VRゴーグルをつけている姿を見て「スイカ割りしてる人みたいだ」と思った。
ふつう、スイカ割りってはちまきで視覚を遮断され、聴覚だけを頼りにスイカまでたどり着くものだ。例えばはちまきをVRゴーグルを付け替え、視覚に”少し邪魔な情報”を与えると人はどうなるのだろうか。
試してみました。
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VRスイカ割りができるまで
さて、とにもかくにもVRの空間を用意したい。とは言え、テレビのモニターとPC画面を同期させることもできない筆者には越えるべきハードルが高すぎる。
どうしたものかと困っていたら救世主を紹介していただいた。VRの研究をされている明治大学の橋本直(すなお)先生とゼミの研究生の方々である。

ゲームや機材に囲まれた先生の研究室で「こんなVRの状況を用意すればスイカが叩きづらくなるのでは」と様々好き勝手に話したところ、なんとかなりそうだ、とのこと。


1ヶ月後、学生が試しプレイをしている映像とともに、完成しましたというメールが入った。おお、こいつぁ楽しくなってきた、向かうぞ皆の者!
かんたんに仕組みを説明します
というわけですごい方々のおかげで準備が整った。筆者が理解できている範囲でどういう仕組みになっているか解説したい。

今回の肝は、VRをしながら歩き回れるということ。そして実際のスイカと違う位置に「バーチャルのスイカ」を配置できるようにすること。
スイカ割りをする人がどれだけ動こうと「正しいスイカの位置」をマッピングする必要がある。

まずスイカの位置に赤外線を受信するトラッキングデバイス(トラッカー)を置く。

両脇の2本の装置から赤外線が照射されており、スイカの3次元的な位置が検知、算出される。位置が算出されたらもうトラッカーは外して大丈夫とのこと。


ゴーグルには赤外線を受信するセンサーが虫の複眼のようにたくさんついていて、位置を読み取ってVRの空間を歩き回ることができる。
さらには受信用のトラッカーをスイカ割り用の棒にも据え付けることで、棒を振ると連動してVR内でも棒が振られるのだ。


どうだ、なんだかすごいだろう。思いつきでVRスイカ割りをしたいですと話したら頭のいい人たちがみんな形にしてくれた。筆者は本当に感動している…。

季節外れのスイカ割りが始まる
お待たせしました。では、ここでスイカ割りを実際に体験していこうと思う。
今回はまだ何をやらされるか知らせていない編集部の橋田さんをお招きした。



ゴーグルをつけた橋田さんが戸惑っている。実際にVR上で見えているのはこんな世界。



ビーチが安かったから買う、というセリフ格好いいな。800円だそうです。

沼の衝動買い。今やたくさんVRの素材が売られているとのことだ。みんな知らない世界に興味津々である。



そうしたら端が崖になってたりしてもいいですね


橋田さん、バーチャルビーチで翻弄される


早速みんなで橋田さんを誘導する(なんとなく流れで1人だけ適当な誘導をしてもいいことになった)。



ほとんど歩いていないのに目の前に見えたスイカを揚々と叩こうとする橋田さん。ただ視覚を遮断されるより極端に距離の感覚がにぶっているようだ。さっそくVRに翻弄されている…!


棒が振り下ろされた瞬間、ぎゃあと悲鳴が上がった。

丸山さんが独自に追加した罰をにこやかに解説してくれた。この方、やさしそうな顔で中々のSっ気だ(上の写真を見ても良い笑顔である)。





これ以上橋田さんを回転させるのも忍びないのでみんなでなんとか誘導し、無事スイカを叩くことができた。


勇敢にスイカを叩き続けた橋田さん。スイカまみれの空間が目の前に広がると、思った以上に方向と距離の感覚が掴めないとのこと。そういうものなのか、おもしろいなー。
筆者も体験してみる
やはりこれは体験してみねば感覚がわかるまい、僭越ながら筆者も体験してみることになった。

VR上に棒が見える。手を動かす。棒が動く。なんだこれ、棒を持つだけで楽しい!筆者自身あまりVRの経験がないのでとても新鮮な気持ちだ。

心の拠り所(棒)を取られた自分、あまりに無防備でかわいそうだな。静かになると本当にこの世界には自分しかいないんじゃないかと不安になる。
さあさあ調整したらスイカ割りスタートだ!

開始早々、視線が揺れる。罰であるあの画面をぐるぐる回すやつ、実はゲーム開始時にも発生するのだ。
実際のスイカ割りは自分が回るけど、今回はケーブルがあるため、かわりに画面を回すことでこれを再現した、とのこと。やー、これ本当に平衡感覚なくなるな。とりあえず歩いてみよう。





方々からアドバイスが聞こえるが、誰を信用していいのかわからない。視覚情報が多いから混乱する…最初は警戒していたが、気がつけば全ての声にしたがって動いていた。





スイカ、叩くと減るんです。そういう仕様らしいです。
多分だけど、普段より自分の声が大きい。そしてリアクションや動きも大きくなっている。自分の目の前に誰も見えないので羞恥心のブレーキが壊れたんじゃなかろうか。あとはやっぱりどこか心細いのをかき消していたんだろうと思う。


おれ、セリフだけ拾うと悪夢にうなされてるみたいだな。





わからん、自分の足元も見えないからか身体の制御がうまくいかない。なんだこれ!


叩きたいスイカは横にあるのに指示された位置には何もない。戸惑うけれど、とにかく声を信じて棒を振り下ろす。ゴッという何かを叩く感覚。おー、叩けた!



何も無いのに叩いた感覚がすごい気持ち悪い。
「見えないまま叩く」ことにかけては普通のスイカ割りと同じなのだけど、なまじ近くにたくさんスイカが見えるうえで何もない砂浜を叩くので、そこに違和感が生まれるのだと思う。
ついに本当のスイカを投入だ
やっぱり変な感じだ、これ。この感覚をみんなと共有したい。最後にライターのべつやくさんにバトンタッチし、本物のスイカで挑戦することにした。



スイカの時期じゃないから…と百貨店をはしごして季節外れの果物を手に入れてくれた林さんが反論する。この企画、夏に思いつけば良かったな。



べつやくさんは空間認知が強いのかなんなのか、3人の中では1番スムーズにスイカまでたどり着いた。





なんやかんや3度目の挑戦で、えいやとスイカに棒が振り下ろされ、



そうなのだ。”無”を叩いているので達成感が本当にない。ゴーグルを取り、割れたスイカを目の当たりにしたべつやくさんの

という平坦な第一声からも強い他人事感がうかがえる。
周りは一部始終を見ているため割れた瞬間がピークに盛り上がるのに対して、本人のこの取り残され方のコントラストがおもしろかった。

まとめ
- たくさんのスイカが邪魔をして、距離と方向感覚がいつも以上に狂う
- 隣に見えるスイカを無視して何もない場所を叩く違和感がすごい
- 周りの盛り上がりに反して本人に達成感がない
- でもなんやかんや体験すると楽しい
いま思い返しても夢の中みたいな光景と感覚だったな、と思う。来年のオープンキャンパスでやってもいいですね、と橋本先生が笑っていた。

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