にっぽんルポ
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【国際】<民衆の叫び 世界を覆うデモ>(8)異議 共感、支持に 成蹊大・伊藤昌亮教授に聞くなぜ世界各地でデモが頻発するようになったのか。世界のデモ事情に詳しい成蹊大の伊藤昌亮教授(メディア論、社会運動論)は、既存の社会システムが壊れ始め、香港の民主化や気候変動など解決まで長期間かかる課題が増えたためと分析する。その上で「問題提起を続けることがデモの意義になっている」と指摘した。 (聞き手・新貝憲弘) -世界各地でデモが頻発する背景は。 「デモが頻発するようになったのは、二〇一一年に米ニューヨークで反格差を訴えた『オキュパイ・ウォールストリート』や中東の民主化運動『アラブの春』からで、今に至る潮流をつくった。その後一〇年代後半からトランプ米大統領のような権威主義的なポピュリズム政権が相次いで誕生すると、それに対する異議としてデモが起きている」 「いわゆる『GAFA』と呼ばれる巨大ネット企業に象徴されるデジタルエコノミーがもたらした経済格差も一因だ。ネット上でのあらゆる人の行動がビジネス対象となり、コントロールされることでアマゾンのような巨大企業が誕生した一方、そのドライバーは苦しい生活を続けるという格差への反発がある」 -こうしたデモの特徴は。 「従来のデモは、一九六〇年代の学生運動のように批判の対象がはっきりしていた。しかし最近は気候変動や反原発運動のように、自分たちの存在を脅かすものとして感情や情動に即したデモが多く、敵(対象)が誰なのか明確でない。静岡県の高校生が先月、『暑くて野球ができない』として温暖化対策を求めるデモをしたのはその象徴的な例だ」 -今後もこうした傾向は続くのか。 「各国政府に地球温暖化対策を求めるデモのきっかけとなったスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの発言をファンタジーだと否定する声があるが、若者たちは『ファンタジーだと分かっていても、言わないといけない』と思っているから彼女に共感、支持するのだと思う。気候変動は五十年、百年単位の話だし、香港も(高度な自治を保障する一国二制度が終わる)四七年までという非常に長い問題だ」 「若者たちは既存のシステムや制度、社会が壊れ始めていて、物事をより原理的、長期的に考えざるを得ない時代になったという感覚を共有し始めているのではないか。彼らはデモをしてもすぐには変えられないと分かっており、問題提起を続けることがデモの意義になってきている」 =おわり <いとう・まさあき> 東京外国語大外国語学部卒業、東京大大学院学際情報学府博士課程修了。外資系IT企業や出版社勤務、愛知淑徳大准教授を経て、2015年より現職。主な著書に「デモのメディア論」(筑摩選書、12年)、「ネット右派の歴史社会学」(青弓社、19年)など。58歳。 PR情報
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