「津久井やまゆり園事件」対話集会のお知らせ

対話集会「津久井やまゆり園 重度知的障害者殺戮事件と優生思想を考える」のお知らせです。

時   11月13日(日) 13:45(開場13:15)~17:00
場所  杉並区永福和泉地域区民センター 第1〜第3集会室
http://www.city.suginami.tokyo.jp/shisetsu/katsudo/center/1006945.html
定員  100名(先着順)
資料代  300円
主催  特定非営利活動法人てんぐるま
協力  マイノリティ・フォーラム
後援  杉並区

お問合せはこちら。

Mail:info@tenguruma.org
TEL:03-6868-4912

永福和泉地域区民センターは永福町駅から徒歩5分、会場までの道は平坦です。会場もバリアフリーです。ぜひいろいろな立場のかたにお越しいただきたいと思います。

なお集会に先立って、同じく13日10:30~12:00に、吉祥寺駅北口でアピールを行ないます(主催「津久井やまゆり園事件を許さない有志一同」)。こちらにはてんぐるま、マイノリティ・フォーラムだけでなく、神経筋疾患ネットワークのメンバーなどが参加する予定です。

フライヤーPDFファイルへのリンク : https://drive.google.com/open?id=0B9E24ObU5HHCZmV5QWF0MDZQS1E

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「津久井やまゆり園」事件を考える集会(9月14日15時~、代々木公園ケヤキ並木)の報告

相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」事件を考える集会(9月14日15時~、代々木公園ケヤキ並木)の概要を報告します。

津久井やまゆり園で亡くなられた19人のみなさまに黙とうを捧げた後、主催者マイノリティ・フォーラムから事件とその後についての報告と、事件を受けたアピールをさせていただきました。

内容はこちらのPDFファイルをご覧ください(ファイルは集会前に書かれた原稿です。当日の報告・アピールとは若干異なる箇所があります)。https://drive.google.com/open?id=0B9E24ObU5HHCWnlyRnFfUDlnU0E

続いて発達障害当事者の矢島豊さんにスピーチをお願いしました。矢島さんは最近自らの障害を公表し、Twitter やFacebook などを通じて障害者差別の解消を訴えています。相模原の事件直後は憤り・悲しみ・恐怖などの感情でいっぱいになり、眠れない日々が続いたといいます。その後、彼は公の場で「津久井やまゆり園」事件とその背後にある日本の障害者差別について、自身の経験をふまえて語る機会を求めていました。

矢島さんは発達障害という診断を受け、自分が障害者として「認定」されたときの違和感、ご家族との関係、グループホームでの経験とそこからの自立(ホームを出てすでに3年、何の問題もなく自立生活を送っておられますが、ホームを出る前に相談した職員さんからは思いとどまるように言われたといいます)について赤裸々に語ってくださいました。当事者の視点から見た家族との生活、グループホームでの経験、自立、市民活動など、TV番組などではめったに取り上げられない内容で、場を共有しながら聴いていると胸を打たれると同時に、「共生」や「ノーマライゼーション」などのことばで語られていることの実情を考えないわけにいきません。

次に杉並区でこどものための教育支援、障害者の自立支援などの活動を続けておられるNPO法人「てんぐるま」の田崎光哉理事からお話をうかがいました。

てんぐるまの活動内容から始まったお話は、田崎さん自身が受けた「津久井やまゆり園」事件の衝撃へと続きます。ダウン症のお子さんを持つ田崎さんは、事件の少し後、混みあう報道陣を避けて深夜に車を津久井に走らせたといいます。ところが目的地に近づくにつれ気分が悪くなり、施設から少し離れた場所に車を停めて休憩していると、パトロール中の警官が声をかけてきました。田崎さんは事情を話し、持ってきた献花のための花束を警官に預けて引き返しました。障害者の親として、また障害者自立支援を行なっている身として、事件の衝撃がどれほど大きかったかを、このように率直にお伝えくださいました。

