当時、京都市立芸術大学の学生だった古橋悌二や高谷史郎を中心に活動をスタートさせ、これまで複数のアーティストが参加し、集団によるコラボレーションで作品を生み出し続けてきた。

 《pH》(1990初演)をはじめ、《S/N》(1994)、《OR》(1997)、《memorandum》(1999)、《Voyage》(2002)など、伝説的な作品の数々により、日本のみならず世界でも評価が高いダムタイプ。その新作パフォーマンスが《2020》(2020)だ。

 本作に参加しているのは、高谷史郎をはじめ、山中透、池田亮司、古舘健、原摩利彦ら18名(1月8日時点)。このなかには、オーディションによって選ばれた10代のダンサー・アオイヤマダも含まれている。

 1月8日にロームシアター京都で行われた初の通し稽古では、舞台の中心に開けられた大きな四角い穴、女性パフォーマーたちが発する言葉、ナット・キング・コールが歌う『L-O-V-E』にあわせて現れる文字や文章など、いわゆる「ダムタイプ」から想像するものとは異なる景色があった。

ダムタイプ《2020》より(通し稽古から抜粋) 撮影=井上嘉和

 まず気になるのは本作のタイトルだ。2020年に発表する作品を《2020》とすることにはどのような意図があるのか? 高谷はこう語る。

 「ダムタイプとして18年ぶりにつくるとき、どんなキーになる言葉があるのかを探すところから始まりました。《2020》というタイトルはたんなる今年の数字なんだけども、『2020』と数字が揃っていると、急に何か意味があるようにも思えてくる。逆に、東京オリンピックがあるけども、たんなる『2020年』なんだと言うこともできる。そういうところから、《2020》っておもしろいんじゃないかと」。

 そこには「いまの社会を表す何かになればいい」という思いがあるとも話す。「答えではなく、質問の集合みたいなものができるような気がしています」。

 いっぽう、パフォーマーとして舞台に立つ砂山典子とアオイヤマダの言葉にも注目したい。

 「女性パフォーマーしか出ていないし、ダムタイプなのにすごく喋ってると思うんです。個人のある種の叫びみたいなものをどう伝えるか切磋琢磨している」(砂山)。

 「いまの世代はSNSなど自分たちがつくったものから抜け出せなくなったり、でも楽しんだりしています。だから踊っていて、舞台に穴があることがいまっぽい。わかる気がしました。共感できる存在だなと」(アオイ)。

ダムタイプ《2020》より(通し稽古から抜粋) 撮影=井上嘉和

 ダムタイプは2019年、東京都現代美術館で大規模個展「アクション+リフレクション」(〜2月16日)をスタートさせた。また18年には、ポンピドゥー・センター・メッスでも個展「ACTIONS+REFLEXTIONS」を行っている。

 ふたつの大きな展覧会を経ての公演となる《2020》。高谷は最後のシーンについて「ダムタイプがこれまでつくってきたものを内省するようなシーンにしたいと思っていました」としながらも、これまでとは異なるつくりかたを探ったという。

 「新しいつくりかたをしたいと思ってオーディションをしてみました。インスタレーションをつくるときでも、古舘くんや原くんのような、感覚が違う世代と一緒に仕事することはおもしろいと思った。なので、さらに下の世代と仕事ができれば、アーカイブのような作品ではなく、昔の作品を踏み台にして、全然違うものが出てきたらおもしろいなと。それはメッスのときから考えていました。それ以前、14年に東京都現代美術館で《MEMORANDUM OR VOYAGE》をつくったときも、違うつくりかたができたので、こういう感覚で次に開いていければいいなと思ったんです。『ダムタイプとはこういうものである』というのではなく、もっとボヤッとしたものに広がっていけばいいなと。そういう感じで今回もつくっています」。

 「いつもアドヴァンストなものをやっていたい」と語る高谷。そこには前衛ではなく、現在の状況を照射するような作品をつくりたいという意思が込められている。新たなメンバーを加え、またひとつ歩を進めたダムタイプ。その成果となる《2020》をぜひ目撃してほしい。