世界最大の同人誌即売会イベントである「コミックマーケット(通称:コミケ)」にCyclistに海外ロードレース情報を寄稿しているあきさねゆうさんが参加しました。一般参加・サークル参加(出展)を通じて初参加という、ドがつくコミケ素人とのことでしたが、3時間半で用意した140冊を完売。Cyclistの読者のなかで、これからコミケに自転車ジャンルで出展してみようかなと思う方に向けて、気をつけるポイントなどまとめてもらいました。
初めての出展でしたが、あっという間に完売御礼となりました。計画立案、在庫管理、値決め、広告宣伝など、商売の基本が詰まったとても良い社会勉強になりました Photo: Yuu AKISANE
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私は「コミックマーケット(通称:コミケ)」に対して「オタク」「コスプレ」「大行列」というイメージしか持っていませんでした。一度くらいコスプレ鑑賞に行ってみようかなと思ったことはありましたが、かつてコミケ慣れしている人から「興味本位で行くところじゃない」と一刀両断されたことがあり、自分には一生縁がない場所だと思っていました。
ところがある日、自転車レースの観戦仲間の友人から「コミケ出ましょうよ!」と誘われました。自分が出られるの?と聞くと、「申込みすれば抽選で出られる」とのこと。何を出せばいいの?と聞くと、「過去のブログの記事をまとめたものでも全然大丈夫」と言います。
だったら、電子書籍でいいのでは?と聞くと、「“本”という実物を手にとって読みたいんですよ。そういう層は一定数います!」と強く主張されました。
さらに、その友人が売り子として当日も手伝ってくれるとのことで、だったらやってみようじゃないか、となりました。
コミケ参加最初の関門は「申込み」
「サークル参加申込書セット」なるものを購入して、書面を郵送することで申込みすることも可能だそうですが、私はオンラインで申込みしました。40年以上続くイベントなので、郵送申込みが残っているのかなと思うので、これから参加しようとする方はオンラインでいいと思います。
しかし、この申込みに関して友人からは「絶対に間違いがないように慎重にやってくださいね。ここでミスがあると、問答無用で落選しますから」と念を押されました。どうやら、とてつもない申込み数があるため、申込み内容に不備があっても、いちいちサポートしてもらえないようです。しかも、申込書セット購入代やシステム使用料などで2000円程度の費用がかかり、これらは落選しても返金はありません。
申込み自体がそこそこハイリスクではありますが、友人いわく「自転車関連は競争率が低いので、たぶん通ります」だそうです。(そして実際に通りました)
オンライン申込書は税込み2200円かかるので、入力は慎重に ©サークルドットエムエス
左側の四角い画像がサークルカットと呼ばれるもの。カタログに表示され、ある意味ではサークルの「顔」となるのでじっくり作成すべきものだと思います Photo: Yuu AKISANE また、申込みする際に「サークルカット」という画像を登録する必要があります。ファイル形式、画像サイズなど細かく指定されているので、画像作成に慣れてない方は締切間際になって慌てる可能性が高いです。私は慌てました。締切まで余裕を持って申込み作業をすることをおすすめします。
無事当選!内容に応じて印刷方法を決める
SNSでの告知用につくったお品書きの画像。本のデザイン、こうした画像のすべてはデザイナーの友人に作ってもらいました Photo: Yuu AKISANE 申込みをしたのは8月頃、当選が判明したのは11月上旬のことでした。メールとかで案内は来ませんので、当選発表の日にWebで調べる必要があります。知らずに私は一生懸命メールフォルダを探していました。
めでたく参加が決まったので、制作の準備に取り掛かりました。私が作ろうとした本は4種類です。うち3冊はコラム本で新書サイズで各60ページ前後を想定、うち1冊はワールドチーム全チーム全選手をプレビューする選手名鑑でB5サイズで150ページ超を想定していました。
同時に、製本方法を決めねばなりません。私が検討した方法は次の4パターンです。メリット・デメリットも併記します。
1、コンビニで印刷して、自分でホチキスで製本する
○メリット:24時間いつでも印刷可能、安い、1部から製本可能
×デメリット:すべてコピー紙なので見た目がショボい、ホチキス止めの作業が大変、凄い良いホチキスを持っていないと厚い本は作れない
2、キンコーズなど性能の良いプリンタで印刷し、自動製本(ホチキス止め)
○メリット :一部店舗では24時間いつでも印刷可能、コンビニよりさらに安い、表紙に上質紙を使用可能、1部から製本可能
×デメリット :最大80ページまで、最小サイズがB5まで
3、オンデマンド対応の印刷所で製本
○メリット :表紙をPP加工(ビニールコーティング的な)できるので見た目が良い、無線綴じできる、サイズ・紙質のバリエーションが豊富
×デメリット :納期によって価格が変わる、コンビニ・キンコーズに比べると高くなりがち、10部単位で発注しないといけない
4、オフセット対応の印刷所で製本
○メリット :オンデマンドに比べて、大量印刷時は最もお得、品質が最高
×デメリット :少量印刷時はコスパ悪い
まずオフセットですが、私の場合200部ほど印刷しないと、オンデマンドより安くならない計算だったので真っ先に除外しました。
4種類で計140部は準備するつもりだったので、コンビニ製本は作業が大変すぎるので除外。150ページをオーバーする本を作成していたので、キンコーズも除外(調べてみるとキンコーズは様々な印刷方法に対応しているみたいですが、初心者には向かないと思うので割愛)。
