——つまり、結果として、閉ざされた空間で取り調べが進められてしまったと。ゴーン氏からすると適切な取調べが行われなかったという主張ですね?
徳永 罪を認めない場合は勾留を続け、長時間の取り調べを弁護人の立ち会いなく行い、家族との面会も認めず、精神的・肉体的に追い込んで被疑者に自白させるあり方は「人質司法」といわれてきました。これは日本のおもな冤罪原因のひとつとも言われています。批判の中心は、長時間にわたる勾留と弁護人依頼権およびその立会権を奪う形での取調べです。
米国の「ミランダ警告」とは
——米国には、警察が逮捕する時点で容疑者の諸権利を伝える「ミランダ警告」があります。どのような権利でしょうか。
徳永 ミランダ警告*により、保障される諸権利のうちでも、弁護人依頼権と取調べ立会権はその中核を構成しています。日本には存在しないのが、弁護人の取調べ立会権の保障です。しかし、米国ではその権利はミランダ警告の基礎にある中核的な権利です。
米国では、刑事訴訟のほぼ90%は、公判を開かずに司法取引で処理されます。司法取引は、事実上、公判前に被告人の運命を決定するものとなっています。なぜなら、捜査に協力することにより、量刑を軽くすることができるからです。
欧米では一般的になっている司法取引ですが、日本では2018年6月に導入されました。米国と日本における司法取引の大きな違いは、日本では他人の刑事事件に協力することにより自らの量刑を軽くしてもらう『捜査・公判協力』型の司法取引です。
欧米では、自らの犯罪を認める代わりに自らの犯罪の量刑を軽くしてもらう「自己負罪」型の司法取引が多く行われています。ゴーン氏の場合は捜査・公判協力型の司法取引が行われ、日産の幹部2人が、ゴーン氏の捜査に協力したため、不起訴となりました。その後ゴーン氏は金融商品取引法違反で逮捕・起訴されました。
*ミランダ警告:米国でFBIや警察などの法執行機関が、身柄を拘束した被疑者を取り調べる前に、被疑者に対して行う4項目の警告。黙秘権があること、供述は不利な証拠として採用される可能性があること、弁護士の立会を求める権利があること、経済的余裕がなければ公選弁護人を付けてもらう権利があることを告知する。