シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】 作:ほとばしるメロン果汁
そのうち吸血鬼の身体能力を使った彼女の活躍シーンを書かねば(使命感)
「通してもらおうか」
「こ、これはッ! パラダイン様、ですが――」
「陛下の許可は頂いている」
夜の皇城。魔法の明かりに照らされた廊下で、背後の扉に張り付くように立っていた見張りの騎士の言葉を遮る。
フールーダを見る彼の視線は戸惑い孕むものであり、おそらくだがフールーダの新しい
若返りの奇跡。
間違いなく今日という日は、フールーダ・パラダインにとって人生最高の日と言える。初めてお会いした瞬間を思い出すだけでも、体の中から溢れ出す歓喜により震えだしてしまう。
西門で馬車の扉が開いた瞬間、自身の
正しくは師弟の関係ではないが、第十位階――その領域に立つ者の傍にいる事を許されただけでも幸福だ。そして功績を認めていただければ、この数日で終わってしまうという今の姿も完全に戻して頂ける。
魔法を教えて頂く事は渋られたが、若返った後でも傍でその御力を見せていただければ、何か得るものは必ずある筈だ。彼女はこのまま魔法の深淵を覗くことなく、ゆっくりと老い死んでいくかもしれなかった自分を救っていただいた
「ッ! あ、あの……パラダイン様?」
「む、すまん少し考え事をしてしまった。失礼」
立ったまま今日の素晴らしい出来事を思い出していたが、震える声に意識を現実へ引き戻す。いつの間にか騎士の視線がなにか恐ろしいものを見るものに変わっていたが、自身のすべき事を思い出し、口元を拭うと急いで見張りの騎士の横を通り過ぎた。
師にご満足いただけただろう
それが終わり、続く会食にも出席しようとしたが師である少女に断られてしまった。後継者の育成を優先するように言われたためだ。
フールーダとしても正式な配下と認めてもらう条件の一つと理解していたので、すぐに取り掛かったのだがその途中『聞きたいことがある』という我が師からの
見張りの騎士がいた場所からやや長い廊下を通り貴賓室の扉の前で止まる。ここまでの途中に部屋は一切なく、警備のためとはいえある意味隔離された空間ともいえる。そこにたどり着いた時、やや不可思議な光景に首を傾げた。
(見張りの騎士がいない……)
貴賓室というだけあって、帝国にとって相応の地位が利用する部屋。
通常であれば、最低限でも二人騎士が一晩中警備に立つハズだ。
(師がなにかされたのだろうか?)
ひとまず警戒をしながら扉を控えめにノックする。
「フールーダか、入れ」と、先ほど
帝国屈指の調度品が並べられた部屋は薄暗く、明かりは点いていなかった。開け放たれた窓から月夜の光が差し込み、僅かに部屋の奥の空間をきらきらと照らしている。その光を受けた赤い瞳の少女――フールーダの新しい主が椅子に座り、その前にはレイナース・ロックブルズが椅子に座った少女に跪いていた。
「よく来てくれた、フールーダ」
頭を下げるフールーダに向けニコリと微笑む少女。昼間に比べてややひきつっているように見えたのは気のせいだろうか?
純白だったドレスは漆黒のボールガウンに着替えており、月の光に照らされた銀髪が輝き、その中で紅く光る瞳の美しさを一際際立たせている。呼ばれるまま部屋の奥へ進み、既に跪いていたレイナースの隣まで近づくと同じようにしようと膝を曲げ――
「いや、フールーダは椅子に座って」
「は? よ、よろしいのですか?」
チラリと隣のやや下方向、一切微動だにしていない女騎士をうかがう様に答える。
「あぁ、……その、レイナースは……」
「私はこうしてシャルティア様を下から見上げる事を、お許し頂きましたので!」
平伏していた首がグイっと持ち上がり、正面に座った少女を見上げる角度でピタリと止まる。
フールーダの方は一切向いておらず、その白い頬は赤く染まり、師と同じ色になった赤い瞳は潤み目元はトロンと下がりきっていた。
その視線を受ける少女は目を逸らし、何かを考える様に夜空を見上げていた。
「うーん……なぜかは私にも分からないというか、分かりたくないというか。レイナースはこういう態勢が好きらしくて……」
「はいッ! こうしてシャルティア様から見下ろしていただく瞬間、私は自身の全てを支配していただいていると実感できるのです」
その声は心からの歓喜に溢れていた。その姿にフールーダは迷いなく頷く。
「なるほど、そのお気持ちわかります」
「ぇー」
バサバサと夜風でカーテンが揺れる。
奇しくも会談前の立ち位置が逆転する中、同意の声を思わず漏らしたフールーダに初めてレイナースの視線が向けられた。
その瞳は欲望に染まりつつも力強いモノ。おそらくフールーダも今日という日に、何度も染まった瞳の色をしていた。そして気づけばお互いぴったり同時に頷いていた。それは双方の胸中が似通っている事、圧倒的な力を持つ主に従順し、追従し、尽くす事を誓っている者同士の物言わぬ会話だった。
――パンと手を打ち鳴らす音が響く。