そして田崎さんは、矢島さんのお話にも触れながら、分離教育(普通学級と特別支援学級の分離)、「健常者」の決めた区分による障害者認定、障害者の自立を積極的に支援しようとはしない行政のあり方などを例に、日本の障害者差別の現状を指摘されました。

津久井やまゆり園の建て替え計画案については、田崎さんは「反対」を明言されました。事件後多くの入居者が体育館で生活された状況を見ても、大型入居施設の問題点は明らかで、建て替えではなく地域への受け入れを行なうべきだという趣旨です。

また今回の事件をめぐって、「神経筋疾患ネットワーク」(胚・胎児の染色体異常を判定する出生前診断が先天性疾患を持つ胎児の中絶を促し、優生思想の助長につながることを理由に、出生前診断に反対しています)のメンバーが中心となって大阪と神戸で行なったアクションの概要を紹介してくださいました。

最後に9月22日にてんぐるまさんが主催する「みんなの学校」上映会とフォーラムの企画、11月13日に吉祥寺で予定されている「津久井やまゆり園」事件を受けたアクション(こちらにはマイノリティ・フォーラムも参加する予定です)の告知をされました。

この後、次の三つの訴えが宣言され、今後の活動継続を誓って集会は幕を閉じました。

1 違いを認め合って誰もが共に生きて行ける社会を作ろう。
2 障害者差別解消のために、地域でできることを積み重ねていこう。
3 政府にも障害者が地域と結びついて暮らしていける環境づくりを促そう。

参加者は主催の荒井を含めて15名でした。参加者数から見れば、周知不足は明らかです。とはいえ参加してくださったかたの中には、長野からいらしたかた、Twitter のマイノリティ・フォーラム・アカウントをごらんになって来てくださったかたもあり、組織力のない市民団体による集会ながら、手ごたえもありました。もちろんわたしたちは、さらなる世論の広がりを目指して今後も障害者差別解消とインクルージョンへ向けた取り組みを続けていきます。

参加いただいたみなさま、集会準備に協力をいただいたみなさまに記して感謝します。ありがとうございました。これからもどうぞご支援をお願いします。(荒井正樹)

 

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今日の集会は予定通り行います

相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」での殺傷事件を考える集会は、予定通り今日、代々木公園ケヤキ並木・NHKスタジオパーク側入口で15時から行ないます(1時間以内)。

主催者からの報告と訴えの後、障害当事者と、障害者支援の活動をしているNPOの代表にお話いただきます。また参加されるみなさまからもご意見や訴えをいただけます。手話通訳がつきます。

さいわい曇りの予報が出ています。念のため雨具をご用意の上お出かけください。集会場所は公園通りを上がって「渋谷区役所前」信号を渡ったところにあるケヤキの木のあたりです(NHKスタジオパークの右隣り)。のぼりが2本立っています。原宿駅からは代々木公園の間を抜ける道を、左手に国立代々木競技場を見ながら歩き、ケヤキ並木の入口に来たら左折して並木道を進んでください。一番奥のケヤキのあたりにのぼりが見えます。

みなさまの参加をお待ちしています。どうぞよろしくお願いします。

〈代々木公園MAP〉

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9月14日「津久井やまゆり園」事件を考える集会(代々木公園15-16時)の概要

9月14日15-16時・代々木公園ケヤキ並木での集会の概要をお知らせします。

はじめに津久井やまゆり園事件で亡くなられたかたに黙祷を捧げ、続いて主催者側から簡単な基調報告をします。内容は以下の通りです。

1 事件概要と容疑者の発言内容(「障害者は生きていてもしかたがない」という趣旨)。
2 上記発言内容と優性思想の関係。
3 日本の優性保護法と障害者差別。
4 障害者差別解消法の施行と残された問題。
5 日本の障害者施設を取り巻く問題。
6 措置入院制度見直しの是非をめぐる議論の紹介。

