シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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やはり3日更新を維持できなかった糞雑魚作者であったか(泣)

前回も書きましたがモモンガさんは無機質な声でホニョペニョコ演技中


王国戦士長(ガゼフ・ストロノーフ)

「ホ……ホニョペニョコ……?」

 

 目の前のローブの塊が名乗った言葉に、自分でも分かるほど困惑した声が口から漏れ出る。

偽名か? と一瞬疑いはしたが、告げられた名前を考えるとその可能性は低いのかもしれない。そのような変わった――もっと言えば奇妙な名前に偽る理由が少なくともガゼフにはわからなかった。偽名を使うならばこの周辺一帯の国でありふれた名前にすればいい。

 

 遠方の文化による独特な言語か異種族の名前か、ガゼフに考えつけたのはそれくらいだった。

 

「そうだ! ホニョペニョコだ」

 

 コクリと大きく頷く小さな黒のローブ。

表情すらわからないがどこか誇らし気な、自慢するような雰囲気が感じられる。背丈を考えればまるで子供のような仕草だった。

 奇妙などと考えてしまったが、本人にとっては特別な意味を持つ名前なのかもしれない。縦に動かしていた顔の部分をピタリと止まると、後ろを振り返りもう一人の大きいローブに目を向けた。

 

「そして後ろにいるのがフー……ふ、ふぅ……不肖の私の弟子だ!」

「おおおぉおぉおぉぉおッ! 我が師よ! 初めて私の事を弟子とッ!?」

 

 なぜか弟子と紹介された側が飛び跳ねる様に喜んでいたが「少し黙っていてくれ……頼むから」と、ホニョペニョコが告げるとピタリと止まり後ろへ下がっていった。

 

 「私は……」顔に右手を当て、霧がかかった頭から記憶を掘り起こす「ガゼフ・ストロノーフ。そちらは既にご存知のようだが……私を復活させたと? ホ……ホニョペニョコ……殿が?」

「そうだ。それで、ガゼフ・ストロノーフ。体に異常はないか? 思考と記憶は? ズーラーノーンと戦ったならば覚えている限り、全て教えて欲しいのだけど――」

 

 質問を矢継ぎ早に投げかけてくるホニョペニョコ。

子供と言ってもいい身長差も相まって、冒険者や騎士に憧れる少年を彷彿とさせる。それを無視――するわけではないが、投げかけられた質問を理解すると無意識に辺りを見回してしまった。

 「ここは……」周囲は不気味なほど静まり返っており、三人を囲う様に光のドームが照らしていた。おそらく何かのマジックアイテムか魔法だろう。周りには人気のない崩れた建物、廃墟の世界が広がっていた。

 

 鈍った頭に喝を入れ記憶を掘り起こす――血に染まった部屋の中に転がる無数の部下だった者達の亡骸。意識が遠ざかる中、僅かに耳に残る男の声と女の声。胸が熱くなる感覚とともに、僅かに残っていた意識が暗い闇の底に落ちるような感覚。最後に残っていたのはそんな記憶だった。

 

「ふむ、やはり少しの混乱が見られるか。千切れていた腕は再生したけどレベルの消失もありそうだし、もっと上位の復活魔法ならその辺りが緩和される可能性もあるな……」

 

 ガゼフを見つめ、まるで観察するようにぶつぶつとローブの中で呟くホニョペニョコ。

 

「とりあえず移動しよう。ここは安全と言うわけでもないし、飛びながらでも話はできる」

 

 そう言うと手を無造作にこちらに向けると、ガゼフ自身の体が浮き上がった。

突然の事態に驚き「何をッ――」と慌てた声が出るが、眼前にいたホニョペニョコともう一人のローブも浮き上がりガゼフと同じ高さまで上がってきた。

 

「体も本調子ではない様子、とりあえず王国側まで送ろう。その間に蘇生魔法の代金代わりに色々教えてもらえると助かる」

「……しょ、承知した。だが、ほんの少しだけ待って頂けないだろうか? あの家には私の部下達もいたはず。中がどうなってるのかは理解しているが、形見になる物をいくつか取っていきたい」

 

 チラリと浮き上がった体から壁が崩れた小さな家を見下ろす。

長く深い眠りから覚めたような不鮮明な記憶だったが、ハッキリと思いだしてきた。中でもあの女――クレマンティーヌの薄気味悪い笑顔を鮮明に思い出す。エ・ランテルの住人をできるだけ逃がすためだけの負け戦、自身も部下達も誰一人逃げ出さず時間稼ぎのためにその命を燃やした。