実際につくったコピー本。50部を折って、中央でホチキス止めするという作業は思った以上に大変で1時間くらいかかりました Photo: Yuu AKISANE なので、オンデマンド対応の印刷所を選びました。参考までに私は「サンライズオンデマンドサービス」という印刷所に依頼することにしました。
ただし、後述するおまけ本はイベント前日まで執筆していたので、コンビニで製本しました。ちなみに、この方法で制作した本は「コピー本」と呼ばれるそうです。
今回の私の場合は、文字が主体となっているため、画質には全くこだわっていません。イラスト中心の方は、また別の観点があるかもしれませんのご注意を。
いざ入稿!印刷所との調整は経験が超重要
ということで、印刷所の納期に間に合うように作業をすすめて、いざ入稿です。サンライズさんは、入稿すると確認の電話が必ずかかってきて、細かい調整を行います。場合によっては、差し替え対応となり、私は入稿した原稿すべてで何かしらの差し替えが発生しました。
筆者がジャパンカップで撮影した写真を加工して表紙に使おうとしたところ「実在の人物が映っている場合は、その人から使用許可を得ないとNG」という規定のため使用不可に。パブリシティの観点でOKでも、印刷所の規定に反していたらNGです Photo: Yuu AKISANE
言われてみれば当然という内容もたくさんありましたが、初めての試みだとなかなか気付かないものです。しかも、入稿したのが納期当日だったため、当日中に対応しないと価格が上がってしまうということで、かなり焦りました。ミスする前提で1日前倒しして入稿するくらいがちょうどいいと思います。
当日の準備も入念に
コミケ当日に必要な持ち物とその理由を、列挙してみます。
・サークルチケット
→これがないと入場できません。指定された時間内に指定された場所で入場しましょう。
・制作した本
→自宅に納品していた場合はスーツケースやキャリーに乗せて搬入します。量が多いなら会場搬入がおすすめ。
・大きめなテーブルクロス
→殺風景な会議用テーブルを装飾するためのものです。
・お品書き的なPOP、値札
→あればわかりやすい。
・マジックペン
→完売したときに、完売って書くために使いました。
・お金を入れる袋、コインケース
→過去に盗難事件なども発生しているので、自己管理しやすいように。
・売上とか記録する紙やメモ帳
→記録しないと訳わからなくなります。
・お釣り
→価格設定にもよるが、100円玉が100枚、1000円札10枚くらいあれば安心と思いました。ちなみに、年末に銀行(メガバンク)で両替しに行きましたが、「在庫がない」と断られました。かといってゲームセンターなどで両替するのはマナー違反です。前もって準備するのが大事です。
・お昼ごはんや飲み物
→買いに行く暇はありません。飲み物は重宝しましたが、食べる暇はありませんでした。
・簡単な差し入れ(カントリーマアムみたいなちょっとしたお菓子でOK)
→付近のサークルの方や、本を購入してくれた方へのちょっとしたプレゼントとして渡します(コミケにはそういう文化があるのです)。
・おまけ
→私はおまけとして、8ページ程度のコピー本を制作して、購入者限定コンテンツとして提供しました。売り残った本は、通販で販売しようと思っていたのですが、通販は送料や手数料が上乗せされるといっても数百円程度です。コミケはそもそも入場料が1000円程度かかっているので、交通費とあわせてかなりの手間をかけて来場している方々だからこそ、限定コンテンツになる「おまけ」で手厚くおもてなしすることはとても重要です。ここを差別化しないと、通販でいいじゃんとなるので、わざわざ来場して買う人が減ると思います。
セットアップが完了した当日の販売スペースです。持ち込んだ荷物や、残りの冊子はテーブル下に収納しています Photo: Yuu AKISANE
大前提として、サークル参加者向けのしおりは熟読すべきです。大事なことはそちらに書いてあります。また、入念な告知も大事です。「西き44a」といった住所のような記号をお知らせすることはもちろん、当日のラインナップと価格を早めに告知して宣伝することが大事だと思いました。
コミケならではの文化を堪能
スペースを間借りして対面販売をするという点においてフリーマーケットに似ているように思いますが、コミケはシンプルに本屋に似ています。ざっと眺めて、立ち読みして、違うなと思えば、去るも良し。気になれば、製作者とコミュニケーションも取れる便利な本屋です。自分のお店の商品を見ている人がいるからといって、アパレルショップの店員のように接客するのはコミケの文化にはあまりそぐわないようです(そんなことしてたら、売り子の友達に怒られました)。
半分売れれば御の字、と思っていたところまさかの完売!嬉しい反面、わざわざ脚を運んでくださったのにお目当てのものを買えなかった方もいらして申し訳なく思いました。需要の予測は本当に難しいと身を持って実感 Photo: Yuu AKISANE もしかしたら、アニメ・ゲーム・漫画などコミケの主力エリアは違った事情なのかもしれませんが、私がいた「鉄道・旅行・メカミリ」エリアは、わりと緩い雰囲気のなか、各サークル・各参加者とも思い思いの過ごし方をしているように思いました。
そうしているうちに、私のブースでは開始から3時間半で用意した140冊すべて完売御礼となりました。購入者のなかには、わざわざ自分の本を買うため、自分に会いに来るためだけに、名古屋から来た方もいました。コミケの入場券を探し求めて、本屋を何件も巡ってまで来た方もいます。
その中で最も印象に残っているのは自分のことを全く知らずに「サイクルロードレースの勉強をしたいのですが、どれを読めばいいですか?」など聞きながら購入された方です。なんだか一期一会を感じた瞬間でした。
次回以降もサークル参加したいなと思っていますが、もし落選したら一般参加して、自分も一期一会の一冊にめぐり合う旅をしたいなと思いました。