この後、参加されるNPO法人と個人のみなさまから、障害者とともに暮らし働く現場の様子をご紹介いただいたり、事件後の日本社会に求められる取り組みなどについてご意見をいただきます。

集会の最後には、
1 違いを認めあってだれもがともに生きていける社会を作ろう。
2 障害者差別解消のために、地域でできることを積み重ねていこう。
3 政府にも障害者が地域と結びついて暮らしていける環境づくりを促そう。

という三つのメッセージを発信する予定です。

手話通訳がつきます。みなさまのご参加をお待ちしています。
 

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9月26日「相模原障害者殺傷事件に対する緊急行動」のお知らせ

「相模原障害者殺傷事件に対する緊急行動実行委員会」による、9月26日の行動の詳細が発表された。以下主催者による告知を転載させていただく。ご参加ください。

みなさんご参加を!
9月26日(月)相模原障害者殺傷事件に対するアピール行動を行います!

​相模原障害者殺傷事件の容疑者は「障害者はいなくなればいい」と語ったといいます。
​私たちの住む日本の社会には、障害者はいない方が良いという価値観が依然として
根強いのではないでしょうか。

障害者は地域から離され、施設や精神科病院に隔離されるという実態が
いまだに続いているのは、その価値観の現れではないでしょうか。

障害者権利条約が求めているように、どんなに重度な障害があっても、
人としての尊厳を認められ、地域社会で生活する権利を有し、
どこで誰と暮らすかについて選択の機会が保障され、社会、経済、文化、
その他あらゆる分野の活動に参加する機会が保障されなければなりません。

まさにいまこそ、障害の有無によって分け隔てられることにない共生社会の実現を求め、
障害者の存在を真っ向から否定するこの価値観に対し、私たち障害当事者から社会に​発信していきたいともいます。
ぜひとも、全国からご参加ください。

​★​アピールするテーマ
① 19人ひとり一人に思いを馳せ、追悼する。
② 「障害者はいなくなればいい」存在ではない。
③ 措置入院の強化、施設や病院の閉鎖性を高めることに抗議する。
④ 障害の有無によって分け隔てられないインクルーシブな社会をつくる。地域生活支援の飛躍的拡充を求める。

■日時:2016年9月26日(月)12時-17時
■内容、場所
​ ​第一部 追悼集会:12時-14時30分 場所:参議院議員会館大講堂(東京都千代田区永田町2-1-1)
・「相模原障害者殺傷事件の犠牲者を追悼し、想いを語る会」
​  ​ ・追悼、参加者アピール、集会アピール採択等
​ ​第二部 アピール行進:16時-17時 場所:日比谷公園⇒東京駅方面・鍛冶橋交差点
参加者一人ひとりがメッセージを書いたプラカードを持って行進します。
15時45分までには日比谷公園西幸門にお集まりください。
◇参加費:無料
◇定員:第一部は定員300名、第二部は定員無し
◇申込み:第一部は議員会館への入館証が必要な為、9月22日(木)までにお申込み下さい。
​  ​定員300名です。お申込みについては、​添付の申込用紙をお使いください。
第二部は申込み不要です。

★上記4つのアピールテーマに沿ったご自身のメッセージをプラカードに書いてお持ちください。
★力強く生きる、多様性の尊重という趣旨で、可能であれば花(造花などでもいいです)をご持参ください。色とりどり、お好きな花をお願いします。白菊以外の花でお願いします。

◆主催 相模原障害者殺傷事件に対する緊急行動実行委員会
​ ​担当:DPI日本会議 佐藤、崔
​ ​〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-11-8 武蔵野ビル5階
​ ​電話 03-5282-3730 Fax 03‐5282-0017
​ ​メールアドレス:office@dpi-japan.org

相模原事件チラシ(9月7日版)

* 申し込みフォームの添付された主催者のチラシ(Wordファイル)は、スマホ、タブレットなどWordアプリ以外で開くと一部が文字化けすることがあります。Wordを搭載したPCにファイルをダウンロードしてご覧ください。

