シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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ようやく到着、そして襲来


『純白の美姫と魔法キ〇〇イ』

 バハルス帝国内、その領土の中でも西部に位置する帝都アーウィンタール。

中央に鮮血帝――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの住まう皇城。その周囲に帝国魔法学院や各種行政機関が広がった国の最重要都市である。

 

 鮮血帝が手掛けてきたこれまでの改革によって発展し、新しい文化や物資、人材の流入や発明などまさに帝国の歴史の中でも最大の発展を遂げている国の心臓部。隣国に突然現れたズーラーノーンによる"死の都"による噂と、元王国市民の流入でやや混乱がみられるが、ここに暮らす帝国市民の顔に陰はない。

 

 その帝国首都に相応しくそびえたつ巨大な西門。今そこは、見る者が見れば戦場と見間違うような光景が広がっていた。

 

 

 

 

「良いかっ! 再度繰り返すが、最敬礼でお迎えする! これは陛下直々の命である。巨大なドラゴンを従えられている御方だが、くれぐれも動揺することなく礼を尽くす様に!」

 

 ズラリと門前に並ぶ騎士達、ただの騎士ではない。帝国最精鋭の騎士達皇室地護兵団(ロイヤル・アース・ガード)だ。総額でいくらかかったのか、商人が見れば目眩を起こすほどの魔化された全身鎧(フル・プレート)と各種装備を携行。それらが至る所で昼下がりの太陽の光を反射し、目が痛いくらいである。

 

「言うまでもないが、皇城までの護衛は全力で行え! 市民を誰一人近づけるなッ!」

 

 バジウッドの部下――兵団隊長から兵を鼓舞する威勢のいい声が飛ぶ。

本来彼らが白銀近衛を連れて帝都の城門、それも外に勢揃いするなど前代未聞な光景だ。そんな光景を目にしながらチラリと背後を振り返れば、この国の歩く伝説がいるのだから路地裏出身の自分は色々と凄い経験をしてきたんだな、と今更ながら他人事のように思ってしまう。

 

「ふふ、如何されましたかな? バジウッド殿」

 

 騎士達の並ぶ門を離れた小高い丘の上から見下ろしていたバジウッドに、上機嫌な老人の声が届く。陛下に仕えてからそれなりの付き合いの長さがあるが、今にも歌いだしそうな声で名前を呼ばれたのは初めての経験だ。

 内心でため息をつきながら、少し疲れた表情を自覚しつつ振り向く。身長の半分もある白髭と純白のローブを着た老人が、ここ数日見慣れた満面の笑顔で立っていた。

 

「いえフールーダ殿、なんというか……これからお会いする人物の事を考えていまして」

「はっはっは、報告によると随分話せる御方のようですからな、不安に思うことはないと思いますが」

 

 どちらかと言えばあなたのせいで不安なんだが、などとは口が裂けても言えない。

今のバジウッドは言わばお目付け役だ。待ちに待った日を向かえ、抑えのきかなくなったフールーダを止める役割を皇帝陛下から命じられている。報告が正しければという前提が付くが、相手を不快にすれば帝都消滅もありえるのだから気が重過ぎる任務だ。

 

 帝国最強騎士の四騎士であるバジウッドは、当然ながら皇帝に報告された内容にもあらかじめ目を通していた。

 

 曰く、山を吹き飛ばし山脈の形を変える程の魔法を使う。

 曰く、ドワーフを苦しめていたクアゴア、フロストドラゴン族を掌握。

 曰く、ブレイン・アングラウスを素手で屈服させる。

 

 他にもドワーフ国からのドラゴンを使った空輸貿易の草案や、問題の人物のこの地に来た経緯、ドワーフ国の復興にも力を貸してもらっている事、ドワーフ国にとっては英雄であり恩人である故、相応の態度で接して欲しいと要請もあった。

 

 正直なところ『山を吹き飛ばすほどの魔法』というのをバジウッドはあまり信じていない。

せいぜい伝説級のアイテムを使用したのだろうと疑っているが、自身の仕える皇帝と帝国一の魔法詠唱者が可能性を考慮しているのであればそのように行動するだけだ。

 

 半ば滅亡しかけていたドワーフ国に、救援を送らなかった帝国としては今回の客は遠慮したい相手ではあった。だが救いなのは、銀糸鳥の伝える人物像とブレイン・アングラウスの件により、相手が『話の通じる人物』と、分かっている事だ。

 帝国に配慮したように見えるブレイン・アングラウスの件に関しては、陛下自身は「試されているな……」と、嫌そうな顔をしていたが。

 

「お話し中失礼しますわ、先行して出迎えに向かった皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の報告が――」

 

 背後から鈴のような女性の声に振り向くと、首から下に純金属製の全身鎧(フル・プレート)を装備し、豊かな金髪を揺らしながら一人の女性が歩み寄ってきた。バジウッドと同じく帝国四騎士の一人――レイナース・ロックブルズ。顔半分をその豊かな髪の毛で隠し、残った美しい左半分から冷静な視線を二人に向けている。

 

