映画『ダウントン・アビー』を完全ビギナーが観てみたら? 意外にも強い現代性と間口の広さ

映画『ダウントン・アビー』を完全ビギナーが観てみたら? 意外にも強い現代性と間口の広さ

 『ダウントン・アビー』といえば、2014年から2017年にかけてNHK総合でも放送されて、2010年代に入ってから始まったテレビシリーズ(イギリス本国での放送は2010年から2015年まで)の中でも、BBCの『シャーロック』と並んで日本で最も多くの人に視聴されてきた作品と言っていいだろう。2010年代はアメリカのケーブル局やストリーミング・サービスが制作する、性描写や暴力描写や薬物描写などにリミッターのない作品が時代を席巻したディケイドだったが、日本ではそうした作品の多くはNHK、地上波民放、WOWOWといった視聴者をゾーニングできない局からは敬遠されて、結果的に世界的人気テレビシリーズの視聴者数が、作品によって大いに偏ることとなった。

 と、まどろっこしい導入になってしまったが、自分はまさにそんな「性描写や暴力描写や薬物描写などにリミッターのない作品」を特に好んで見てきた視聴者で、世界中で絶賛されてきたことは十分に認識しながらも、「20世紀前半の英国貴族を題材にしている」という理由から『ダウントン・アビー』をこれまでずっとスルーしてきた。そもそも、東京生まれザ・スミス育ちの自分にとって「クイーン・イズ・デッド」精神は人格形成の根幹にまで関わっていて、「華麗なる英国貴族の館」(同作にNHKがつけたサブタイトル)と言われた時点で、自分とは関係のない作品だと思い込んでしまう。

 本稿のテーマは、そのような完全な『ダウントン・アビー』初心者が観た映画版『ダウントン・アビー』というものである。日本にも熱心なファンがたくさんいる作品で、このような原稿をプロとして書くのはなかなか勇気がいることだが、オファーに応えるのもまたプロの仕事である。逆の立場で、「『ブレイキング・バッド』初心者が観た『エルカミーノ』」というテーマの記事を目にしたら自分がどれだけ眉を顰めることになるかを想像しながら、慎重に書き進めていきたい。

 時代設定は、テレビシリーズの最終話から2年後の1927年。ジョージ5世国王とメアリー王妃のダウントン訪問を告げる手紙を運ぶ郵便車、及び列車の移動を広い画角でとらえたオープニングは、映画ならではのスケール感に溢れている。長編映画はこれが2作目(日本公開されるのは今作が初めて)となる、シーズン5から本作の演出に参加しているアメリカ人監督マイケル・エングラー。「映画にしなきゃ」という気負いからだろうか、少々クレーン撮影を多用しすぎてるきらいはあるものの、登場人物が多く、主役らしい主役がいない(逆に言えば全員が主役)という本作のハードルを、淀みのない演出で上手くさばいてみせる。

 物語が進行するにつれて見えてくるのは、本作のテーマが、一つは家族の「相続」であり、もう一つは「主人と使用人の関係」であることがわかってくる。「相続」、つまりは「継承」の問題は現在放送中のテレビシリーズで最も高い評価と支持を集めているHBO『サクセッション』(日本では『キング・オブ・メディア』のタイトルも同時に流通している)の主題でもあり、贅を尽くした生活描写も含め、なるほど、あの作品には現代版『ダウントン・アビー』という側面もあったのだなという発見があった。「主人と使用人の関係」というテーマは、言うまでもなく格差社会のアナロジーでもあり、『ダウントン・アビー』的なイギリスの階級社会が100年近い年月を経て世界中で固定化してしまったのが現在のグローバル経済社会だという見方もできる。そう考えると、『ダウントン・アビー』が扱っているテーマは意外にも現代的なのだ。

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