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「津久井やまゆり園」事件への「抗議」が陥りやすい短絡について

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦氏は、「津久井やまゆり園」事件の容疑者には双極性障害の疑いがあり、彼は社会的に孤立していた上、ドラッグの影響が重なって凶行に及んだのではないかと指摘する。この見解を踏まえ、事件と社会状況との関連が不明確ないま、この事件を「障害者への憎悪を募らせたヘイトクライムであり、そこに社会の病理がある」と断ずる主張には「かなり留保が必要だ」と言う。

【相模原事件】 植松容疑者は「モンスター」か?  再発を防ぐために精神科医は問いかける 薬物依存症治療の最前線にいる医師が語ること| BuzzFeed News |https://www.buzzfeed.com/satoruishido/sagamihara-jiken-matsumoto?utm_term=.panwA4398#.rvxYya6zA

松本氏の言葉を引用させていただく。「僕自身は、差別に対して強く抗議しますが、ここぞとばかりに今の政治や社会の問題であるとする発言にも違和感がある。障害を持つ当事者の方が恐怖を訴えるのは十分、理解できるんです。だからこそ、その発言を利用するかのような議論には注意したい」。

わたしたちは氏の指摘に同意する。しかし、わたしたちが「ヘイトクライム」への抗議を掲げて活動しており、当初から事件を社会構造において捉える必要があると言ってきたことも事実だ。ここに矛盾はないだろうか? 松本氏の懸念は現状での「抗議」行動が陥りがちな一方的な議論を戒めたものであり、わたしたちの活動に直接向けられたものではない。とはいえ「マイノリティ・フォーラム」のフライヤーを一瞥して同様の危惧を抱かれたかたもおられるかもしれないので、そのような誤解を解くために念のために書いておく。

本件に対するわたしたちの「抗議」は、障害を持つかたの危機感を「利用」して「ここぞとばかり」行なうものではまったくない。なぜなら、今回のような行為を許してはならないという声を発すること自体は障害の有無にかかわらず行なわれていいし、むしろそうすることが障害の有無を越えた危機感の共有になると考えるからだ。

わたしたちは容疑者を追いつめた孤立や、社会的少数者の排除を容認する考え方の横行に抗議の声を向けており、事件への根本的な対処は「誰もが孤立しない社会」をつくることという松本氏の指摘は、わたしたちの主張と同じである。ヘイトクライムへの抗議に重点を置くと、今回の事件の特異性を無視した議論になりがちで、それが障害者の現状の「利用」になりかねないという指摘は銘記すべきだが、だれもが共存できる社会をという訴えは、障害の有無にかかわらず、すべての市民に共有されてよい。

 

 

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8.6追悼集会に寄せられたコメントの中から

8月6日に東大駒場で行なわれた「津久井やまゆり園」で亡くなったかたを追悼する集会(主催:当事者研究Lab.)に寄せられたコメントはいずれも胸に響く重いものばかりだ(http://touken.org/2016年8月6日追悼集会/)。その中から、ドキュメンタリー映画監督の坂上香さんのメッセージの一部を引用させていただく。

