高野真吾、荒ちひろ
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ドキュメンタリー映画「M/村西とおる狂熱の日々 完全版」の宣伝用チラシ
「アダルトビデオ(AV)の帝王」と呼ばれた村西とおる監督による1990年代のビデオ撮影を追ったドキュメンタリー映画(昨年11月公開)で、登場する女性の一人が承諾なしに過去のヘアヌード映像を使われたとして、配給元に抗議した。製作側は女性が映った場面を削除し公開したが、こうした映像の使い回しに疑問を投げかける専門家もいる。
映画「M/村西とおる狂熱の日々 完全版」は「日本映画配給機構」(東京)が製作し、「東映ビデオ」(同)が配給・宣伝を担っている。
公式ウェブサイトや宣伝用チラシによると、作品は村西氏が「1996年7月20日から8月3日までの2週間、北海道で行った撮影の日々を収録したドキュメンタリー」で、このときの映像はセルビデオとして販売された。村西氏は「50億円の負債からの再起を図るため」に「世界初の4時間超のDVD用Vシネマと、35本のヘアヌードビデオの撮影を同時に敢行した」という。
劇場で記者が確認したところ、109分の映画のほとんどは北海道での収録の様子を撮った映像だった。村西氏や男性スタッフ、主演の女性らは顔出しで登場する。一方で、ヘアヌード撮影のために集められたとみられる複数の女性の顔には薄くモザイクがかけられていた。
配給元に抗議した東京都の40代女性は2019年夏、ある映画館の上映作品をネットで調べていて、公開予定になっていたこの映画の存在を知った。
映画の一場面とみられる画像では、裸の女性たちが水につかっていた。モザイクや目隠しの線といった画像処理はされていなかった。かつてこの場面が撮られた北海道ロケに自身が参加し、ヘアヌードビデオに出たことを思い出した。20年以上前の映像だったが、「近しい人には分かってしまう」と弁護士に相談した。
弁護士は東映ビデオに対し、女性は映画への出演を承諾していないとして、「重大な肖像権侵害になる」と指摘。ロケに参加した別の女性も含め、映画を公開するにあたっての同意の有無を問い合わせた。
東映ビデオは女性側に公開前の映像の視聴を認め、女性と弁護士が内容を確認。モザイクがかかっていた女性のアップの映像を削除するようその場で求め、公開された映画ではその通りにカットされたという。
経緯について、東映ビデオは昨年12月の朝日新聞の取材申し入れに対し、「日本映画配給機構と協議の上、お断りさせていただく」と回答した。
こうした過去の映像の使い回しについて、著作権に詳しい小倉秀夫弁護士は「一般的に公開を望まないであろう裸の映像を本人の同意なく使用すれば、人格権の侵害となる」と指摘。撮影当時はアダルト向けのセルビデオとしての流通だけが想定されていた場合、一般の映画館で上映されるような作品への使い回しは元々の視聴者層を大きく超えるもので、「裸の映像や画像を使い回してよいというまでは、(当時の)同意や承諾の効果は及ばないだろう」と話す。(高野真吾、荒ちひろ)
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