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 激しさを増す自然災害から、暮らしに欠かせない電力の供給をどう守るか。平時にこそ備えを急ぎたい。

 台風の直撃で、千葉県を中心に最大93万軒に及んだ昨秋の停電を踏まえ、経済産業省電力供給の強靱(きょうじん)化策をまとめた。鉄塔の倒壊は、地形の特殊な起伏がもたらした突風が原因だと推定したものの、特殊事例として片付けずに、風に対する強度基準を、地域や地形に応じてきめ細かく引き上げる。

 全国に鉄塔は24万基ある。台風が多い沖縄や九州で行われている電力会社の自主対応でもなく、全国一律でもない仕組みだ。費用対効果の面でもうなずける。経産省は早急に制度を具体化し、電力会社は必要な補強工事を進めてほしい。

 復旧が長引いた大きな要因は約2千本の電柱の倒壊だった。東京電力は倒木や飛来物が原因で耐風性の問題ではないというが、経産省は、ごく一部ながら原因が未特定だとしている。なお検証を続けつつ、できる対策から取り組まねばならない。

 例えば、手入れが行き届いていない山間部の樹木などへの対応だ。強風で倒れて電線にひっかかる可能性が高そうなら、事前伐採を検討すべきではないか。停電のみならず通行の妨げにもなりかねないからだ。

 電力会社は自治体との連携を深める必要がある。樹木の所有者との協議をスムーズに進めたり、災害時の役割分担を定めたりしておくためだ。電線を地中に埋める「無電柱化」の加速にもつなげたい。

 千葉での停電は、見通しの甘さや機材の有効活用といった復旧過程での教訓も残した。

 ドローンなどを使い、まずは事態の全容を把握する。そのうえで、過去の経験にとらわれずに復旧計画をたて、詳細な見通しを示す。応援の要員や機材を受け入れる際は、効率的に配置・活用する態勢をとる。機器の仕様や作業方法も統一化を進めておく。当たり前のような課題が徹底できていなかった。

 東電は、「自力」へのこだわりが迅速な復旧の妨げになったと振り返る。大規模災害時には他電力や自治体のみならず、通信会社や電気工事会社、自衛隊などに幅広く協力を仰ぐことになる。政府は電力各社に「災害時連携計画」をつくるよう求める方針だ。そうすれば、自力にこだわってきた意識も改革されるだろう。

 他電力への応援要請に二の足を踏まぬよう、復旧の費用を各社で負担し合う相互扶助のような仕組みの議論も続いている。

 激甚化する災害は、「安定供給が使命だ」という電力各社の言葉を試し続ける。

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