シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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最後に久しぶりにカワイイ系を書けた、と思います


『ゴロゴロッ、ムニュムニュ』

 転移門(ゲート)を潜ると同時に視界が切り替わる。

清々しい自然の豊かな香りが薄い香水のようなものへ。夜空と街道の風景が艶やかな調度品や豪華な家具を備えたまだ薄暗い貴賓室へ。

 

(異常は……ないか。あぁぁぁあああぁああ――演技でメチャクチャ疲れた……)

 

 周囲を素早く見回した後、一気に押し寄せた精神的な疲労に内心でため息をつく。

視界の隅には薄いレースで覆われた天蓋付きのベッドがあった。最初に見た時モモンガとしてはまるでお姫様が使いそうなベッドなどできれば遠慮したかったが、今の姿ではむしろ似合っているので文句など言えようはずがなかった。

 だが今は遠慮なく全力でそのベッドに飛び込み、胸の中の精神的疲労を大きなため息とともに盛大に吐き出し、広いベッドの上でゴロゴロと無為な時間を過ごしたい。女の子がだらしないとか、スカートの中がとか、そんなものは社会人にとって些細な問題だ。以前の世界では鈴木悟はサラリーマン()だったが、忙しいOL()だって家では同じことをしていたハズである。多分。

 

 しかし飛び込みたいその衝動をグッと堪えて、ゆっくりとローブに手を掛けた。

背後にはあの場で周囲の警戒をさせ、合流後に一緒に転移門(ゲート)を潜ったフールーダがいる。そんな姿を見られてはこれからの彼との関係が気まずいものになってしまう。上司の醜態を部下がたまたま見てしまった時、それは仕事上の人間関係の亀裂に繋がる危険もあるのだから。

 

(今も気まずいと言うか、俺自身の苦手意識はこれから先も抜ける気はしないけどな……)

 

 とはいえそろそろ朝焼けの頃、こんな時間帯まで付き合わせてしまったブラックっぷりにかなりの罪悪感を感じてしまう。睡眠が不要になるアイテムを事前に渡してたとはいえ、正式には未だ部下でもなんでもない彼が付き合ってくれた事には大いに感謝しなくてはならないだろう。何か後日お礼になるもの――第十位階魔法の実演などいいかもしれない。

 

「あの、我が師よ。お尋ねしても宜しいでしょうか?」

「なに?」

 

 表面上はあくまで優雅にローブを脱ぎ白亜の仮面を外し、シャルティアとしてのいつもの衣装――漆黒のボールガウンを着た姿に淡々と戻った。

 

 内心ではどんなことを聞かれるんだろう、と少し身構えてしまっているが。

 

「なぜあのような少年に死の騎士(デス・ナイト)をお与えになられるので? 勿論、師の意向に背くつもりなど毛頭ありませんが……カジットと呼ばれるズーラーノーン幹部の男の方が上手く扱えると思うのですが」

 

 小さく安堵の息を吐く。ぶっちゃけそれ以外の質問は想定してなかった。

一応モモンガなりに考えた選択なので、きっと大丈夫――だと思いたい。やや緊張しながら振り返り、自身と同じように嫉妬マスクを外し終えたフールーダを見上げる。

 

「今夜の私たちの行動がもし誰かに露見した場合のための保険……かな」

「保険ですか……師は誰かに見られていたと?」

「私の対探知系魔法の攻性防壁には反応はなかったけれど、未知のタレントや力までとなれば流石に確かなことは言えない。だから万一の場合も考えておく必要があったの」

 

 というかそういう危機感が芽生えたのは、一目で十位階魔法を使うと見破った目の前の人物の影響だ。幸い本人は非常に友好的、もといチョット引くくらい友好的な人物だったからよかったものの、帝国やフールーダが敵対的であればあの西門で厄介なことになっていたかもしれない。

 

「もし誰かに知られた時、『悪名高いズーラーノーンに手を貸す』のと『帝国へ仇討ちしたい少年に同情心で手を貸す』のはどちらが聞こえはいいか? 言うまでもないでしょう」

