ゴーン会見で日本人が理解できなかったこと

やる気満々ゴーンが顔を引き締めたある質問

2020年1月8日、レバノンのベイルートで会見する日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏(写真:ロイター/アフロ)

2019年1月8日、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏が世界のメディアを集めて、中東レバノンの首都ベイルートで記者会見を開きました。会見の内容は日本でもずいぶんと報道されましたが、4カ国語が飛び交う記者会見の中で、日本側が気づかなかった、あるいは日本では問題にならないことが問題として取り上げられ、ゴーン氏が問い詰められることさえありました。それをいくつか指摘しましょう。

「ゴーン氏はレバノン人の誇りで、このたびの騒ぎには驚きを隠し得ない。われわれは彼が善人であり、無罪であることを信じて疑っていない」

会見の冒頭、レバノン記者クラブのオーニー・カアキ会長はアラビア語で堂々とスピーチしました。さらに、「海外で最も成功したレバノンの英雄」と述べてゴーン氏の経歴と偉業を紹介したことに対し、アラブ人記者たちは一斉に拍手を送っていました。

レバノン国民の不満が高まるタイミングで入国

実は、ゴーン氏がレバノンに入国したタイミングは、レバノン政界にとってとても微妙なタイミングだったのです。レバノンは2019年10月に「インターネット使用に課税する」という政府発表に対し、大規模な反政府デモが発生しました。これはスマートフォン上で使う通話アプリの使用に対し、1日0.2ドル(約22円)を徴収するという内容でした。

一方で、低迷するレバノン経済に対する不満が頂点に達しており、現政権も、ましてやすべての既存政党もいらない、政治家はすべて辞めてしまえと叫ぶ抗議デモが全土に広がり、結局ハリリ首相は辞任しました。現在はちょうど組閣に向けての話し合いが行われています。

そんな時に、レバノンの英雄・ゴーン氏が戻ってきました。帰国後、ミシェル・アウン大統領や要人との面会を済ませました。そのため、レバノン国民の間で「ゴーン氏が組閣に加わるのか」「政界へ進出するのか」との関心が高まっています。

実際に、社会民主主義政党である進歩社会党の党首が、「ゴーン氏をエネルギー大臣に」とSNS上で発言したほどでした。この発言はその後削除されましたが、さまざまな憶測を呼ぶことになりました。

ゴーン氏に対するレバノン国民の声は揺らいでいます。日産のV字回復を果たしたゴーン氏が、レバノン経済も回復させてくれないかと期待する人がいます。一方で、既存の政界・政権に近い人物には期待できないという声も強い。ゴーン氏も結局は現政権の仲間ではないかと、冷めた見方をする人たちもいるのです。

もしゴーン氏が政権入りを果たすのであれば、不逮捕特権などで法律上守られることになり、国内外からの司法の追及から逃れられることになります。

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  • phj by PC0dff3981b61a
    日本の司法制度は酷い、その通りで国際条約にも違反してるように「改めるべきは改める」必要がある

    その点においてゴーン逃亡は一石を投じるのに十分であったと言える

    ただ著者が明確に間違え、読者の多くも理解していないのが「容疑者」と「服役者」の違いだ

    罪を犯し服役している人に対して「更生」を促すのは日本の刑務所も同じで、服役後の再犯率もOECD諸国としてはむしろ良い方
    ただし、ノルウェーのような先進的な服役環境のほうが再犯率が低いのは事実

    日本が一番問題なのは「容疑者」の取り扱いについてで「推定無罪」の原則がまったく効いていない

    その点日本の取り調べ方法は「人質司法」で、弁護士の立ち合い権もなければ、すべての取り調べに録画録音もなく、容疑者の防衛権が十全でないのは事実なのだ

    しかし、著者ですら最初に服役の事を書いているように、ほとんど人がその違いを理解していない

    up61
    down10
    2020/1/14 09:49
  • BAN6b8c4105bc81
    改めるべきところは改める、でしょう。司法関係者は真摯に意見を受け取るべきです。
    一方で、海外で暮らすということはその国の司法を遵守する覚悟も必要です。
    異国だから気に食わない制度には従わないというのも我儘な話です。
    何か国ものパスポートを持って、いったいご自身はどこに骨を埋める覚悟があったんでしょうかねぇ。
    up28
    down7
    2020/1/14 12:00
  • H232390b5393a37e5
    外国の視点で言えば日本で犯した「経済的な犯罪」なんて他人事でしょう。それよりも肉体的・精神的な苦痛が実感できる「人質司法」のほうが重要なのは確かでしょうね。

    今回日本は国際的な連携たる「犯罪者引き渡し条約」が殆ど締結されておらず、外国籍の容疑者は海外逃亡された時点でほぼ絶望的と言う事実が明らかになりました。せめてEUと締結できていれば、というところですがそれには日本の検察の取り調べ・拘留が海外の常識に沿うものでないと難しいでしょう。

    抜本的な改革が必要でしょうが、先ずは繰り返し再逮捕で拘留期限増大と言う裏技的な手法の制限から始めるべきではないでしょうか。
    up23
    down3
    2020/1/14 11:12
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