オーストラリアの森林火災は、コアラやカンガルーがすむ独自の生態系まで壊滅させる

オーストラリアで続いている大規模な森林火災の被害が及ぶのは、人間だけではない。コアラやカンガルーなど、この大陸に固有の多くの生物がすむ生態系が破壊されるつつあるのだ。専門家は、一部の種が絶滅する可能性まで警告している。こうしたなか、わたしたちにできる解決策はひとつしかない。

Koala

SAEED KHAN/AFP/AFLO

オーストラリア人がこれまで体験したことがないような森林火災が、いまオーストラリアを焼き尽くしている。この大規模な森林火災はオーストラリアの大地と生態系を破壊し、大陸に取り返しのつかない変化をもたらしている。

森林火災はこのような振る舞いをするものではない。通常なら落雷によってときおり発生した火事が周辺に広がり、古い落ち葉を焼き尽くして新たな芽吹きを促す。多くの動物は、こうして周期的に発生する比較的穏やかな火災から逃れることができる。

地上の植物が燃え始めると、鳥は飛び去り、コアラは木の高い所を目指して登り出す。昆虫や小型哺乳類は倒木の幹の中に避難して炎が頭上を通り過ぎるのを待つことさえある。

だが、今回は異常事態だ。気候変動の影響で土地全体が火種と化し、山火事が激化している。火事はオーストラリア全土に猛スピードで広がっており、無数の動物が逃げ遅れている。逃げる手段のあるカンガルーや鳥でさえ逃げられないのだ。

関連記事オーストラリアの森林火災は、この地球の未来を“予言”している

「これほど広範囲で大規模な森林火災が起きるのは初めてのことなので、被害の値を割り出すのはかなり困難です」と、ニューイングランド大学の昆虫学者でオーストラリア生態学会(ESA)の前会長であるナイジェル・アンドリューは言う。「これまで火災はまばらに発生し、地域全体を完全に燃やし尽くしたことはありませんでした」

絶滅する種が発生する可能性

オーストラリアを襲っている猛烈な森林火災では、これまで少なくとも25人が死亡し、1,500万エーカー(約600万ヘクタール)が焼失した。南オーストラリア州カンガルー島では、生息するコアラの半分が犠牲になった可能性がある。

ある推定では、この森林火災で犠牲になる哺乳類、鳥、爬虫類は10億を超えるという。おそらく被害がはるかに大きい昆虫などの他の生物は、この数値には含まれていない。ニューイングランド大学のアンドリューの同僚のひとりは、コウチュウ目ハネカクシ科に属する昆虫だけでも、これまでに3兆匹以上が犠牲になったと推測している。

ただし、ここで注意すべき点がある。科学者に犠牲になった生物の個体数を正確に知る手段はない。このような予測値は、狭い地域を対象に実施した生物種の調査から得た数値を広い地域に当てはめて計算したものだ。

実際の犠牲の大きさを把握するには、しばらくかかるだろう。明らかなことは、オーストラリア大陸のユニークな生態系をつくり出している独特な生息環境が、オーストラリアで燃え続けている森林火災によって損害を被っていることである。通常なら火災の心配はないオーストラリア大陸の熱帯雨林でさえ、今回の森林火災の猛烈な火の手が及ぶ恐れがある。

「したがって、絶滅する種がたくさん出るでしょう」と、アンドリューは語る。すでに絶滅の危機に瀕している種や、かろうじて絶滅から逃れている種の場合、この森林火災が最終パンチとなって一掃される可能性がある。

Bushfires and wallaby

WOLTER PEETERS/THE SYDNEY MORNING HERALD/GETTY IMAGES

オーストラリアの自然環境の多様性に危機

オーストラリアは火災の多い大陸であり、オーストラリアに生息する生物は火災に適応している。例えば一部の樹木は、栄養分が土壌に注入され、太陽の光やほかの資源を奪い合う樹木が少なくなる火災後に合わせて発芽する。

しかし、典型的な山火事を生き抜くことができる種子も、今回の極端な火災に耐えられないかもしれない。最初の雨が降って発芽が確認できるまで、科学者はどの種が山火事を生き抜いたか知ることはできない。

地域一体の植物が大量消失することで、そのチャンスに便乗する種を誘い込むこともある。成長スピードが速い雑草種が定着する可能性があり、深い森だった場所を草が多く茂る樹木がまばらな林に変えるかもしれない。よりたくましい侵入種が急速に生い茂る可能性もある。