今回の事件で思い出した外国の事件があります。今から5年前、ノルウェーで起こった大量殺人で、77名が一人の男性によって殺されました。移民や多文化主義をターゲットにしたヘイトクライムでした。日本ではあまり詳しく報道されませんでしたが、本当に痛ましいものでした。しかし、大勢の市民がとった行動は、今回の相模原の事件に対する日本社会の反応とは真反対のものです。混乱の最中に、市民らが各々一輪の花を手にオスロの広場に集まったのです。「憎悪は憎悪を、暴力は暴力を生む」という内容のプラカードで広場は覆い尽くされました。その数々の映像を見ながら、私は涙が止まらなくなりました。
もちろん、映像が映し出すのは切り取った「現実」の一部にすぎません。そこに居る人々にも相反する感情や思いがあったでしょう。加害者に対して強い怒りや憤りを感じる人もいたはずです。それでもなお、人々は花を手に、憎悪とは対極にあるレスポンスを求めて集まったのです。成熟した社会をそこに見た気がするのです。それまでの社会としての経験の積み重ねを垣間見た気がしたのです。
さらには、この事件関連の博物館が、ノルウェーには2つ存在します。その2つ目は事件から5年後の今年7月、奇しくも相模原の事件が起きる数日前、 事件現場のウトヤ島にメモリアルセンターとしてオープンしたばかりです。市民の希望で、です。そこには「どのような世界を作っていきたいかを考える場所」という解説が書き添えられているそうです。
一方日本は…… 。気が遠くなります。そして、そこに辿り着けない理由はいくらでも思いつきます。絶望への誘惑にも溢れています 。それでも、あの花で埋め尽くされたオスロ広場の映像を、私は忘れたくないとも思います。
今、この時点で私たちができることは何か?
私に思いつくのは、タブーを作らず、混乱した思いや感情を十分に語り合う場をあちこちに作ること。そういう場を呼びかけていくこと。生き延びた被害者や遺族、彼らに心を寄せる人々、そして加害者やその家族・関係者……すぐには語れないかもしれないけれど、より語りやすい場を心がけていくこと。それはこの追悼に参加している皆さんがすでにやられてきたことでもあるけれど、より広く、深く、挑戦することが求められているのかもと思います。その意味でもこの追悼の集会には大きな意味があると思います。

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「津久井やまゆり園」事件抗議集会

「津久井やまゆり園」殺傷事件に対する抗議集会の日時と場所が決まりましたので、お知らせします。

日時:9月14日(水)午後3時から(1時間程度)。
場所:代々木公園ケヤキ並木・NHKスタジオパーク側入口(MAP参照)。
講演者:未定。
フライヤー(チラシ)へのリンク:https://drive.google.com/open?id=0B9E24ObU5HHCMlBOUTNacUFQSm8

平日というのがネックなのですが、屋外のわかりやすい場所を早期に確保するのが困難だった点、ご容赦願います。できるだけ多くのかたにおいでいただきたいです。

今後全力で周知をはかってまいります。なおいっしょに活動していただけるかたを求めています。

情報を拡散していただければさいわいです。(初出:borujiaya, 8月16日

〈代々木公園MAP〉

 

 

 

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「津久井やまゆり園」事件はなぜ市民社会全体の問題なのか

ある出来事が社会制度なり社会の特徴的なあり方なりを背景に起きたと考えられるとき、それを「構造的」と形容することがあります。出来事を一回限りの特殊なものと考えるのでなく、社会構造において見る必要がある、という意味で使います。

相模原の事件は、いまの意味で構造的です。理由を三つあげます。

1. 若い世代を取り巻く厳しい雇用環境。
現在取り調べが進められている最中ですから、事件の加害者がどうして介護の仕事を選んだのかについて、予断を加えることは慎まなければなりません。ただ正社員の仕事を求めて得られなかった若者の中には、介護の仕事を志願する積極的な理由なしにこれを選択する人も少なくない点に注意すべきです。つまり慢性的な人手不足に陥っている介護職が、一般企業の正社員になれなかった若者の受け皿になってしまう可能性があるわけです。今回の事件の背後には新卒者の就職難と、非正規雇用者の割合の増加という社会背景があります。

正社員ではない賃金労働者の全賃金労働者に占める割合は、昨年厚労省が発表したデータによると4割を超えています。一つの背景に、高齢者雇用安定法の改正によって定年退職者の非正規雇用が増加したことがあります。しかし、それでも若い世代の非正規雇用者も増えていることは事実で、総務省統計局の「最近の正規・非正規雇用の特徴」という資料によれば、2014年の非正規雇用者の割合は20-24歳で43パーセント、25-29歳で28.6パーセントで、2002年に比べていずれも増加しています。

