ぜんざいをすっきり上品に煮あげる秘訣

定番メニューをおいしく作る方法を、その理由とともに解説する本連載。新年最初のテーマは「ぜんざい」です。小豆を煮る時のコツさえつかめば、上品でおいしいぜんざいが楽しめます。

1月11日(関西では15日)にはお供えしていた鏡餅を下げる鏡開きという行事があります。家に鏡餅がなくても、お餅を食べて、一年の息災を願うのもいいでしょう。今回、紹介するのは焼き餅を入れたぜんざいです。

小豆の加熱は調理科学が取り上げやすいテーマらしく、様々な論文が報告されています。それらを参考に今日は豆が崩れず、さらりとして上品な味のぜんざいに仕立てます。

ぜんざい

材料(4人前)

小豆(新豆)…150g(1合)
砂糖…120g
餅…4個

1 小豆はザルで洗い、水1Lとともに鍋に入れ、中火で加熱する。沸騰したら弱火に落とし5分間煮て、ザルで水を切る。(この工程を渋切りという)

2 鍋に戻し、新しい水1Lを加えて中火にかける。沸騰したら弱火に落とし、1時間煮る(静かに煮ればアクはほとんど出ないので無視しても大丈夫です。アクが出てくるようであればとりのぞき、火を弱めましょう)。時間が経ったら小豆を一粒食べて、しっかりとやわらかくなっているか確かめる。硬ければやわらかくなるまでさらに煮る。

3 砂糖を半分入れて、5分間煮て、残りの砂糖を入れてもう5分煮れば完成。餅はフライパンに入れ、中火で4分間焼き、裏返してもう4分焼く。焼き色が欲しければ焼き網を使って直火で炙る。出来上がったぜんざいに焼けた餅を入れて、食べる。


小豆の科学

スーパーに行くと『北海道産小豆』や『大納言小豆』などの名称で、様々な種類が売られています。普通の小豆と大納言の違いは粒の大きさなので、どちらを使っても同様につくることができ、ぜんざいにするのであれば味に差はありません。それよりも重要なのは『新豆』と表示があるパッケージを選ぶことです。小豆は古くなると水分を吸収しづらくなり、加熱時間が余分にかかるからです。

小豆を煮て、ぜんざいやあんになる過程にはデンプンの糊化をはじめ複雑な化学反応が関わっており、特有の風味の要因になっています。小豆を煮るには様々な作り方があるので、正解がよくわからない料理の一つです。例えば今回、購入した袋の裏側には「小豆を水に漬け」「煮汁は捨てない」方法が紹介されています。

小豆の加熱は先行研究が多数あり、少し古い論文ですが『小豆あんの製造工程と品質の関係について』(畑井朝子)が参考になります。この論文では様々な調理条件で小豆を加熱し、その差を検討していますが、渋切りをすると「色や香り、味が淡白になり」浸水については「水温が低いと小豆が水を吸わない」ことが報告されています。これらの結果を参考に今回のレシピでは小豆は水に浸けずに、短い時間加熱した後に渋切りを一度だけ行っています。

袋を開けたばかりの小豆を水に浸しても、へそからしか水を吸いません。そのため、加熱で皮を柔らかくしつつ、全体から吸水させたほうが合理的とされています。浸水をするメリットは加熱時間が短くなることですが、デンプンが水を吸って急激に膨らむため、皮が破けやすくなるというリスクが増します。今回は皮が破けないぜんざいを目指しているので、このレシピでは浸水はしません。

一方、上品な味に仕上げるために渋切りは行っています。しかし、渋切りは面倒であればしなくてもかまいません。渋切りを省略したい場合は苦味成分であるタンニンの少ない新豆を使い、豆が崩れるくらいまで煮て、甘みをしっかりとつけて濃厚な味のぜんざいにしたほうがいいでしょう。

小豆を煮る際にはよく「びっくり水」(差し水)をするといいとされています。びっくり水とは沸騰した際に温度を下げるために加える冷水のこと。

小豆を加熱していくと最初に豆表面のデンプンの糊化が進みます。糊化したデンプンは水を吸いづらいのでそれが壁となってしまい、中心まで火が通りづらくなるとされ、そこで加えるのが冷たい水=びっくり水です。湯の温度を下げ、豆の表面と内部の温度差を縮めることで煮えムラを防ぐことができる、とされています。はたしてこの作業は必要なのでしょうか?

『赤飯用小豆の調理に関する研究』という論文によるとびっくり水をすることで、豆が急速に水を吸うものの小豆が割れやすくなることが報告されています。浸水のときと同様にデンプンが急激に水を吸うことで、膨張するからです。今回は小豆が割れない仕上がりを目指しているので、びっくり水は入れず、その代わりにこのレシピでは一度、渋切りをして、豆の表面と内部の温度差を減らしています。渋切りをしない場合でも豆が割れてしまうのはあまりいいことではないので、びっくり水を入れる必要はないでしょう。

浸水、渋切り、びっくり水など昔から言い伝えられているコツはいくつもありますが、なによりも重要なのは「(砂糖を入れる前の段階で)小豆をやわらかくすること」で、これ以上のコツはありません。

もしも、小豆が硬ければ水を増やしてさらに煮ればいいですし、早くやわらかくなってしまえば茹で汁を少し減らしてから、砂糖を加えればいいでしょう。茹で汁の量の目安は豆がひたひたに浸かっている程度。豆がやわらかくなる前に砂糖を入れてしまうと、砂糖の力で小豆から水分が抜けてしまうので、なかなかやわらかくなりません。こうなってしまうと失敗なので、きちんと味見して硬さを確かめることが重要です。食べてみてコリコリ感があればまだ充分ではないということです。今回、砂糖を二回にわけて加えているのは、一度に砂糖を加えると豆が硬くなるからです。

砂糖の量の目安は小豆の重量の80%。小豆のパックは150g〜250gとまちまちですが、砂糖の分量を計算すれば大丈夫。水の量は鍋の口径や火力によっても変わってくるので、あとは状態を見ながら判断していく必要があります。常に豆が水分に浸っている状態になっていれば計らなくても問題ありません。

冷凍保存ができるので多めに作って冷凍しておくと、寒い日などに重宝します。これだけいろいろなことが明らかになっている現在でも小豆についてはまだわからない点が残っており、例えば小豆の特徴的なあの赤色の色素がアントシアニンではなく、新しい色素であると報告されたのは2019年2月とごく最近のこと(名古屋大学 赤小豆の種皮に新種の色素を発見!)。食べ物の世界にはまだまだわからないことがあり、だからこそ料理は奥が深いのです。

この連載について

初回を読む
おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    コメント

    obonbonbon ぜんざい作るのに小豆缶詰を使わずに小豆を煮るところからやるって発想なかったのでやってみたい。 https://t.co/gZw1MAKg6y 34分前 replyretweetfavorite

    huyuno_uta https://t.co/x3ysFFcpUI 約1時間前 replyretweetfavorite

    naoya_foodlab 渋抜きする必要はなさそうなんですけど腹切り(小豆の皮が破れること)を防ぐ効果ぎ大なので取り入れました。 約4時間前 replyretweetfavorite