2年目社員、文系の未経験から社内AIコンテスト入賞
いったい、NECのAI部門でどれほど若手が早期から活躍しているのか。それを理解するうえでは、佐坂氏のこれまでの歩みが参考になるはずだ。彼女は社内AIコンテストに新卒同期とチームを組んでエントリーし、入社2年目でありながら3位入賞を果たした。従業員数11万人のNECグループで累計約300名が応募したコンテストでの受賞である。ところがその佐坂氏、学生時代にはAIはおろかITにさえ触れたことがなかったという。
佐坂私は2018年に入社したのですが、就活時期に1人の文系学生として「私にできる仕事って何なのだろう」と考えて、その選択肢が実は少ないかもしれないということに気づいたんです。
メーカー営業職のインターンシップ等に参加しても「なんか違う」という感覚が強くて、特にこだわりもないのに「好きなメーカー」や「売ってみたいモノ」を無理やり設定して就活を続けることに違和感がありました。
そんな中見えてきたのが「私は目に見えるモノではなく、自分という存在や、自分が持っている力を売っていきたい」という願望。そうして関心を持ち始めたのがITの世界で、「未経験の私にもSEとして自立していく成長機会がある会社に入りたい」と思い、入社を決めたのがNECでした。
技術とは無縁の学生生活を送ってきた文系新卒者が、就活時に一念発起してSEを目指すというケースは決して少なくない。しかし、ここから先の歩みが佐坂氏の場合は独特だった。
佐坂SEを志望して入社し、金融機関をクライアントとして、技術やサービスを通じて価値提供する部署に配属されました。
入社後、金融領域のエンジニアになるために必要な研修を受けていましたが、その受講後に、AI人材育成センターが主催するデータサイエンティスト養成ブートキャンプに参加するメンバーとして選ばれたんです。
そもそも私の場合、ITについても未経験というゼロスタートだったので、なんとか戦力になろうとエンジニア向け研修で必死に学ぶ中で、今後が期待されるAIへの興味も大きくなっていました。
ですから、新卒1年目の私が、今度はAIもゼロから学ばせてもらえるんだとわかった時は素直に嬉しく感じました。とにかく早く「自分の力」を武器にしていける人間になりたかったからです。
伊藤佐坂さんのようにAIを学ぶことや、それを活用して価値貢献することを心から望んでくれるのが、私たちAI人材育成センターの人間にとって一番嬉しいですね。
NECが自信を持って語れるのは、「本人がお客様の課題解決がしたくて、かつ学ぶ意欲もあれば、AIに関する知識は教えられる」ということ。そのために、未経験者のためのブートキャンプやAIに関心のある社員のためのコミュニティを運営しているわけですから。
見守るように佐坂氏の話を聞いているのは、NECのAI人材育成戦略において中心的な役割を果たしている、AI人材育成センターの伊藤氏だ。
自身も学生時代はコンピュータグラフィックス分野を研究していたため、データサイエンスやAIは未知の領域だったという。しかしNEC入社後にこれらを学び、最前線でレコメンデーション等に活用できるデータマイニング技術の研究・開発を担ってきた。そして、強い技術があってもそれを活用して価値を創造できる人がいないと事業が広がらないという危機感から、2013年にAI人材育成プログラムを立ち上げた。
NECは2010年代に入り「社会価値創造型企業」、すなわちBtoB領域でのソリューション提供を主とする企業へと変革を遂げてきた。クライアントに対して先進技術で価値創造できる人材の育成は経営課題である。そうした潮流のもと、伊藤氏もまたAI人材を育成する側にまわり、部門を超えて佐坂氏のような若手人材と向き合っている。
では、NECが行っているAI人材、データサイエンティスト育成の仕組みとはどのようなものなのか?佐坂氏の現在の立ち位置がその独自性を物語る。
佐坂私は入社2年目になった今も、金融システム本部のメンバーでありながらAI・アナリティクス事業部で働きながら学んでいます。
伊藤NECでは2013年から社内発のAI人材(AIを研究開発する人材とは異なり、AIを深く理解した上で、AIを活用して社会に新たな価値をもたらす人材)の育成プログラムを充実・拡大してきたのですが、社内で培ってきた人材育成ノウハウを生かし、2019年の4月に正式に「NECアカデミー for AI」を開講しました。
体系的な学びの場(研修)に加え、実践経験の場を提供することで、“即戦力の育成”を実現するAI人材育成サービスが、この「NECアカデミー for AI」なんです。私たちはこの実践の場を「道場」と呼んでいるんですけれど、佐坂さんは今その道場の門下生として、実際のAI関連プロジェクトにアサインされて現場で学んでいる、というわけです。
伊藤氏によれば、アカデミーの活用法は多様にあるという。プロジェクトの最上流フェーズにおいて、AI関連の専門知識を用いたコンサルティングを行う「コンサルタント」を目指す人もいれば、仮説検証フェーズにおいてデータ分析の専門性で貢献していく「エキスパート」を目指す人もいる。
さらに、プロジェクトの実装段階においてAIシステム運用上の問題解決を担う「アーキテクト」となるキャリアパスや、AIプロジェクトマネージャーとして関わっていく「コーディネータ」となるキャリアパスもあるとのこと。
個人の希望や携わる業界のニーズ等々によって、これらの中から最適なものを目指し、その目標に応じて学習内容や参画プロジェクトが変化していくというのである。
現在「道場」にいる佐坂氏は先々、所属部署である金融分野でAIの専門性を活かしたいと志している。その中で、例えば「エキスパートとして自立することが最も業界に貢献できる道である」と判断・決意したならば、アカデミーを通じて、その意向に見合う実戦経験と学習を得ることが可能なのだ。
佐坂とにかく私はAIについて何も知らなかったので、当初は「きっと難しいんだろうなあ」と想像し、イバラの道を覚悟していたんです。でも、やり始めたら本当に面白くて夢中になりました。
社内コンテストもまさか受賞できるなんて思っていなかったので、とても嬉しかったです。「難しそう」だと勝手に決め込んでいただけに、きっと何もなければAIには触れていなかったと思います(笑)。