2011年12月12日
<おおいた市民総合法律事務所 吉井和明先生>
吉井和明先生にインタビューをさせて頂きました。
Q1.弁護士になろうと思ったきっかけを教えてください。
A1. きっかけはいろいろあるのですが,中学生のころ,自分にしかできないことで人を直接助ける職業に就きたいと思うようになり,子供の頃から理屈っぽいと周りから言われていたこともあって,漠然と法律家かなと思い,特に自分と顔を合わせる一人一人の役に立つことの出来る弁護士に魅力を感じるようになったのが最初のきっかけです。また,高校生のころ,友人とそれぞれの夢を実現しようと語りあったことで,具体的な目標として弁護士を目指すようになりました。
Q2.弁護士になって特に印象に残っている案件(事件)を教えてください。
A2. 印象に残る事件はいろいろありますが,弁護士となって2件目に担当した刑事事件は,特に印象に残っています。
自白事件だったのですが,被害者との示談交渉のために必要だったこともあって,足繁く警察署で被告人と接見した事件でした。
接見を何度も会話を重ねているうちに,最初はかたくなだった被告人の態度がどんどん変化し,最後は自分のことではなく,親族や知人友人を思って涙まで流すようになり,自分が行ったことを心から反省しているのが目に見えて分かるようになりました。
最終的に執行猶予となったのですが,釈放されたあと,事務所にやってきて,「先生も頑張ってください」なんて元気に言って帰っていくのを見て,時間はかかったけど,しっかりと仕事をして本当によかったと思えました。
弁護士となって,2度目のケースで,こういったやりがいのある刑事事件が来たことは,自分にとって幸運だったと今でも思っています。
Q3.弁護士のお仕事のなかで嬉しかったことは何ですか。
A3. 依頼者の方が喜んでくれることが,やはり一番嬉しいです。
Q4.弁護士になって一番大変だと感じることは何ですか。
A4. 時間の使い方でしょうか。弁護士の仕事は,事件処理だけではなく,情報収集,弁護士会の委員会活動,各種の講演や研究,執筆活動,運動への参加など色々ありますし,同業種,異業種の人たちとの交際などの営業活動も大切です。どれかに偏ると他が疎かになり,例えば,現実の事件ばかり追っていると,情報収集の時間がなくなり,先々の事件処理に支障を来すなどの問題が生じます。とはいえ,人間一人の持っている時間は限りがありますから,うまくタイムマネジメントしなければいけないのですが,まだ自分でもうまく出来ているとは言えず、これからの課題でもあります。
Q5.休日はどのようにお過ごしですか。
A5. あまりオンとオフの切替えがうまいほうではないので,息抜きができていません。休日も仕事をしていたり,一週間のスケジュールを立て直したり,ニュースを読んだり,法律書を読んでいたりすることが多いです。各地で行われる講演に出席したりもしてます。こう考えると、仕事が趣味なのかも知れません。あとはフェイスブックやツイッターなどのSNSをいじっていたり,犬の散歩に行ったりとかですかね。
Q6.弁護士としてお仕事をする上での信条・ポリシーを教えてください。
A6. 弁護士の仕事は依頼者の言葉を裁判所に伝える通訳であり,事件処理は弁護士と依頼者との共同作業によるということです。事実関係を確認して,本人しか知らない事実を拾い上げていきます。弁護士だけで進められるものではありません。
そのために,依頼者の声を良く聞き,よく考え,裁判所へ伝えていく。
それが依頼者本意で事件を処理することにもつながるのだと思います。
Q7.ご依頼者様に対して特に気を付けていることは何ですか。
A7. Q6にも関連することですが,よく話しを聞くこと,こちらの話を理解してもらうことです。
Q8.弁護士として特に関心のある分野は何ですか。
A8. IT関係の法務です。大学時代,大学の端末室でアルバイトをしていました。最初は弁護士になったときに,業務効率としてパソコンを使えた方がいいかなと軽く思う程度だったのですが,,オンリーワンになりたいという思いから、自分に何が出来るか考える中でITと法律の問題を考えていくのも面白いと思い,勉強し始めました。学会などに行くようになり、どんどんこの分野に関心を持つようになっていきました。東京や大阪などと異なり,九州ではこの分野を特になさっている先生方もあまりいないようでしたので,この地域で「自分しかできないこと」としてこの分野を開拓していこうと思っています。
今年2月,日弁連のコンピュータ委員会のシンポジウムでクラウド・コンピューティングに纏わる法的リスクに関する検討の講師をさせていただく機会があり,それ以来,クラウドセキュリティの団体に加わらせて頂いたり、クラウドに関して研究や講演を行っていることが多いです。今後は、クラウドに限らず,ITに関する様々な法律問題を全般的に取り扱っていきたいと思っています。
Q9.今後の弁護士業界の動向はどうなるとお考えでしょうか。