 その後生かされた者は予想通りの扱い、部下達と共にあの女の玩具となり最後には殺されてしまった。拷問とすら呼べないあまり思い出したくもない光景だが、あの家には死んだ部下達がまだ残っているかもしれない。

 

「少しであれば構わない、私たちも手伝おう。ただしくれぐれも手短に」

 

 小さなローブの中から了解の言葉を得る。

頷き相手に感謝を伝え、宙に浮きあがっていた体を家の前で降ろしてもらう。まだふらつく体を引きづり、壁に空いた大きな穴から中を覗くと凄惨な光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――クレマンティーヌという女についてはこれくらいか。申し訳ない、あの刺突武器には魔法が込められているハズなのだが、何の魔法かまでは……」

「ズーラーノーンの幹部にカジットという人間がいるはずなのだけれど、それとマジックアイテムについては?」

「すまない……あの女が事あるごとに『カジッちゃん』と呼んでいた男だと思うが、戦い方を見ていないので強さはわからない。ズーラーノーンの幹部だけあってネクロマンサーなのは間違いないと思うが」

「ふむ」

 

 深夜、闇が深すぎて地表の様子はわからないがおそらく草原の上空。

形見の荷物と腰に剣を差し、血と穴だらけだった鎧を脱ぎ捨て着替えたガゼフは満天の星空の中を恩人二人とともに進んでいく。ただガゼフの体を気遣っているのか、速さは人が少し走る程度に抑えられていた。

 

「一つ私からも質問してもよいかな?」

「……正体や目的だったら話せないけれど」

 

 中空を飛びながら未だにローブで全身を覆った隣の人物に目を向ける。

 

「なぜ蘇生魔法を使ってまで私を蘇らせたのかをお聞きしたい」

 

 ローブに隠れた相手の目は見えないが、その見えない目を探る様に見つめる。

死体となった部下達も復活させてほしいなどとは言えなかった。ガゼフ自身もそうだったが、彼らも死ぬことを承知でズーラーノーンから逃げる市民達のために死地に赴いた。民を守る戦士としての覚悟あっての結果、悔いはないはずだ。

 それに知り合いのアダマンタイト級冒険者から聞いた話だが、蘇生魔法には高額な材料が必要になる。彼らは二人とも軽装に見えるが、なぜそんな物を持って死の都になったエ・ランテルへ侵入したのか。今のところ一方的な恩義しかない彼らにそれを尋ねるのは不義理であるし、先の言葉通り答えてはもらえないだろう。

 

 ただ正体を明かさない彼らが何のためにガゼフ・ストロノーフを――王国の戦士一人をわざわざ蘇らせてくれたのか、ただ単に情報収集のためなのか、他に重要な狙いがあるのかそれを知りたかった。

 

「情報の他にという意味であれば、あなたが死んだと聞いて自暴自棄になっていた『知り合い』がいたから、かな」

「そうか……生憎と心当たりはないのだが、機会があればすまなかったと伝えておいて欲しい」

 

 無言で相手が頷くのを確認し、浮遊魔法に身を任せたまま考えをまとめる。

おそらくそれだけではない、他にも理由はいくつもあるのだろう。彼らの狙いはわからないが、少なくともズーラーノーンの味方ではないのは間違いない。幹部の力に注視し、情報を集めようとするのは敵対関係の表れのように思える。

 彼らもズーラーノーンと敵対関係ならば、後々共闘することを考えてガゼフを蘇らせてくれた可能性もある。無論それはガゼフの一方的な希望である事は理解しているが。

 

「ホニョペニョコ殿、本当に感謝する。この恩義はいつかどこかで必ず返そう」

「先も言ったように情報が代金代わりで構わないけど」

「そうか……それでも王都に来られた時は是非家に寄っていただきたい。その姿のままでも構わないので、精一杯の歓迎とお礼の品を用意するとお約束しよう」

「……考えておこう」

 

 気のない返事をする相手を観察する。

未だに人間なのか、男か女なのか、それともオスかメスかさえわからないが話せない御仁ではない。

 

 そしておそらく確実に強い、自分などより遥かに。

 

 後ろを飛ぶもう一人にも似たようなものを感じるが、その師匠と思われる人物にガゼフの勘は最大限の警戒を叫んでいた。

 

 何者なのか。願わくば王国の――王の味方であってほしいとガゼフは真剣に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りで構わない」

「いいの? もう少し近くまで運んでも問題はないけど」

「気遣っていただき感謝する。確かに本調子とは程遠いが、周囲には哨戒する者もいるはずだ。子供の足でも辿り着けるだろう」

 

 時刻は変わらず深夜の草原、先ほどまで暗くどんよりとした闇の中に篝火がいくつも焚かれ、複数のテントが張られた空間があった。その篝火に照らされた王国貴族の旗、つまりガゼフにとっては味方となる陣営を確認すると、浮遊魔法を解いた面々は近くの森へ静かに降下した。

 

(位置からしてエ・ランテル解放のための貴族直属の騎士団……それにしては数が少ないように見えたが、先遣隊か分隊か?)