「魅力的な種やユニークな種の多くは、自然のままの環境で生き残ることができないかもしれません」とアンドリューは語る。「そこが最大の問題になります。オーストラリアの自然環境の多様性は変化するでしょう」

火災後の不透明な生態系

また、植物は食物連鎖の重要な構成要素でもある。食物連鎖から植物が抜けると、さまざまな動物の食糧源も抜けることになる。草食動物が今回の森林火災で生き延びたとしても、森林火災後に餓死するかもしれない。「赤ちゃん動物が生き残ったとしても、親が十分な食料を見つけられず母乳を与えられなければ、親は子を捨て去るだけです。赤ちゃん動物は生き残れません」

通常の山火事で巣穴に避難する動物の場合、今回のような大火災はあらゆる隙間から酸素を奪い去るので、窒息死する危険性が高い。鳥は煙や激しい強風によって方向感覚を失うことがある。突風によって森林火災はありえないスピードで広がり、火の手の数キロメートル先にまで燃えさしを吹き飛ばし、そこで飛び火して新しい火災を引き起こす。

「ひとつの火災から逃れようと走る動物の目の前に別の火災が現れます」と説明するアンドリューは、「このような火災の広がりの凄まじさは本当に前代未聞です」と訴える。通常、カンガルーなどの動物は安全な場所を求めて緑豊かな熱帯雨林に飛び込むことがあるが、今回の森林火災はこれまで避難所だった場所も焼き尽くす。土地はとても乾燥しており、熱帯雨林に落ちた雷でさえ火災を引き起こしているようだ。

fire

AAP IMAGE/DEAN LEWINS/AFLO

頭に入れておきたいのは、単一の種が孤立して生きることはないということだ。生物はほかの生物を食べ、その生物をほかの生物が食べる。生態系で1つの種が失われると、その種が関与する食物連鎖の上方にも下方にも計り知れない波及効果がもたらされる可能性がある。

そして山火事による生息地の完全喪失は、生態系に間違いなく壊滅的な影響を及ぼす。「この森林火災のあとに何が出現してくるか言い当てるのはかなり困難です」とアンドリューは語る。「大幅に異なる植物相が出現する可能性があり、その異なる植物から異なる動物相が出現する可能性もあります」

自然保護活動家に求められること

そこで問われるのは、オーストラリアの自然保護活動家がこの新たな時代の猛烈な森林火災からどのように種を救うことができるか、ということだ。

これほど大規模な生態系を人間がゼロから再構築することは不可能だろう。しかし、自然保護活動家は火災後に主要な種を助けることができる。

ある研究者グループは、焼け跡にワイヤー製のトンネルを設置する実験を行っている。オーストラリアのディーキン大学統合生態学センターの所長ドン・ドリスコルは、「森林火災によって焼け野原になり隠れる場所を失った小動物は、トンネルの中に入ることでさまざまな捕食動物から逃れることができます」と説明する。「オーストラリアに移入されたキツネやネコ科の動物は、長距離を移動してわざわざ森林火災地帯にやって来ることがわかっています。なぜなら、エサを簡単に捕まえることができるからです」

Bushfire

WOLTER PEETERS/THE SYDNEY MORNING HERALD/GETTY IMAGES

自然保護活動家はまた、火災の脅威に晒された動物が何とか生き延びた限定区域に取り組みを集中することもできる。「生態学者として、将来は気候学者の予測通りになると理解するだけでなく、この地域に残された退避地をしっかり保護する手段を考え出す必要があります」と、オーストラリアのラ・トローブ大学の生態学者マイケル・クラークは語る。

このためオーストラリアでは重要な生息地の周辺で野焼きが実施され、山火事の接近を食い止める一種の安全地帯をつくる可能性がある。「生態学者として干渉主義になることには納得がいかないのですが、この方法以外どうしていいのか分かりません」とクラークは語る。「何もせずに『残念ですが絶滅しました。将来、天然資源は一切ありません』と言えますか? わたしには受け入れられません」

唯一の解決策

オーストラリアのほかの地域でも、自然保護団体が野焼きで成功を収めている。例えば、NPO団体「Bush Heritage Australia」は、炎を管理できる気温の低い時期に野焼きを実施することで、火災の燃料となる植物などの可燃物量を管理している。

