シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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とりあえず日曜までは完成済み


『貿易交渉』

 微妙な空気に包まれている皇帝執務室。

主に帝国側に漂っていたその空気をはらう様に、ジルクニフは明るい声で仕切りなおすように話し始めた。

 

「さて、なにから話したものか……ドワーフ国の方もそうだが、特にゴウン殿は遠方から来られたと話を伺っている。色々とその辺りのことを聞かせていただければと思うのだが……いや、失礼。着いたばかりのお二人には先に飲み物などを用意せねばならないな」

 

 ハンドベルを鳴らし、あらかじめ外に用意させていた給仕達が静かに部屋に入ってくる。

大急ぎで部屋を整えさせたメイド達と同様、フールーダの件で騒ぎとなった後用意させた男達だ。若くそれなりの高名な貴族の家出身で容姿も端麗、まだ執事を名乗れるほどの経験はないが日頃の訓練の成果もあってその動きに淀みはない。

 

 まだ青年と言っていい男達がそれぞれ分かれて歩み寄ると、作法通り洗練された動きで銀のお盆にのった飲み物と菓子をきれいに並べていく。

 

「有難う」

「ッ!」

 

 声をかけられたその瞬間、少女に一番近かった給仕の手が止まった。

 

 ――ガチャッ

 

 淀みのなかった動きが突然崩れ、固まる。

菓子で彩られた皿が机の上で止まり、僅かに音が鳴る。

 

 なぜ止まったのかは対面に座るジルクニフにもわかった。

見惚れたのだ、自らに向けられた少女の微笑みに。帝国の令嬢たちが嫉妬に狂いそうな、あるいは同じ女でも見とれてしまいそうなものを間近で直視してしまい、給仕の男は少女の顔を食い入るように見つめたまま固まっていた。

 

「あの……?」

 

 周囲が緊張する中少女の困ったような、はにかんだような声が部屋を満たす。

その声に我に返ったのだろう。すぐに身を起こし少女と皇帝であるジルクニフ、二人に青くなった顔を急いで下げた。

 

(……クソッ! 恥をかかせおって)

 

 「良い、行けッ」短く怒気を孕んだ声を発しながら、手を振り男達を部屋から追い出す。

慌てて退出する給仕達、その背中をジルクニフは睨みつける様に見ていた。同じ男として、そしてあの男が目にしたものを考えれば多少の同情はする。しかし相手との力関係を考えれば、あの男の失態が帝国を火の海にすることもあり得るのだ。許されるものではない。

 もっとも、既に火の海に飛び込んだフールーダ・パラダイン(帝国の主席魔法使い)がいるのだが……。

 

「大変失礼をした、部下の不出来は私の失態。再三の非礼で申しわけないが、どうか――」

「いえ、気にしていませんし男性としては仕方のない反応かと……あの方をお叱りにならないで頂ければ幸いですが」

 

 再び頭を下げようとしたジルクニフを、突き出された白い手が止めた。

 

(慣れてるのだろうな、あのような反応をされるのは……男の扱いに慣れていて、自らの容姿について自信があるということか)

「それに今のが悪いとすれば、元をたどれば『私の容姿が悪い』という事になってしまいますから。そろそろ貿易について話を進めたいですし……」

「承知した、貴女の寛大なお心に感謝を」

 

 やはり見た目どおりの年齢ではないのだろう、相当頭も切れる。

今この流れでドワーフとの空輸貿易の話に入れば、帝国側は大幅な譲歩をしなければならない。勿論少女の実力やこれまでの道中の件でも相当あるが、さらにここに来てもう一押しされてしまった形だ。

 自らの容姿の使い方、それに対する男の扱い方、交渉の進め方、全てが完璧と言っていい。

 

「……早速だがドワーフ国の商人会議長どの?」

「はい、皇帝陛下」

 

 少女の思惑に操られるように顔を、少女の隣に座るドワーフの方に向ける。

元々髪や髭に顔の大半が覆われている種族なので表情はわからない。表情が読めないのは交渉事では厄介な上に、今回はさらに少女の後ろ盾まであるのだ。本来であれば胃の痛みと戦いながらの交渉になっただろう。

 

 だが今回に関してはその心配はない――既に若干の胃の痛みはあるが――

 

「先に送っていただいたドワーフ国からの草案の件だが、帝国はそのまま全て呑もうと思う」

「……よろしいのですか?」

 

 相手も国を代表した者だけあって予想はしていたようだ。

「本当にいいのか?」という意味だろう、落ち着いた声をしている。

 

 通常の交渉であればお互いの意見と意見をぶつけ合い、その間を模索しながら話を進めるのが普通だ。だが前提として、お互いの交渉材料や力関係も当然影響してくる。

 ジルクニフは手を広げ、見る者によっては降参ととるだろう笑顔を相手に向けた。

 

「あぁ、()()ドワーフ国に有利となってしまうが、今後のお互いのことを考え長期的な視点に立てば、妥当なものに思えた。ドラゴンを使うなど初めての試みなので、その辺りで幾つか条件を付けくわえたいがね」

「ふむ、よろしければ今この場でその条件をお聞かせいただいても?」

「もちろん構わないとも」

 

 相手(ドワーフ)にとっては後ろ盾である少女の前で交渉を進めたいのだろう。

だが柔軟な交渉姿を少女への好感につなげたいジルクニフにとっては、むしろ好都合だ。

 

「一つ目だが、実は我が国では今後食糧の不足が予想される。既に市場の価格にも出始めていてな、最初の内はそちらを優先していただきたい。落ち着いた後で鉱石や武器の購入枠を増やそうと思う」