 

 ズーラーノーンは周辺国家から敵視されているカルト集団。万が一にも仲間と思われては困る。

対してあのンフィーレア・バレアレという少年はエ・ランテルの薬師の子供。元はといえば『想い人を()()()()()()()()()』ための行動だ。

 勿論モモンガのいた世界では理由があっても殺しなどアウトだが、この世界にはそんな決まりはない。贅沢を言えば『恋人を殺された』であればより同情心を誘えただろうが、まぁ大義名分としてはアリだろう。

 

 ジルクニフは困るだろうが、彼自身(帝国)の身から出た錆として我慢してもらおう。

 

「なるほど。そしてゆくゆくはあの少年に見事ジルを殺させ、師自らがこの国を支配なさるという――」

「いやいやいやいやッ!」

 

 思わず目の前で手を何度も振り、何言ってるんだよこれ以上演技するとか無理だよ、と心の中で叫び声を上げそうになる。

 

「ジルクニフにはこれからも世話になるのだし、殺すのは流石に……助けを求められたら、いや求めてこなくてもちゃんと助けるから絶対! それに帝都(ここ)を侵略させる気はないから、学院生活もあるんだし」

「そうですか……」

 

 なんでこいつは少し残念そうなんだろうか、子供の頃からの教え子じゃないのか?

 

(騒ぎになればなるほど俺の魔法が見られるとか考えてないよな? ちょっと注意しておかないと……)

 

 一応モモンガ自身もジルクニフが事故などで死んでしまった場合、生き返らせて恩をさらに売ろうかと考えてはいた。ただ失敗した場合が(リスク)怖い。モモンガが行使できる最上級の蘇生魔法であればほぼ間違いなく復活できるだろうが、()()()()()()かもしれない。

 失敗し、灰になった時はそれまでだ。昼間の反応を見る限りでは、ジルクニフとは今後も良好な関係を構築できる気がする。王女の演技をこなすだけでも胃が悲鳴を上げているのだ、彼が死んで代わりの立場にモモンガが立てる気などこれっぽっちもしない。

 

「ではあくまで帝国軍と戦闘させるために、死の騎士(デス・ナイト)を十体エ・ランテルに用意されたということで?」

「そうだけど?」

「……少々多すぎませんか?」

「そうなの?」

 

 はて? と、二人して微妙に首を傾げる。

 

(あれ? ひょっとして二,三体くらい多かったか?)

 

 モモンガとしては、会談でジルクニフが言った騎士達の面目を立たせるための良い案だと思う。

王国軍と帝国軍、両国の軍隊が死の騎士(デス・ナイト)達相手に奮闘し、死力を尽くしたが惨敗。その知らせが帝国を始め周辺国各地に知れ渡り、ジルクニフの要請に答えてモモンガ自身がギルド名を背負って戦えば、ギルドメンバーに繋がるかもしれない名声が得られる。

 元々フールーダがカッツェ平野で自然発生した死の騎士(デス・ナイト)を一体捕縛したと聞いた事を踏まえ、帝国軍にちゃんと負けてもらうために多めの数を用意したんだが駄目だっただろうか?

 

「まぁ多いに越したことはないでしょう、ようは帝国軍に負けて貰えさえすればいいわけだから」

「確かにそうですな」

 

 そう考えると死の騎士(デス・ナイト)を百体渡してもよかったかもしれない。

まぁ召喚できる数に一日の上限がある様で今すぐにはできないし、それに数だけなら殺した相手を従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)として味方にできるスキルが死の騎士(デス・ナイト)にはある。

 

「しかしあの少年引き受けますかな?」

「どうかな……」

 

 カジットというスペアはあるが、できれば自主的にコチラの提案に頷いて欲しい。

それに魔法詠唱者としては問題はないがあの少年の持つタレントは素晴らしく、そして逆に言えば厄介な代物だ。

 

