米グーグル(Google)のクラウド事業が「文化変革」を始めて1年が経過した。同社の「Google Cloud」をテコ入れすべく米オラクル(Oracle)や欧州SAPの出身者を幹部に据え、営業力の強化を図っている。老舗企業がグーグルを見習った変革に乗り出す事例はあまた見てきたが、逆はなかなか珍しい。

 Google Cloudのテコ入れに至る内情は、米メディアの「The Information」が2019年12月中旬に報じた。同記事によれば、グーグルや親会社である米アルファベット(Alphabet)の経営トップは2018年の初め、数カ月にわたってGoogle Cloudの先行きについて撤退も含めて検討したという。結果、それでもクラウド事業は有望だと考え、2023年までの5年間に200億ドル(2兆2000億円)を投じて、米アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services、AWS)や米マイクロソフト(Microsoft)の打倒を目指すと決断したのだとする。

 The Informationは「2023年までにAWSやマイクロソフトを倒せなかった場合に、グーグルがどう決断するかは定かではない」として、Google Cloudにとって「残された時間は少ない」と悲観視している。だが5年先の計画が決まっていないのは、ある意味当たり前だろう。現時点では、グーグルが本気でクラウド事業のテコ入れを図っていると受け止めるのがよさそうだ。

 ただしグーグルが選んだ道のりは、なかなか険しい。

 Google Cloudのテコ入れ策は大きく3つある。第1はデータセンター網の拡充だ。Google Cloudが全世界に展開する「リージョン」の数を2020年までに23カ所へと増やす。AWSのリージョンは現時点で22カ所(計画を含めると26カ所)、Azureのリージョンは55カ所(計画を含めると56カ所)だ。近くの場所にあるクラウドインフラを使いたいという顧客のニーズに応えていく。

技術者と営業担当者を積極採用中

 第2は積極的な人材採用だ。グーグルは2021年までにクラウドの営業担当者の数を2019年比で3倍に増やす計画だ。サービスを開発する技術者の数も増やす。アルファベットは2019年10月28日に2019年第3四半期決算を発表した際、同社の従業員数が第3四半期に6450人増加し、分野別で見た内訳ではクラウド事業の技術者と営業担当者の採用が最も多かったと明かしている。

 こうした物量作戦に比べてより難易度が高いのが第3のテコ入れ策、経営幹部の大幅な入れ替えと、それに伴う企業文化(より正確に言えば事業部文化)の刷新である。まず2019年1月にオラクルのクラウド事業を率いてきたトーマス・クリアン(Thomas Kurian)氏がGoogle CloudのCEO(最高経営責任者)に就任、同4月にはSAP出身のロバート・エンスリン(Robert Enslin)氏がGoogle Cloudのセールスを統括するプレジデントに就いた。

 クリアンCEOやエンスリン・プレジデントはGoogle Cloudの営業部門を、オラクルやSAPの流儀に変え始めている。米メディア「Business Insider」は2019年8月、Google Cloudの営業部門における給与制度がオラクル流に改訂されたと報じている。セールスの基本給を引き下げる代わりにボーナスの割合を引き上げ、営業実績が給料に大きく反映されるようにした。

 営業担当者がユーザー企業の経営陣やCIO(最高情報責任者)に食い込んで大きな契約を獲得する、競合他社の営業担当者をスカウトしてその担当者が抱えていた顧客を自社のサービスにスイッチさせる――。そんなコテコテの「エンタープライズ営業」をGoogle Cloudも始めようとしているわけだ。同時にシステムインテグレーターなどのパートナー企業経由やOEM経由での販売も拡大するとしている。

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