視線を向けると、二人の主である少女が真剣な目を向けながらこちらを見据えていた。
「ふぅ……おふざけはこれくらいにしよう。フールーダ、お前を呼んだのは重要な事を聞きたいからで雑談のためではないし、長くなるだろうからお互い楽な姿勢で話すとしよう。それとレイナースは話が済むまでドアの外で見張――いや、警備をするように」
穏やかながら今までに無かった硬さを含んだ声色に、驚きと同時に謝罪の言葉が口から飛び出てしまう。
「し、失礼いたしました我が師よ!」
「申し訳ありません、直ちにッ!」
跪いていた姿勢から飛ぶように立ち上がり、主へ向けて謝罪すると大股で急ぎ外へ向かうレイナース。それなりに重厚な扉が勢いよく締まり、やや大きな音を響かせた。
レイナースが外に出ると主である少女が手をかざし、何もなかった空間に突然椅子が現れる。
現れた椅子は主が座っている者と同じ、赤く輝く革製のシンプルな物。調度品の価値にはやや疎いフールーダにも、その価値の高さを肌で感じられるものだった。
「早く座りなさいフールーダ」
「よッよろしいのですか? 師と同じ椅子に見えますが……」
「そのために出したのだけど? さぁ早く」
当然城の貴賓室だけあってソファなど腰掛ける物は他にもある。だが主である少女にやや強い口調で言われては、これ以上憚ることなどできはしない。いそいそと少し離れた椅子へ向かい、壊れ物を扱う様にゆっくりと腰を下ろした。
「では話をする前に、いくつか確認をしましょうか」
「ははぁ!」
今の若返った姿で大股で五歩ほどだろうか?
微妙に離れた距離にいる主へ座りながら頭を下げる。話をするにしては少し離れているが、強大な魔力を持つ主人にわざわざ用意していただいた椅子なのだ。位置を変えたり、ましてや自分ごときが動かすなど恐れ多い。
ひじ掛けに乗せた腕、その手に白い頬を乗せた紅い瞳の少女が試すようにフールーダを見据える。
「フールーダ、お前は確か若返らせる前に『全てを捧げる、この国を差し出す事だろうと』と、言っていたわね。それに嘘偽りはない? 例え私とこの帝国がどのような関係になっても、お前は私の側に立つ。その意志はあるのか?」
「勿論でございます、我が師よ! 例え再び精神魔法で私の心を読み取っていただいても構いません。今この瞬間城を全力で破壊し、帝国を貴女様に差し出せと仰っていただいても私は躊躇いたしませんッ!」
「あ、いやそこまではしなくていいけど……」
一切の迷いなく答える。
数秒間、お互いの視線が交わった。フールーダは真剣に熱意の籠った――魔法の深淵を覗きたいという欲望に染まった目で美しい主を見つめた。一方主人である少女はまるで観察するような、冷徹な赤い瞳を向けていたが「それならば良い」と小さく息を吐き、体の力を抜くように背もたれに体を預けた。
「信頼しよう。……だからという訳でもないが、会談で話した私の素性はお前も聞いていたな? あの時話さなかったことも話そうかと思う」
♦
「なるほど、お仲間の方々を捜す為の名声でございますか……。不可思議に思っていましたがそれで合点がいきました」
(え? 何か変なこと言ってたっけ?)
ジルクニフとの会談でモモンガが言わなかった事――名声を得てこの世界にいるかもしれないギルドの仲間達への呼びかけについて話すと、フールーダは今はない鬚を撫でる様に顎に手を添え、しきりに何度も頷いていた。
(何のこと? ……なんて正直に聞けないな。納得してるってことは、フールーダから見れば正解ってことだろうし)
今は若返った姿をしているが、自分より遥かに年上で国家の運営に携わってきたフールーダが言うのだ。少なくともジルクニフとの会談で頭がトロトロになったモモンガよりは、マシな判断ができることは間違いない。
「念のために……あくまで念のために確認するけれど、何に納得したの?」
「魔法学院ご入学の件でございます。師ほどの御力をお持ちでありながら、一体学院などにどのような用向きで入学されるのかと考えておりました」
「……それで?」
「はっ! 私自身の経験と比べるなど恐れ多いとは思いますが、私も昔の宮廷魔術師時代では周囲の風評ややっかみには苦労させられました。今でこそ帝国の英雄や偉人などと呼ばれておりますが、そこに辿り着くまでには嫉妬や恐怖を持つ者が多かったものです……」
――あー、うーんわかるようなわからんような……。
鈴木悟には無縁の苦労話だった。
だが納得できる話でもある。基本的に人は他人と自分を比べ、他人を羨むものだ。モモンガ自身も気を付けてはいるが、ギルドの仲間達を尊敬とともに羨ましいと思った事は多い。現実の社会人生活でも言わずもがな、成功者ともなれば相応の嫉妬を買うものだろう。
「英雄の放つ光は、凡人にはまぶしすぎて恐怖を産む……ということ?」
「おお! まさに仰る通り。私も今の地位につくため相応の努力と苦労をしてきたつもりではありますが、凡人の中にはそういった苦労を考えず、単に結果だけを見て妬む者愚かな人間もおりますので」
なんとなく居心地の悪さを感じてしまうのはなぜだろうか?