 ――ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能とするタレント

 

 今すぐどうこうという訳ではないが、将来を見越せば味方に引き入れるか協力者という関係を築くべきだ。例えば『アンデッドを一撃で殺すマジックアイテム』などを彼が手に入れた時、モモンガと敵対していれば最悪のケースを想定しなくてはならない。

 死の騎士(デス・ナイト)を貸したことは保険のためと言ったが、周囲という意味だけではなくあの少年に対しても有効になる。万が一にも敵対してしまった時『あの時、力を貸したホニョペニョコは実は俺だったんだよ』と言えば、矛を収めてくれるかもしれない。傍から見れば情けない命乞いになってしまうだろうが、それでこの体を守ることができるならモモンガにとっては安いものだ。

 

「まぁそれは時間が経ってから考えましょう。もうそろそろ日が昇りそうだし、眠くならないとはいえ全く休まないわけにもいかない。私も……色んな意味で疲れたから少し休ませてもらおう」

「おぉ! これは配慮が至らず失礼いたしました。では私はこれで失礼いたします」

 

 モモンガが少し疲れたように演技をしながら肩を落とすと――半分は本気だが――フールーダは背中を直立させた後、恭しく頭を下げた。

 

「外にいるレイナースにもそう伝えておいて、それとフールーダには後日なにかお礼――報奨とでも言えばいいかしら? なにか希望があれば考えておくように」

「ッひょ!? ……宜しいのですかッ!」

 

 頭を下げていた頭が伸ばしきっていたゴムのように勢いよく戻ると、らんらんと目を輝かせた満面の笑顔をしたおっさんがいた。鈴木悟としてはなんというか色々とキツイものがあるが、多分ユグドラシルの課金ガチャでは自分も似たような反応をしてたと思う。そう思えば微笑ましいものに見えなくもない。

 

(でも俺はここまで酷くなかったよな……いや、流れ星の指輪(シューティングスター)を手に入れた時はこれ以上だった気が――考えるのはやめとこう)

 

 かつて貧困生活に堕ちるほどガチャを回して手に入れた超希少アイテム『流れ星の指輪(シューティングスター)』。

ボーナスを全部注ぎ込みようやく出た時の自身の阿鼻叫喚ぶり、ギルドメンバーであるやまいこが一発で当てたという時の理不尽過ぎる衝撃。

 

 そんな色んな意味で思い出深いアイテムがもう存在しない悲しみを感じそうになり、モモンガは興奮するフールーダを落ち着かせる作業に意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――パタンッ

 

「……ハァ~」

 

 頭を下げながらフールーダが退室し、モモンガは心の底から安堵のため息を吐く。

とりあえず報奨の件はモモンガの言った通り後日ということになり、落ち着きを取り戻したフールーダはいそいそと退室していった。その足取りはスキップしてるのではないかと思うほどフワフワしたもので、再度モモンガを微妙な気持ちにさせたが。

 

(まぁ喜んでくれたみたいだしいいか……さて)

 

 小柄なシャルティアの体で見上げる巨大な窓の外は、まだ空が白み始めた頃。

つまり時間はまだたっぷりあるという事だ。そもそも睡眠が必要のない体だが、なにもせずぼんやりベッドに転がることができる時間というのは社会人にとって大変貴重な物。サラリーマン的内容の労働でもないし終電帰宅と言える時間でもないが、押し寄せる精神的疲労の前では些細な問題だった。

 

「あああああ~」

 

 戸締りと防音、探知防御などの情報系魔法の効果を念入りに確認した後、ベッドに歩み寄る勢いのまま倒れこむようにダイブし、少女の声でおっさん臭いため息を盛大に吐き出した。ベッドのふわりとしたクッションは軽い体重を優しく包み込み、モモンガに一時の安らぎを与えてくれる。

 

(ホントニツカレタ、疲れたよー……)

 

