昨年末の「M-1グランプリ」で印象に残ったのが、ぺこぱのつっこまない漫才。誰も傷つけずにボケの発言を全肯定するスタイルが新時代を感じさせた。多様な趣味嗜好を肯定する時代。どっぷりハマる「沼」を持つオタクは、ある種のうらやましさを持って語られるようにさえなってきた。「沼消費」「推し消費」と呼ぶいくらつぎ込んでも惜しくない消費スタイルは非常に熱い分野になっている。
首都圏と大阪でカジュアルホテルを11店舗運営するサンザ(東京・新宿)が沼を持つ人々に注目したのは2018年。女子会プランの伸びが鈍り新しい目玉を探るなか、オタクの推し活を支援する「推し会プラン」を始めた。
営業推進室の竹田建吾さんによると、顧客アンケートにアニメやゲームのキャラクターを描くケースが散見された。「仲間で集まってDVDなどを見る空間にニーズがあるとわかり、『推し会』というネーミングで訴求してサービスを特化した」という。
大画面テレビでDVDを鑑賞、ペンライトもプランに含めた。押すとオタク用語の「尊い」を発するボタンを置くと、連打する様子がSNSでバズって一気に認知度が上がった。24時間使える「推し会合宿プラン」や推しの誕生を祝う「誕生祭」、コスプレが思う存分楽しめるプランも設定。1年半で利用人数は3万2328人となった。様々な分野のオタクが集まる「推し祭り」も開催。違った沼を持つ人の交流イベントは大好評だったという。
楽天もこの沼に着目し、「ソレドコ」と名付けた「沼マガジン」をウェブで連載している。とがった分野のとがった人のモノ語りで、読み始めると止まらない。
私がハマったのは「完璧な視界で推しを見たい!」と題して、ジャニーズやK-POP、宝塚などそれぞれのファンが使っている双眼鏡を熱くプレゼンする記事。ジャニーズのファンは会場の広さで3つの双眼鏡を使い分ける。双眼鏡を説明しながらも見たいものへの愛を語っているのだ。猛烈なパッションのある記事ほど読むと買いたくなるし、愛の対象への興味も出てくる。
むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。
節約傾向だが、何かのスイッチが入り理性をかなぐり捨てるような情熱的な消費は読み物としても面白い。熱さはコンテンツ作りの肝により一層なっていくだろう。
ちなみに我が家は、娘が韓流、私が宝塚。大みそかは夫が紅白をリビングのソファでで、それを遠目に娘がダイニングで韓国の紅白的なライブ配信をパソコンで、私はキッチンの小型テレビで宝塚のCSの年末特別番組を視聴。それぞれ歓声を上げていた。
みんなで一つのコンテンツを楽しむのも素晴らしいが、別々なものを楽しみながら空間を共有するのもまたよし。いろいろなスタイルを全肯定することから始まる何かがあるのではないか。だから、沼を持たない夫も肯定してあげたい。沼はこんなに楽しいのに。
[日経MJ2020年1月10日付]
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