企業にとってパート、アルバイト、契約社員といった非正規雇用者は、雇いやすく解雇しやすい便利な存在で、超長期化した景気低迷下、彼らを活用して人件費を削減しようとするのは当然のことです。

現政権は、非正規雇用者の割合が増えることを事実上容認しています。なぜならそれがアベノミクスと呼ばれる経済対策にとってプラスに働くからです。

お断りしておきますが、いまの指摘は、アベノミクスが相模原事件の遠因だなどといった短絡的な話ではありません。今回の事件の背景には、いまの日本の若い世代に共通する雇用環境の問題があり、その点において小泉内閣以来現政権に至るまで、民主党政権時代を含めて根本的な対策がなされなかった雇用問題と事件の関連を指摘できる、というまでのことです。

覚えておられるかたも多いと思いますが、2008年に秋葉原で起きた通り魔事件(亡くなられたかたは7人)の加害者も短大を卒業してからほとんどの年月を非正規労働者として過ごしました(半年間ほど正社員になった時期がありますが、その後また派遣社員に戻っています)。もちろん動機も背景もまったく異なる二つの事件について安易な連想は禁物ですし、何と言っても若い非正規雇用者の中から多くの人々の生命を奪うような凶悪犯罪が起こる頻度はきわめて稀です。

それでもわたしたちは、現在の雇用環境がともすると若い働き手から生活の安定と将来の見通しを奪いがちであるという事実を直視すべきです。少なくとも今回の事件の背景の「一つ」として、雇用問題は無視できません。

2. 介護職が低賃金である現状。
厚労省の統計によれば、2014年の福祉施設の介護職員の月給(全国平均)は常勤で21万9700円、ホームヘルパーで22万700円です(全産業平均の32万9600円と比べ10万円以上低い)。言うまでもなく介護の仕事には高いスキルが求められる上、重労働になりがちですが、それに比べて報酬が低いことがわかります。この現状に対しては従来から批判が強く、国も2015年に12000円の賃上げを行ないました(介護職員の待遇を改善する事業者に対して、国が介護保険を通じて事業者に支払う介護報酬額を加算するという仕組みがあるのですが、この加算に新条件が作られたのです)。しかし、それでも一般的な給与水準には届きません。介護の仕事は離職率が高いのですが、その理由の一つに待遇の悪さがあることは各種のアンケート調査によって裏づけられています。

毎日新聞の報道によれば、今回の事件の加害者も2013年4月頃に、やまゆり園で働く同僚に「給料がもっと高くなるといい」などと漏らしていたということです。もちろんこうした経緯と殺傷事件のつながりの有無についてはまだ何もわかっていません。しかし、施設に入所している障害者の人たちと接する経験を持ちながら、犯行直前のに先立つ手紙に記された通りの極端な優生思想(人間に優劣の差別があるという前提のもと、劣っていると一方的に決めつけたターゲットを排除したりその誕生を妨げたりすることで社会や民族の優良さが実現されるという、かつてのナチス・ドイツに見られた思想)を抱いたことについて、その原因のすべてを彼の精神の失調に帰することは難しいとわたしは考えます。

なぜなら、彼がやまゆり園に辞表を出さざるを得なくなり、かつ緊急入院という措置を受けた理由こそ、まさに障害者は生きていないほうがいいという考えを公然と口にしたことにあるのですから。彼の精神鑑定の結果にかかわらず、福祉施設の職員がこのような主張を公言した事実に変わりはありません。また精神鑑定によって犯行時加害者の精神に問題があったという結果が出たとしても、いったい彼がいつから精神に失調を来してたのかという点まではわかりません。つまり彼が福祉施設で働きながら、まだ理性的な判断力を保っているうちに、障害者に対する差別思想を抱くようになった可能性は大いにあるのです。措置入院と前後して、突然彼の中に優生思想が生まれた、などという仮説には説得力がありません。

