特にご当地ではない「変わり公衆電話」
本文で紹介した神戸のもそうだけど、「ご当地もの」かどうか判別が難しい公衆電話も多い。
例えば滋賀県のJR南草津駅前にあったこれは、おそらく単なるデザインに凝った公衆電話ボックスであろう。


多様性という観点からも、公衆電話は観察しがいがある対象物だなと気付かされたのであった。
最近では、もうほとんど使う機会のない公衆電話。人が集まるところにあって、誰もが知っている身近な存在であったがゆえに、かつてはご当地色を反映した「ご当地公衆電話」が全国各地で作られていた。
今となっては話題に挙がることも少ないそれらを、いくつか巡ってきたので紹介したい。
携帯電話がなかった頃、外出先から電話をかけるには公衆電話を使うしかなかった。あの独特な折り戸を開けて電話ボックスに収まり、積み上げた10円玉を投入しながら電話をかける。次に並んでいる人からのプレッシャーもあった。
しかしそんな日常も、90年代後半ごろから急速に姿を消していった。

設置数のピークは1990年で、当時は全国に約83.3万台あったという。それが特に2000年代に入ってから急激に数を減らし、2018年の時点でわずか15.5万台に。あれよあれよという間に1/5以下である。
理由はいわずもがな、携帯電話の普及である。公衆電話は災害時の通信手段ともなるので、今後も設置数がゼロになることはない。ただ上昇に転じることもきっとないだろう。

そんな、ただでさえ日の当たらなくなった公衆電話界において、人々の記憶からスッポリ抜け落ちてしまっている文化がある――それが「ご当地公衆電話」である。
ご当地公衆電話、そういうのがあったのだ。言葉で説明するより見てもらった方が早い。
まずは、ご当地公衆電話界における西の重鎮(と勝手に思っている)、滋賀県・信楽にある「タヌキ公衆電話」を見に行ってみた。




信楽には「タヌキ」という強烈なシンボルがある。このような場合は一点突破で、とりあえず何でもタヌキにしてしまいがちである。タクシーもタヌキ、店の玄関にもタヌキ、神社にもタヌキ……。

時代である。いまだと「よし、公衆電話をタヌキにしよう!」という流れにはならないに違いない。当時は、駅前にあって、公共性が高くて、みんなが知っているアレ、といえば一番に挙がるのが公衆電話だったのだろう。
まだ公衆電話に存在感があった頃の、そんな一時代の文化の片鱗。それが「ご当地公衆電話」なのである。

こういう「ご当地公衆電話」は、信楽に限らず全国各地にある。ただ、どれくらいあるか? と聞かれると、ハッキリしたことは分からない。なにせ公衆電話の全盛期は1990年頃。その頃はインターネットも一般的ではなかったので、当時の情報がほとんど存在しないのだ。
おまけに、インターネットの普及と反比例するように公衆電話は衰退していっているので、ネット上で話題になることもあまりない。まさに、人々の記憶から忘れ去られるための条件を満たした不遇の存在、言ってみれば「ネットの死角」なのである。
もっと「ご当地公衆電話」に光を当てねばなるまい。そんな使命感におそわれて、数少ない情報(主に個人ブログの旅行記に登場する)をもとに、現存するものをいくつか探し出した。
そのなかで、信楽のタヌキ公衆電話に匹敵する力作を徳島に発見。実物を見に行ってきた。



元日の昼間に、大浜海岸まで足を運んだ。徳島市内から車で1.5時間ほどの距離である。併設する「うみがめ博物館」が開いていたため、予想以上に観光客が多い。みんな美しい海岸にみとれて写真を撮っている。しかし、うみがめ公衆電話の周りには誰もいない。なぜだ。



思うに、現代の子どもたちにとっては、公衆電話自体がレアな存在である。なので、そんなレアなもの(公衆電話)に、さらなるレア(ご当地色)を掛け合わせたご当地公衆電話は、ハイコンテクストすぎて良さが伝わりづらいのかもしれない。
文化は長年の積み重ねのうえに成り立つものだ。なので前提となる存在が忘れられていくと、だんだん後世の人には理解できないモノへと変貌していく。ご当地公衆電話は、そんなウネリのまっただ中にあるような気がした。
「タヌキ」や「うみがめ」は、ご当地公衆電話の中でもかなり大がかりな部類である。一般的には、電話ボックスをチョコッと改造したような小ぶりなモノが多数を占めている。












こういうのは、由緒正しき「ご当地もの」という感じがする。ご当地色を出す対象がたまたま(時代の流れもあって)公衆電話だったというだけで、芦原橋のバス停みたいに、他にも作ろうと思えば何だって作ることができる。
今後、ご当地公衆電話の数が増えていくことはないだろう。じゃあ、今の時代に合った「ご当地なんとか」って、いったい何だろうか? そう考えたとき、あれが真っ先に思い浮かんだ。
ちょっと話は逸れるのだけど、現代における「ご当地公衆電話」の代わりとなるもの、それは間違いなく「ご当地郵便ポスト」である。




こういったポストは、少なくとも20年前には存在していた。そして「ご当地公衆電話」と違うのは、今もなお数が増え続けているということだ。
つい先日、当サイトの別記事にゆるキャラ「ずーしーほっきー」の真新しいポス像が載っていて、本題とは関係ないところで一人興奮していた。

1. 駅前など人が集まる場所にあって、2. 公共性が高くて、3. みんなが知っているもの。30年前、それは公衆電話だった。でもどんどん存在感を薄めていき、代わりに白羽の矢が立ったのが郵便ポストだったというわけである。
「ご当地公衆電話」と「ご当地郵便ポスト」は、間違いなく地続きの文化である。ポストについては、今後また別の記事で詳しく触れたい。
閑話休題。大阪に続いて神戸にもいくつかあることが分かったので、巡ってきた。









近畿周辺だけでこれだけ見つかったということは、広く全国に現存している可能性が高い。探し歩いてコレクションするのも一興であるが、でもこういうのって「全貌が不明」ゆえの難しさがあるのだ。
べつに親玉のNTTが仕切っているわけでもなく、各地域で観光目的にやられていることなので、全体像が把握しづらい。これは途中で紹介した「ご当地郵便ポスト」についても同様である。
悪魔の証明ではないけれど、ある程度見つけた時点で「他にはもうない」ことを証明するが非常に難しいのだ。それゆえ、どこまで集めても終わりが見えないという、コレクターにとっては悩ましい問題に直面してしまうのである(もちろん、それが燃えるという人もいる)。
なので、個人的には「観光に行った先で偶然見つけて小躍りする」という集め方が一番しっくりくる。


世の中には「ご当地公衆電話」というものが存在する。さらに公衆電話の減少とともに、だんだんレア度が増してきている。
その事実を知っているだけで、旅先での楽しみがひとつ増える。そういう集め方がいいんじゃないかと思うのだ。なので広く情報を求めたりせず、これからもひっそりと観察を続けていきたい。
本文で紹介した神戸のもそうだけど、「ご当地もの」かどうか判別が難しい公衆電話も多い。
例えば滋賀県のJR南草津駅前にあったこれは、おそらく単なるデザインに凝った公衆電話ボックスであろう。


多様性という観点からも、公衆電話は観察しがいがある対象物だなと気付かされたのであった。
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