「食糧ですか……我が国の規模では、それほど数は用意できないと思いますが? キノコや肉類が主ですし」

「構わないとも、時間稼ぎのための対応だからな。情けない話だが、"死の都"による王国民の流入が予想を超えていてな。魔法技術による生産力を回しても、満足な量は用意できない可能性もある。他国から買うための時間をまずは貴国から買いたいというだけだ」

 

 無論王国民を無条件に帝国領へ通しているわけではない。

カッツェ平野駐屯基地の兵力増強と合わせて、国境線の見回りを強化、都市の出入りの警戒監視。迅速に取れる手は全てうってある。だが国境線は広く、限られた騎士達ではカバーできる範囲も限られる。都市への侵入も全て捕まえられるわけではない。

 帝都アーウィンタールはそれでもまだ影響は少ない方だ。国境付近の都市や村々は食糧価格に加え、目に見える治安の悪化など、あまりいい情勢とは言えない。

 

「それとドラゴンが都市上空を飛ぶのは、見張りの兵士や臣民に不安を抱かせてしまう危険がある。しばらくはドワーフ国に近い都市付近で、馬車に乗せ換える形となるだろう」

「それは確かに、当然のご判断ですな」

 

 ある意味ドラゴンの脅威を帝国以上に知っているせいか、あっさりと頷くドワーフ。

できればここで不満のある態度を示して、それをジルクニフが上手くなだめる対応をしたかったが、それは都合が良すぎる様だ。頭を切り替え、視界の隅で交渉を見守る少女の反応を伺いながら話を進める。

 

「だがそれについては解決策があるので、そちらにも協力していただきたい」

「ほう……どのような協力をすれば宜しいのですかな?」

「荷を入れる袋や箱、それに商品である武具に印を入れて欲しいのだよ。出来るだけ大きなドラゴンの印を、それと合わせて国としても広く臣民に周知すれば不安に思う者もいずれいなくなる。そうすれば、この帝都へ直接ドラゴンが荷を運ぶ日も遠くはないだろう」

「なるほど。無論円滑に交易をするためであれば、ドワーフ国としても是非はありませんが……」

 

 神妙に頷くドワーフが隣の少女をうかがうそぶりを見せ、ジルクニフも自然と目線が少女へ向かう。

 

 ここまではいい。

草案では交易で得られた利益の何割かを少女へ渡す算段が付いていた。だがそれは、主にドワーフ国側の利益から出される形だ。元々ドワーフ国が単独で作った草案なので無理もないが、帝国から僅かな報酬しか少女に出せないのは様々な意味で不安が大きい。

 

「それでここからはゴウン殿にも一つ願い――いや、検討していただきたい案があるのだが」

「……何でしょう?」

「ドラゴンを使って交易ができるのであれば、人を運ぶ事は可能だろうか?」

 

 宝石のような紅い瞳がジルクニフを凝視する。

その反応に心の中で、自らの妙案に思わず大喝采をあげそうになるが、まだ早いと震える心を抑えこむ。

 

「それは勿論」

「実はこれは私自身の考えなのだが、商人や貴族ども――あ、いや貴族の中には人や荷物を早馬で一刻も早く送ったりする場合があるのだが、これをあなたのドラゴンにお任せする事は可能だろうか? あなたに対する報酬規程を新たに作るので、それを見た後お考えいただきたい」

 

 ジルクニフの友好的な笑みに少女は「ふむ」と、考え込むように顎に手を当てている。

 

 ――よしッ!!

 

 その姿に机の下で力いっぱいこぶしを握り締め、自らに今度こそ喝采を送る。

それは少なくとも相手が興味を持ち、検討する価値があるという意味だ。その価値は今の帝国にとって計り知れないもの。どんな宝石よりも価値のあるモノだ。

 そしてその輝きはできるだけ長持ちさせねばならない、慌てて手をあげ追撃の言葉を放った。

 

「あぁ、いや。商人会議長にお話ししたように、臣民にドラゴンの存在が広く知れ渡った後に検討している計画となる。なので結論を急いでもらう必要はないんだ、そうだな……少なくとも数カ月は見ていただければと思う」

「わかりました、ドラゴン達が定期的に休める範囲のものであれば……」

「ん? あぁ、それはもちろん。その時には、()()()()()()改めて協議させていただこう」

 

 これで確実――とはいかないまでも、数カ月間少女と友好的な関係でいられることがある程度保証されたことになる。その間に少女の性格や好むことを把握する事に注力しなければならない。

 少しでも興味を持った事――例えば男、食事、芸術品など、ありとあらゆるものを少女の前に相応しい形で用意しなければならない。

 

 そして同時にドラゴンを大切に扱っている事を内心のメモに取る。仮に協議をするとなれば、ドラゴンの使用頻度に考慮しつつ確実に報酬を渡せるバランスを取らねばならないという事だ。

 

 少々難しいものとなるが、それで相手の関心が買えるのであれば安いものである。思わず心の底から――体の方もキリキリしていた胃が休まるような感覚を覚え、ジルクニフは憑き物が落ちた様に心からの笑顔をうかべた。




原作の会談に習ってサクサク進めてる…ハズ

次回はモモンガ様視点に戻ります 次話→3日後投稿予定

ブレイン・アングラウスvs武王ゴ・ギンの勝敗予想(モモンガさんがユグドラシルのアイテムを貸すとかないです)

  • 設定的に武王の勝ち、勝てるわけないだろ~
  • 努力友情勝利!というわけでブレインの辛勝
  • ダブルノックアウトで引き分け!

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