「事前の報告通り馬車は三台。銀糸鳥とドワーフ国の使者数十人、件のドラゴンと魔獣、そして馬車の御者席にブレイン・アングラウスを確認したとの連絡です」

「おいおい……あのブレイン・アングラウスを御者扱いかよ」

 

 だとしたら自分は下男か掃除係がせいぜいか、と内心で軽く笑いがでる。

 

「それと、シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウンなる人物には……不可視を最初から見破られていた様で――」

「それは素晴らしいっ!」

 

 報告の最中に力強く絶賛する声が響く。二人が視線をもう一人に向けると「それは探知系の魔法に特化してるということでよろしいか?」と、見たこともないギラギラした目でレイナースに迫るフールーダがいた。

 

「ざ、残念ながらそこまでは伝言(メッセージ)では語っておりませんでしたわ、フールーダ様。馬車列を上空から発見した際、不可視状態にも関わらず馬車の窓から顔を出した……美しい…………少女にずっと見られていたそうで――」

 

 フールーダを抑えながら続く報告を要約すると、上空の皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)から視線を逸らさないことに違和感を感じた部隊長は、率いていた二十機の鷲馬(ヒポグリフ)と共に街道に降り、なおも向けてくる少女の視線に確信すると不可視化を解き馬車に歩み寄ったそうだ。

 

「幸い相手方は不快に思わなかったそうですが」

「レイナース……わかっているとは思うが――」

「言われずともわかっていますわ。私も帝都に暮らす身、家が無くなっては困りますから」

 

 報告の節々から覗く苛立ち。会ってすらいない相手の容姿に対する、彼女の嫉妬がうかがえる。

「これは癖のようなものですから、お気になさらず。それに私の呪いを解いて頂けるかもしれない方ですから」静かに首を振るレイナース。

 

(昔から女の嫉妬には気を使ってきたが……今回ばかりは相手がな)

 

 今でこそ仲がいいが娼婦上がりの妻と四人の愛人、計五人の女と同じ屋根の下で暮らしている身としては、他の男より身に染みてその分野に理解があるつもりだ。だからという訳でもないが、彼女には主に裏方で指揮してもらうつもりだ。

 帝国四騎士として出迎えの挨拶、帝都の案内などは自分が担当する手はずになっている。それは彼女も事前に了承済みだ。

 

「ならいいが……相手次第だが、お前の呪いの件も俺か陛下が聞いてみる。今日は抑えてくれよ」

「……承知しましたわ」

 

 彼女の事情を知る者としてなんとかしてやりたい気持ちはある。

だがなによりも、帝国史において最初に名が残る伝説の英雄フールーダ・パラダイン、彼を凌ぐかもしれない存在と良好な関係を築く事、これに全神経を集中せなばならないのだ。

 

「っほっほ、楽しみですなぁ。レイナース殿の呪いをもし解けるのであれば――」

 

 そしてそのためには、この人物の手綱を握るという人生である意味最高難易度の任務をこなさねばならない事に、心の底からため息が出てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――来た。

 

 整列した騎士の中で誰の声だったかは分からない。

直前に哨戒の報告で来ることはわかっていた。しかし、実際に丘の上に顔を出したその車列を見て驚かなかった騎士は一人もいないだろう。

 

 三台の馬車の中央、遠方からでもわかる見事な漆黒の馬車を引く存在、白いドラゴン。

 

 報告通りの巨大なドラゴン。体は細長いので門を通るのに支障はなさそうだが、かなり大きくあのまま街中に入るとなれば、簡単に騒ぎになるだろう。事前に帝都民への告知と、大通りの通行停止を手配していたことに安堵の息を漏らす。

 

(いや、まだこれからだ)

 

 チラリと横を見れば「おぉおお!」と、まるで子供のようにはしゃぎだすフールーダがいるのだ。今にも飛びださん勢いでこちらに迫る馬車を見つめている。バジウッドはいつでも飛び出せるよう足の力を抜き、そして万が一のための謝罪の言葉を脳内でいくつも用意した。

 

 先頭の皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)に続きドワーフ達が乗った馬車が間近に迫ると、号令と共に騎士達が一斉に最敬礼を行う。ドラゴンを目の前にして不安ではあったが、日頃の訓練通り一つの乱れもないことにバジウッドは僅かに笑みをこぼす。

 

 人間でいう背筋を伸ばしたような、ピンと首を伸ばし周りの騎士達に見向きもせず正面を見据えたまま進むドラゴン。まるでしっかりと訓練された軍馬のような姿に感心し、そのまま御者台に目を移した。

 

(あれがブレイン・アングラウスか)

 

 服はややくたびれているが、小綺麗なマントを付けドラゴンと同じく正面を見据える男。

マントから覗くほっそりした肉体は戦場で鍛えあげられたもの。前を向いた瞳はフールーダとは別の意味でギラギラと輝き、自信に満ち溢れたような向上心のある男の顔をしている。

 

 そしてバジウッドとフールーダの前に止まった馬車は、見事と言う他ない代物だった。自らの主であるジルクニフ皇帝陛下専用の馬車でも比べてよいものか、一瞬迷ってしまったほどだ。細やかな装飾に見たことが無い紋章、ひょっとするとあれが国の国章なのかもしれない。そこからさらに後ろにはドワーフの馬車と報告にあった魔獣が一匹、騎士や門をキョロキョロ見回しながら「おぉ~すごいでござるよ」と、やや興奮していた。

