冤罪を生みやすい司法取引

——米国司法取引、日本版司法取引の是非(長所と短所)について解説してください。

徳永 米国司法取引は自己の刑を軽くしてもらうために使われることが大半で、被告にとって有利なことは、最悪の有罪判決を避けることができることです。また、刑事裁判が開かれなくなるため、事件を世間に知られずにすみます。当局からすると、捜査・裁判を効率化させることもできます。なぜなら、米国は慢性的に多くの刑事裁判を抱えており、司法取引は検察と裁判所の時間、労力、コストを削減することができるからです。

 短所としては、冤罪を生みやすいということでしょう。無実の人に対しても、自白を不当な圧力で要求する懸念があります。司法取引は、裁判のような開かれた法廷で行われないため、透明性が問題になることもあります。

 日本版司法取引は米国ほど多くなく、対象事件は組織犯罪・経済犯罪に限られます。被害者感情を考慮し、国民の理解を得られやすくするため、殺人や性犯罪は対象外です。組織的犯罪の解明が主な目的となっています。

 しかし短所もあります。自分の刑に恩恵を受ける代わりに他人の罪について証言することになるため、嘘の供述をする可能性があります。結果として冤罪を生むことも否定できないでしょう。

 対策として、偽証の場合は懲役5年以下の罰則が設けられ、取引は書面によるものとしています。捜査する側としては他人の犯罪を告白する容疑者・被告の真意を見極める必要があります。

 保釈中の被告や性犯罪者にGPS機器を身体に取り付け、行動を監視する手法は欧米では一般的に行われていますが、日本にはありません。法務省は、保釈制度見直しの一環として、このGPS装置義務付けを検討しているようです。

 映画『ブライアン・バンクス』では、主人公の男性が足首にこの装置をつける生活が描写されています。当局は被告を24時間監視できるため必ずしも勾留しなくても良くなる反面、冤罪被害者や無罪が推定されているはずの被告に装置の義務付けをすることは人権問題になることも。導入にあたってはしっかりとした制度と運用の確立が必要になることは確かでしょう。

 いずれにせよ、保釈中の外国人被告が裁判所の許可を得ずに海外逃亡したというのは異例の事態と言えます。世界的にも衝撃を与えたゴーン氏の海外逃亡。日本の司法制度のあり方や外交問題も含めて、今後の動向に注視する必要があります。

協力:ニューヨーク州弁護士のリッキー徳永(徳永怜一)