この戦略がどれほどうまく機能しているのか判断するには時期尚早だろう。だが、同団体の土地にはこれまで何度も落雷があったものの、大きな森林火災は起きていない。「落雷の発火から手に負えない火災が発生していない事実は、野焼きによる準備のおかげです。大変な作業のたまものだと思います」と、同団体で科学および自然保護の責任者を務めるレベッカ・スピンドラーは言う。

野焼きはひとつの手段ではあるが、万能薬ではない。「炎が地域を焼き尽くす能力は、天候が極端になるほど可燃物量に依存しなくなります」とディーキン大学のドリスコルは語る。「すなわち、非常に気温が高く、とても乾燥していて強風が吹いている場合、その土地を焼き尽くすためにほとんど可燃物を必要としないのです」

この状態の悪化を食い止める唯一の解決策は、気候変動を止めることだろう。

※『WIRED』による地球温暖化と気候変動の関連記事はこちら

RELATED

SHARE

CES 2020:「空飛ぶタクシー」に自動車メーカーも参入、その技術は着実に進化している

“空飛ぶタクシー”の実現に向けた動きが「CES 2020」で相次いでいる。新しいコンセプトモデルを発表したベルヘリコプターや、自動車メーカーとして初めて参入したヒュンダイがCESで示したヴィジョンは、いずれも都市のモビリティに新たなエコシステムを構築しようという意欲的な取り組みだ。どちらもUberと提携するなど進化した都市交通の未来図を示そうとしているが、まだ解決すべき課題は少なくない。

TEXT BY ERIC ADAMS

WIRED(US)

flying taxi

IMAGE BY BELL

未来の都市における“空飛ぶタクシー”という夢のような世界を実現してくれる電動垂直離着陸(eVTOL)機の開発は、これまで小さなスタートアップの取り組みが中心だった。ボーイングとエアバスという最大手が中小企業の買収や提携に乗り出してきた一方で、分野こそ違えど大量生産のノウハウをもつ自動車メーカーは横目で見ているだけだったのだ。こうした状況が「CES 2020」を境に大きく変化している。

まず、大手航空機メーカーのベルヘリコプターが、昨年のCESで発表したeVTOLのコンセプト「Bell Nexus」が机上の空論ではないことを明らかにした。昨年のコンセプトに対する反応を開発に生かし、さらに小型で小回りの利く完全電動のコンセプトモデル「Nexus 4EX」をCES 2020で発表したのだ。

さらにベルは、未来のエアモビリティへの足がかりも確立しようとしている。スマートシティのエコシステムの一部として、空飛ぶタクシーとドローンのサーヴィス、それらの運用管理とメンテナンスなどを提供する計画という。

ヒュンダイの本気度

自動車メーカーならではの圧倒的な大量生産に強みをもつ現代自動車(ヒュンダイ)も、空飛ぶタクシーの機体とオペレーションの仕組みのコンセプトを発表した。この機体はUberが率いる空飛ぶタクシーの実現化に向けたプロジェクト「Uber Elevate」と共同開発した「S-A1」で、8つのローターを搭載して4人乗りになっている。

8つのローターのうち傾いている4つは垂直と水平の飛行に使い、残りの4つは安定してホヴァリングさせるために水平に固定されている。この個人向け電動飛行機のコンセプトは、地上に新たに構築されるインフラと連携するという。このインフラは「Hub」と呼ばれる空飛ぶタクシーのステーションと、このステーションまで人々を送迎する電動の自律走行車からなる。

CESで正式に発表されたヒュンダイとUberとの提携は、自動車メーカーであるヒュンダイの航空機メーカーへの転換を加速させるだろうと、Uberの航空関連部門の製品責任者であるニキル・ゴエルは言う。

ゴエルによるとUberの進め方は、設計のコンセプトを確定させたうえで、ほかのメーカーが採用できるようにコンセプトを公表するというものだ。これは米航空宇宙局(NASA)の手法に影響を受けたのだという。

ヒュンダイの機体は、騒音を最小化するため反対方向に回転するブレードや、エネルギー効率を高めるために傾斜したローターといった特徴を備えている。これらはUberが描いてきた空飛ぶタクシーの構想と合致する。「ヒュンダイの新たなコンセプトデザインは、わたしたちが求めている条件に合致しています。なぜなら、わたしたちが思い描く理想のデザインに基づいているからです」と、Uberのゴエルは語る。

最近になってヒュンダイは、NASAの航空エンジニアだったシン・ジェウォンという人物を採用しているという。こうした動きは同社の本気度を示しており、世界的な自動車メーカーとしてのノウハウが空飛ぶタクシーの大量供給においても鍵になるのだと、ゴエルは指摘する。