A9. 弁護士の増加により,十分な経験を積むことのできない即独の弁護士が増えるのではないかと危惧しています。法曹の世界は,裁判所も検察庁も,弁護士も,いずれもOJT(On The Job Training)で,実務に通用する知識経験を積んでいくものです(裁判官では,判事補制度,検察庁では決裁制度があり,経験不足に基づく判断ミスが生じないような仕組みがあります)。この経験を制度として養うための司法修習も,期間が短縮され,その中で実務に触れることのできる機会がどんどん少なくなっていますし,相談に来る方の人生を左右する職業であるだけに心配しています。
経験があるかどうかは,相談者,依頼者側から判断がつかないことが多いので,そのようなリスクを国民が背負うことにならないか,心配ですね。
Q10.先生の今後のビジョンを教えてください。
A10. IT技術がこれだけ進展しているなかで,現実の距離感も今はかなり縮まってきていて,ITに関する問題は,都心でも地方でも同じような問題が起こったりしています。
Q8でお答えしたとおり,九州ではあまりIT関係の法律を専門で行っている方はいらっしゃらないようですので,そのあたりのことを,積極的にいろいろやっていきたいと思っています。
九州は,中央に山があって,西側と東側に交通網が分かれてしまっているのですが,それこそ,ITを使って,九州の中での議論を盛り上げて行けたらなどと考えているところです。
また,弁護士としては,まだ登録してから日が浅い若造ですので,まずは目の前の一個一個の事件を着実にこなし,経験を積んでいきたいと思っています。
Q11.ページを見ている方々に対してメッセージをお願いします。
A11. たくさんの弁護士の方のページの中から、このページを見ていただき、ありがとうございます。地方には、地域の人々と同じ目線で熱心に活動をされている弁護士がたくさんおります。また、地方でも、首都圏の方々に負けない専門性を持っている弁護士もたくさんおります。なにかお困りの際には、まずは、お近くの弁護士に一度ご相談いただければと存じます。
Q12.ページを見ている法曹界を目指している方に向けてメッセージをお願いします。
A12. 私の業務を行っている大分県日田市は,大分地裁日田支部が所在し,管内人口約10万人,弁護士が4人,常駐事務所3つ,非常駐事務所1つと,弁護士過疎とまではいわなくても,小規模な支部所在地です。
そんな地域でも,たくさんの事件があります。そのほとんどは訴額が大きいとはいえない事件で,労多く功少なしということも多いのですが,そこに携わっている地域の方々の顔が見えるという意味ではやりがいがありますし,どんな事件でも依頼者の人生にとっては一大事ですので,一つ一つ丁寧に事件にあたる必要があります。そんなわけで,町の雰囲気はのんびりしているのですが,仕事は結構大変です。
また,弁護士の数が足りない地域では,刑事事件がかなりのペースで回ってきますし,大都市では,何年も経験を積まなければ行えない破産管財人などの仕事も早期に経験することができます。
他方で,このような地域で業務を行うことは,事務所がないので,就職先がないことから,参入が難しい側面があります。
さらに,地域の人同士の距離が近いので,事件を行っているとすぐに自分の身の回りの人に結びついてしまうという面もあります。
地縁のある人は,これを逆に利用して仕事をとってくると言うことになるのだと思いますが,地縁のない私のような者でも,地域の人を知らないからこそ受けられる事件があると思います。
とはいえ,地元に住んでおらず,常駐しない弁護士が地域の事件に携わることは,難しく,十分な打ち合せができない可能性もあります。
ページを見ている人の中には,弁護過疎地への赴任を希望している人もいると思いますが,地方特有の事件や人の性質を知って,地域に入って行ってもらいたいと思いますし,逆に,都市部を希望する方でも,顔の見える依頼者との間で一般民事事件や刑事事件に携わりたいと考えている方には,地方をお勧めしたいと思います。
<取材学生からのコメント>
吉井先生は、埼玉出身で、大学も東京だったのにも関わらず、九州で弁護士をやられています。取材前、どうして埼玉出身東京の大学を出られ、弁護士登録が九州なのだろうと、疑問を抱き、先生に質問をしたところ、結婚をきっかけに九州に行かれたとのことでした。急に行った土地で、友達も少なく、弁護士の数も少ない、知らない街で、弁護士としてやっていくには覚悟がいることだと思います。「苦労もありましたが、逆に私がいることでプラスな面もあるのですよ。」と優しく話す先生はとても素敵だと思いました。ロースクール時代に弁護士過疎地の話を聞き、そこに就職したいと言っていた仲間も多かったとの話ですが、実際弁護士になると、やはり大変だからか少ないようです。過疎地で就職を決めるのは立派なことですが、良く考えて、その土地が自分に合うか見て欲しいとアドバイスを頂きました。吉井先生の記事は、法曹界を目指している方やこれから目指そうと考えている方にとって、地方で弁護士としてやっていくことが大変わかりやすく書かれている記事になったと思います。
吉井先生、大変すてきな専修大学の先輩に出会うことができて嬉しいです。お忙しいとこ取材をお受け頂きありがとうございました。
専修大学法学部4年 田村菜里美
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