 

 眼前の馬車に視線を戻すと、先に出迎えた皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の騎士とリュートを背負った冒険者――銀糸鳥のリーダーであるフレイヴァルツが、無言で前に進み出てくる。

 

「お待たせしました、三重魔法詠唱者(トライアッド)フールーダ・パラダイン様。帝国四騎士である《雷光》のバジウッド・ペシュメル様。アダマンタイト冒険者"銀糸鳥"を代表して、このフレイヴァルツ。件の紅い空を魔法でお創りになった、シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン様をお連れしたことを、ここにご報告させていただきます」

 

 バジウッドとフールーダ、前に並んだ二人を見据えた後頭を下げるフレイヴァルツ。

 

「う、うむ。いや、それより早くその御仁にご挨拶をさせて頂けるかな? バジウッド殿も私も気が急いていてな。もし私の思った通りの方であれば、今この瞬間帝国史が動くやもしれん――」

 

 小刻みに震えながら急かす様に言葉を絞り出すフールーダ・パラダイン。

その性急な答えに思わず「フールーダ殿」と、小声で制止をかける。

 

「落ち着いてくださいっ! 我らは帝国の代表なのですよ! それに中の御仁が失礼に思われる行動は慎むべきです。帝国とフールーダ殿が今後その方とどのような関係になるにせよ、不快に思われて良い事はないハズです」

 

 隣に立つ老人の震えが止まり、こちらを向いた瞳が徐々にいつもの冷静なものに戻ってくる。

そして長い白髭に隠れた口に手を伸ばすと、大きな咳を何度か吐き出した。その姿に一安心し、バジウッド自身も大きな息を吐き出す。

 

「ゴホ! ゴホンッ……んっ、感謝しますぞバジウッド殿。少々興奮してしまいまして、フレイヴァルツ殿も」

「は、はいっ! いえ!」

 

 二人のやり取りをぽかんと見つめていたフレイヴァルツも、慌てて居住まいを正していた。英雄としても国としてもかなり恥ずかしい姿を見せてしまったが、周りに言いふらすような人物ではない事はわかっているので、このまま進めるため仕切りなおす。

 

「すまない恥ずかしいところを見せたな、フレイヴァルツ殿。では、改めて帝国代表としてシャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン様にご挨拶をしたい。お取次ぎ、お願いできるかな?」

「はっ! 既に代表者は通す様に仰せつかっております! すぐに」

 

 そのまま後ろを振り返り「おいっ」と、やや粗暴な声を御者台にかける。

御者台に乗ったままこちらを伺っていた男――ブレイン・アングラウスがそのまま馬車を降り、馬車の扉を叩く。あらかじめ話を通していたためか、中の反応を確認するとゆっくりと扉をあけ放った。

 

(こいつは……)

「――――――!」

 

 馬車中の漆黒のカーテンが開かれ、中から純白のドレスをまとった少女が姿を現した。

 

 

 ――美しい。

 

 それを見てバジウッドの胸中に現れたのは、恥ずかしげもなく素直にただその一言。

 

 まるでこの世のものではないように、まわりの世界から浮き上がった美貌。優雅に階段を降りるさまは気品に満ちており、上下に重たげに揺れる胸がバジウッドのみならず周りの騎士達も魅了する。白い花と羽で飾られた帽子、そして豊かな長い金髪が太陽の光に照らされながら軽く揺れていた。

 

(報告で聞いてはいたが、これほどとは……)

 

 まるで若かりし頃、騎士として初めての給金で行った娼館の美女たちを見た気持ちを思い出す。

家で待ってる妻たちには悪いが、衝撃という意味では今目の前で起こってる信じられない美が勝るだろう。一瞬何もかも忘れそうになる。

 

「おお……なんと、……なんという……」

 

 ――故に、気づかなかった。

 

「これほどとは…第九位……いや、それ以上……おお……まさに」

 

 間違いなく言い訳だ。駆け出しの騎士のように女に見とれるなど。

 

「……神よ! 深淵の主! いと深き御方! どうか伏してお願いいたします! どうかこの矮小な私にあなた様の魔法の教えをお与えください!! 何卒!!!」

 

 バジウッドが我を取り戻した時は既に遅すぎた。

 

 ――帝国の英雄が崩れて逝く。顔で地を舐め、溢れた涙で地面を濡らしながら、階段を降りきった少女の前で既に平伏していたのだから。




・モモンガ様衣装チェンジ、ゲヘナ時の金髪白ドレスシャルティアです仮面なし(報告では銀髪のハズ…は次回?)
公式設定情報がほぼ無い服なので、髪の色をどうやって変えているのか等少し捏造しますが許してくださいなんでもしますから。(しばらくの間はこの服装です)

ちなみに書籍だとペロリストに対し、内心がドン引きの戦士モモンが淡々と対応してましたが予定されてたこと(たぶんデミえもんの作戦)なのでこのモモンガ様どうするか...待て次回

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