 当然日付は変わっているだろうが、思えば二十四時間働き詰めだった気がする。

帝都到着前の馬車の中でした最後のリハーサルと白いドレスへの着替え。西門でのフールーダとの色んな意味で疲弊した初対面。レイナースを眷属にした初めての吸血行為。その後のジルクニフとの会談。

 

(レイナースの肩白かったなぁ……ジルクニフとは友人になれそうな気がする……)

 

 こちらから頼んでもいないのにギルドメンバーを探してくれていた事には本当に感心した。

勿論彼の立場でそうするメリットがあったのだろうが、お互いのメリットが今後も共有できるのであれば少なくとも良い仕事友達にはなれる気がする。ロクシ―との食事は初対面の女性ということもありかなり緊張したが無難にこなせたと思う、多分だが。

 そしてズーラーノーンの件まで考えそうになり、思考を止める。冗談では済まないくらいちょっと頭がオーバーヒート気味だ。人として言えば精神がすり減るような一日を過ごしたため、もう何も考えたくない。

 

 無心で体重をずらし――天蓋付きの広いベッドの上を転がり始めた。

 

 ゴロゴロッ、ゴロゴロッ、上へ下へ三往復ほどして、ピタリと体重移動を止めた。

 

 

(……どうしよう、胸がすごく邪魔だぞコレ)

 

 強靭なステータス故か、それともペロロンチーノ秘蔵のエッチな下着のおかげなのか、痛みは全くないが胸という凹凸のせいでスムーズに転がることができなかった。少女という体重の軽さも原因だろう、これはモモンガのメンタル回復行為にとって深刻な問題だ。

 

 検証のため試しにもう一度転がる。

 

 ゴロゴロッ、ムニュムニュ。

 

(あー……駄目だなこれ微妙に圧迫感がある。やっぱこういうことを家でするのはサラリーマン()だけでOL()はしないのかな。どうしたものか……)

 

 凹凸もなく太ってもいなかった鈴木悟の体が懐かしい。

対処法として今すぐ考えつくのは、背中を逸らし海老ぞりになって転がるか、上半身だけベットの外に出し腰から下だけで転がるか――

 

(どこのヨガ教室だよ。この体だったら余裕で出来るだろうけど、ストレッチ的なものは求めてないんだよなぁ。そうなると……)

 

 ベッドの一番上のフワフワした白い羽毛布団を掴むと潜り込み、顔だけ出す。

ミノムシのような簀巻きのような、はたまた首から下が雪だるまのようなシュール絵面だと思うが、どこの誰が見てるわけでもないのでこの姿で転がることにした。

 

 コロコロッ、コロコロッ、

 

 幾度か試し何の抵抗もなく転がる事が出来る事を確認した後、再び安らぎの時間を過ごす。

 

「あぁ~~~……ほんと疲れました……」

 




 ようやく作者的にもシンドイ2章終盤の数話が終わったっす……多分ギャグ作品が私には向いてると思うのですが、こういう話もちゃんと書けるようになりたいものです。
 このフラストレーションは3章で晴らすとしようそうしよう。


 という訳で2章がようやく終わりました。3章開始までにすることはたぶん三箇日に活動報告を上げます。

・書き溜め短期放出のため3章開始は1~2か月後(一応2カ月と考えといてください)
・1章2章で削除or修正する話があります(『ズーラーノーン』『死体の利用方法』等)
・積みゲー消化させてくださいお願いします。


 最後に3章サブタイトルアンケート置いときます、シナリオに関わることはないので適当に面白そうなタイトルに投票お願いします。
(文字数制限で短くなってしまったので末切り、下記が正式)
1,モモンガ様が見てる
2,何でもお願いを聞いてくれる友達100人できるかな?
3,偶然出会った可愛い女の子は、大体転校生で隣の席になると決まっている

3章サブタイトルアンケート(例によって1位を選ぶとは~)

  • モモンガ様が見てる
  • 何でもお願いを聞いてくれる友達100人~
  • 偶然出会った可愛い女の子は、大体転校生~

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