そうであるならば、極度に想像力を欠いた人間が、逆恨みとしか言いようのない差別思想に出会うきっかけの一つとして、本当は自分が続けることに意義を見出せなかった仕事を辞めることもできず(おそらく他に職を見つけるのは困難だったと推測できます。なぜなら退職後に彼は貧窮しているので)、それを続けていても低賃金に甘んじなければならない状況への屈折した思いを想定することには根拠があります。

3. ヘイトクライムを生み出す社会環境。
在特会のヘイトクライムがすでに司法の裁きを受けていることはご存じの通りです。また今年の5月にはヘイトスピーチ対策法が成立しました。しかし、このような訴訟や法整備がなされているということ自体、一握りとは言え日本社会に差別思想を公然と振りかざす人々がいるということを意味します。もちろんヘイトスピーチ対策法は与党の賛成があったから成立したのですが、それでも現政権の閣僚たちに排外主義的ナショナリズムの傾向が強く認められることはたしかですし、総理のFacebook のコメント欄は連日ネトウヨたちの書き込みで賑わっています。

何度も繰り返してきたように、犯罪事件そのものはさまざまな要因から生じるので、社会背景の一つだけを取り上げて短絡的にそれを語ることは許されません。しかし、今回の犯罪が障害を持つ人たちだけを標的にした行為であることを見れば、加害者の精神状態の如何に関わらずヘイトクライムであることは明らかであり、またこうした極端な行為には至らないまでも、いま国内にはともすると特定の人々を差別したり排除したりしようとする一定数の人々が存在することも事実なのです。

加害者が官邸衆議院議長公邸に持参した手紙には、自分の計画は日本をよくするという趣旨の記述があります。彼のいじけた「構想」が、現政権のスタンスへの共鳴と結びついていることは間違いありません。いま官邸政権がこの事件を話題にしたがらないのは、彼の犯行がヘイトクライムであり、しかもそれが自分たちの政権下で起こったという事実を認めたくないからでしょう。

このように、今回の事件には日本社会の現状の問題と関連する点が複数あります。わたしが事件をたんなる異常犯罪と言ってやり過ごしてはならないという理由もここにあります。仮に事件の影響を不幸にして被害に遭われたかたがたと家族のみなさんに限定し、いわゆる健常者には無関係の出来事だなどと考える人がいるなら、それはとんでもない誤りです。だれであれ社会のメンバーを、その属性によって差別するという行為に抗議しない限り、次にターゲットになるのはわたしたち自身です。

わたしたち「マイノリティ・フォーラム」は9月14日に代々木公園で事件に対する抗議集会を行ないます。以上述べてきた理由から、抗議の対象は「差別とヘイトクライムを容認したり看過したりすること」であり、関連して訴えたいのは「事件のターゲットは市民社会そのもの」、「福祉施設のセキュリティを高めるのでは解決策にならない」ということです。またこの事件があらためて浮き彫りにした介護職の待遇の問題をふまえて、「より多くの人が介護という仕事に誇りを持って携わることのできる社会を築こう」ということを訴えたいと思います。介護職のこれ以上の待遇改善にさまざまな困難があるのはわたしも承知しています。ですからたんに報酬の引き上げを言うつもりはありません。現にいま介護の仕事に就かれている人の中には、低賃金でも自分はこの仕事自体に価値を見出せる、と断言されるかたも少なくありません。

「差別とヘイトクライムを容認したり看過したりすること」への抗議は、本件の加害者だけに向けられているのではありません。行動に出はしないものの、自分の姿を隠して差別主義的な言説などを楽しんでいる人々やそれを見過ごしている人々に対するものでもあり、また今のような社会状況を生み出すことに加担したと言われてもしかたがない現政権にも向けられています。もちろん政権にすり寄って、事件をやり過ごそうとするメディアも批判の対象です。(荒井正樹)

【付記】 本記事の初出は“borujiaya” 8月7日

【追記】 容疑者が2月14日に「衆議院議長公邸」に持参した手紙について、「官邸」に持参と書いていた誤りを打ち消し線付きで訂正(3箇所)。(2016/9/6)

 

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