 

 片手を木に添え部下達の形見が入った袋を肩に担ぎ、しばらく地面から離れていた足の調子を確かめるように何度か小刻みに振る。未だに全身が重い脱力感は抜けない。今の状態で強いモンスターにでも出くわせば苦戦は免れないが、王国貴族の陣地は目と鼻の先だ。さすがにこの距離を歩けないという事はない。

 

「レベ……生命力の消失とやらでしばらくは上手く体を動かせないだろう。養生なさる事だ」

「御心遣いに感謝する。知り合いのアダマンタイト冒険者で蘇生魔法を使える者がいるので、王都に戻った際にその辺りを詳しく聞いてみよう」

「ほぉアダマンタイトで蘇生魔法を……その名前を聞いても?」

「……蒼の薔薇というチームだが?」

 

 彼、もしくは彼女が初めて興味深げな質問を投げかけてきた。

王国でも有名な冒険者チームを知らない、その事を不思議に思ったが既に名が知られている彼らのチーム名、特に隠す事でもないので正直に答える。

 

「我が師よ。その者達については私に少々伝手がございますので、お帰りになった際に改めて――」

「そうか……そうだな。ではガゼフ・ストロノーフ、話はどうやらここまでのようだ」

 

 後ろに控えていた弟子が何事か告げると、大きく頷き別れの挨拶を口にするホニョペニョコ。

確かに彼らがここに来たのはガゼフを送り届けてくれるためだ、無論このまま王都まで同行してもらい王に直接謁見してもらえればとガゼフは思っている。望めば多大な報酬も下賜されることだろう。ただ相手がそれを考えていないわけもないし、それを口にしない理由は未だに姿を隠していることからもわかる。

 

 であれば……、いや、そうでなくとも自分にできる事はこれくらいだ。

 

「ホニョペニョコ殿――」

 

 恩人の名前を口に出し、深く頭を下げる。

出来れば相手の手を握り謝辞を伝えたかったが、これまで顔どころか腕まで見せてはいない相手への感謝となるとこうする他ない。頭の向こうの気配に変化は感じられなかったが、構わず精一杯の感謝の言葉を並べる。

 

「私などに貴重な蘇生魔法を使っていただき、さらにはエ・ランテルから脱出させていただいた事、本当に、本当に心から感謝する。無論戦場で命を落とす覚悟は持ってはいるが、死から蘇り再び王の剣になれるとなれば、これ以上の喜びはない。今はこうして頭を下げる位しかできないが、道中も言った通り王都にある我が家の門はいつでもお二人に対して開いている。どうか――」

 

 ポスッと鈍った肩に手のようなものが乗る感触。顔を上げると間近に迫ったローブの顔の部分があった。

 

「そこまでされると少々こそばゆいというか……あまり気になさる事はない。あなたを蘇らせたのは知り合いのためとズーラーノーンに関する情報の他にもこちらに利がある事。無論口にはできないが」

 

 ローブに包まれた手を戻すと肩の部分を揺らし、どこかおどける様に小さな笑い声を漏らすホニョペニョコ。

その様子にこれまで姿を含め、感情の一切を隠していた彼の心の動きを初めて目にした気がした。

 

「……そうか、だが文字通り命を助けていただいたのは事実。先の言葉覚えておいていただけるとありがたい」

「覚えておこう。これからやる事が多いので期待には添えそうもないが」

 

 そう告げると同時にホニョペニョコが浮き上がる、遅れてその背後にいた彼の弟子も。

 

「では失礼。言うまでもないけれどその身体でズーラーノーンと戦うのは無謀、しばらくは療養に専念されることだ」

 

 無機質な声で告げられる気遣いの言葉に感謝を伝えるため、ガゼフは再び頭を下げる。

黒いローブに身を包まれた二人の姿は夜空に既に溶けていたが、出来るだけの感謝を体で示すためしばらくそのままでいた。




最後に少し喋り過ぎたホニョペ――モモンガ様の狙いは次話にて。

シリアス?が続くけど年内に2章終了はできるハズ、後4話くらい頑張るぞい

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