「帝国魔法学院には多くの貴族が在籍しております。まだ若輩の子供ではありますが、その者達を全て師に心酔させてしまえば、国中に我が師の素晴らしさを届けることも容易でありましょう。多くの貴族の声ともなれば、相反する妬み声など潰すのは容易い事。私も及ばずながら後押しをさせて頂きたく思います」
(あー、やる事は変わらないしそれでいいか……いいのか?)
一応人脈を作るために――あと学院生活の魅力のために入学という自身の考えとも合致はする。
だがなんとなく変な方向に話が進んでるような気がしないでもない。とはいえやる事は変わらない。頭を整理するのは後に回して彼を呼んだ理由、重要な事を聞くために話を次の段階へ進める。
「それで名声についてだけどフールーダ、私はズーラーノーンを潰すことが手っ取り早いと思うのだけど……あなたはどう思う?」
「素晴らしいお考えだと思いますッ! エ・ランテルが"死の都"になったことは帝国は勿論、周辺国にまで既に知れ渡っている事でしょう。師の強大な魔力でエ・ランテルごと押しつぶせば、さぞや勇名が響き渡ること間違いありません!!」
早口でまくし立てる様に絶賛するフールーダ。
一応自信のあるアイディアではあったが、現地の偉人でもある彼に同意してもらえるのなら問題はないだろう。だが震える拳を握り締め、全力疾走したように荒い息を吐き出しながら首を何度も縦に振るのは止めてもらえないだろうか?
「……でもね、私はジルクニフとの約束を違える気はない。今は様子を見て、少なくとも先手はこの国の軍に譲ろうかと思うのだけれど――」
そこまで口を開き、心なしか気落ちしたような顔をしたフールーダに改めて問う。
「今の帝国軍とズーラーノーンがぶつかればどちらが勝つと思う?」
「そ、そうですな……敵の兵力や状況にもよりますので即断はできかねますが、少なくとも守勢に回れば帝国軍が負けることはないかと思います。たとえ万に届くアンデッドと平原でぶつかったとしても、前衛が盾になって食い止めてる間に後衛の魔法で攻撃するなどの対応を取れば、少なくとも敗北はないかと」
やっぱりか。
予想はしていたがあまりモモンガにとっては嬉しくない回答に、胸の下で腕を組み考える。
「ですのでジル――皇帝は、どちらかと言いますと国の内部に侵入され、混乱を起こされる事に警戒しています」
「混乱? ……帝国でも"死の都"のような事が起きると?」
「そうですな、それが最も警戒されるべき事かと。中でもこの帝都でそのような儀式を行われて、その結果甚大な被害を受ければ国体が傾くやもしれません。ですので国内の貴族派閥など、敵対する可能性がある組織がズーラーノーンと繋がりを持っていないか、探りを入れてるようです」
(うーん、
これから学院生活が始まるのだ。
それに今日の対応を見る限り、ジルクニフにはこれからも世話になる可能性が高い。彼の地位が危険になるような事は避けた方がモモンガにとっても利になる筈だ。
さりとて帝国軍に快勝してもらっても困る。モモンガの助力が必要ないと思われては、名声を得る事など出来ない。それに帝国軍でも勝てる相手を倒して威張り散らしても、誰も評価などしてくれないだろう。そうなると――
「――フールーダ、確か転移魔法は使えるのだったな?」
「はっ!」
「……ここで議論してても限界がある。ひとまずエ・ランテルの様子を見に行きたいのだけれど、行った事はある?」
作者的に当作はオーバーロード二次重視な作品のつもりです(その割に最近はギャグが多いっすね……たぶん学院編三章もかなりギャグ率が高い気がします)
オーバーロードっぽい展開もあるんだよ、本当だよ。というわけでオバロっぽい二章後半イクゾー
次話→3日後投稿予定