イラン・米国衝突で「ソレイマニ英雄論」を唱えた日本メディアの限界

個人の「過大評価」で国際情勢は読めない
松岡 久蔵 プロフィール

日本のメディアの実態をいえば、海外特派員でも、現地の人脈をしっかり築いて取材するのはワシントンや北京などごく一部の支局を除いて少数です。外務省があれだけ予算と人員を配置しているにもかかわらず、米国のトランプ政権誕生を見抜けなかったのを覚えている方も多いと思いますが、新聞社やテレビ局も構造は全く一緒。日本人の海外駐在は大半が『ハクをつけるための旅行』になってしまっているのです」

 

一方、イスラエルに特派員として駐在したことのあるベテラン通信社記者は、中東での日本メディアの取材の困難さについてこう振り返る。

「現地当局は基本的に日本に向けて情報発信するモチベーションが低く、取材に応じてくれる機会がなかなかありません。日本国内の中東問題に関する関心も低いため、普段は紙面上の扱いも小さくなる。石油問題に絡むところを日本の商社や大使館、外務省に取材するのが主な仕事になります。

中国、北朝鮮やイランなど、いわゆる自由主義陣営ではない国の支局の場合、現地情勢について体制に批判的な内容を書き続ければ、追放される恐れもある。海外メディアの記者はフリーランスが多くリスクをとる傾向がありますが、日本メディアは多くがサラリーマンですから、会社ごと追放されるリスクを冒してまでは取材できないのです」

「キーマン」を過大評価しすぎる

さらに今回、新聞やテレビなどの大メディアだけでなく、ツイッター上でも「自制の効かないトランプ大統領が衝動的に殺害指示を出した」という説と、「すべて計算尽くで攻撃した」という対照的なふたつの説が多く流れた。

これら二つの説、そしてソレイマニ氏の「英雄視」に共通するのは、「ある特定のキーマンの動向が国際情勢を左右する」という、特定個人に対する過大評価だ。

先ほどの米国メディア特派員のコメントにもあったように、近年イランやその周辺各国では米国に対する攻撃が増えていた経緯があるので、ソレイマニ氏殺害というような露骨な手段でなくとも、いずれ何らかの形で米国は報復攻撃に踏み切ったと考えられる。