「Uber Airの未来は、世界中に何十万機という“空飛ぶクルマ”を保有することにかかっています。ところが、こうした数の機体の量産に航空業界は慣れていません」と、ゴエルは言う。「電気飛行機の生産は、これまでの航空機の生産とは根本的に異なっている必要があります。そうして初めて、利用しやすい料金の空飛ぶタクシーを実現できるのです」

Uberとの差異化を狙うベル

航空分野に限定されるとはいえ、ベルも航空機を生産するノウハウを生かせる。同社もUberと提携しているが、インフラと航空機管理のエコシステムを供給する部分に限られている。

ベルは2050年までに人口の70パーセントが都市部で暮らすようになるという予測に触れたうえで、都市はすでに過密状態によって身動きがとりにくくなっていると指摘する。その解決策として提示しているのがサーヴィスとしての移動、すなわち「MaaS(Mobility as a Service)」である。

これによってベルは、より多くの人が気軽に航空機を利用できるようになることを目指している。そして「AerOS」と呼ばれる人工知能(AI)を用いた航空機管理システムを供給することで、航空機の追跡やオンデマンドでの配備、状態の管理などを提供するのが狙いだ。

ベルがCES 2020の会場に設けた「Nexus City」という展示エリアで訴求した一連のサーヴィスは、「Autonomous Pod Transport」(自律ポッド輸送)と呼ばれる移動システムも含め、ドローンのシステムとの一体化を目指している。このシステムには一般の会員ユーザーが乗り物を呼び出せる予約アプリも含まれ、システム全体はマイクロソフトと共同開発している。

これらのシステムによってベルはUberと競合するのではなく、Uberとは異なるサーヴィスを提供することで補完関係になるのだという。そのサーヴィスとは商業フライトや産業分野での利用、そしてドローンで物を運ぶユーザーである。

現在のバッテリー技術で実現可能?

ベルとヒュンダイの計画によると、どちらの機体も最高速度が時速180マイル(同約290km)で、1度の充電で60マイル(約97km)を飛行できるという。従来の空飛ぶタクシーのコンセプトの多くが航続距離を180マイルとしていたことを思えば、業界の野心はしぼんだようにも見える。

だが各社は、空飛ぶタクシーが都市間の長距離移動よりも、むしろ都市内の短い距離の移動に利用されるという控え目な予測に適応しているのだろう。重くてエネルギー密度が決して十分とはいえないバッテリーによって、空飛ぶタクシーが乗客を運ぶ際に相応の飛行能力の余力が法的に求められるであろうことに対応したのかもしれない。

これに対してUberのゴエルは、当初から一貫して60マイルの距離を想定していたと言う。だがUberが2016年に公表したホワイトペーパーには、最高速度で飛行した際の最低有効距離が100マイル(約160km)、もしくは50マイル(約80km)を2回飛行すると記されていた。この数字は、ベルとヒュンダイが示した60マイルという航続距離と同じく、緊急時の飛行余力(リザーヴ)を考慮に入れている。

16年のホワイトペーパーは同時に、eVTOL機は着陸の選択肢が多いことから、米連邦航空局(FAA)はいずれリザーヴの要件を緩和する可能性があると指摘していた。それでもゴエルは、このサーヴィスは現在のバッテリー技術で実現可能であり、バッテリーのエネルギー密度が毎年6〜8パーセント増加していることから、サーヴィス水準は年を追うごとに向上するのだと言う。「バッテリー技術が飛躍的に進歩する必要はないのです」

さらに求められる解決策

ベルのイノヴェイション担当ヴァイスプレジデントのスコット・ドレナンも、ゴエルの考えに同意する。その一方で、航空分野においていまだに新しいといえるバッテリー駆動を巡る法的要件が、同社の計画に大きな影響を与えるのだと強調する。

「安全で効率的なバッテリーを組み込むために規制当局と連携し続けていくことが非常に重要です」と、ドレナンは言う。「安全なオペレーションに必要なリザーヴを考慮することによって、飛行できる距離は減少します。これはベルが設計段階において、また規制当局とのやり取りにおいて常に考慮してきたことです」

もちろん、60マイル(約97km)の距離を飛べるかどうかは、充電ネットワークを展開するスピードと利用可能な拠点の数に影響されるだろう。これらの解決策は、来年のCESで示されるかもしれない。

※『WIRED』によるCESの関連記事はこちら

RELATED

SHARE