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「アニメで芝居を演出する」『マギアレコード』キャラクターデザイン・総作画監督 谷口淳一郎が表すキャラクターの魅力

2011年、これまでの“魔法少女”のイメージをくつがえしたアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』が放映された。かわいらしいキャラクターからは想像がつかないダークなストーリー展開が大きな話題を呼んだ。

その後、『まどか☆マギカ』シリーズでは、2017年にリリースされたスマートフォンゲーム『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(以下、マギレコ)』が発売され、2020年1月には、マギレコのテレビアニメの放映が始まった。本作は原作の世界観を取り入れつつ、新しい舞台、そして新しいキャラクターたちが物語をつむいでいく。


【動画】TVアニメ「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」第2弾PV

原作と比較すると多くのキャラクターが登場する『マギレコ』。キャラクター一人ひとりの魅力が重要な要素になる。そのキャラクターたちを手がけるのが、キャラクターデザインと総作画監督を務めるアニメーターの谷口淳一郎さん。原作でも総作画監督として参加しており、同シリーズには深いかかわりのある人物だ。

キャラクターの芝居は“手”で表現する

「キャラクターに芝居をつけることが僕の役割なんです」

谷口さんは、アニメ制作者すべてを“役者”だと表現した。例えば、キャラクターが振り向く瞬間を描くときは、首の角度や目の動きを考えて絵におこす。キャラクターデザインと総作画監督の二つを務めるときは、キャラクターの性格を踏まえて芝居を考えていくという。

『マギレコ』では、キャラクターへ“可愛らしさ”を軸に置いて仕草や表情の演技を意識したそう。しかし、すべてのキャラクターを可愛く演じさせるのではない。

「メインキャラクターの一人である(七海)やちよは、男っぽくカッコよく描いています。強さを持っていて、基本的につんけんした性格なので、可愛らしい仕草や表情をさせると違和感があります。逆に(二葉)さなはいつも困っていてネガティブ思考なので、男っぽさはないかなと。キャラクターによって芝居を変えているんです」

谷口淳一郎

キャラクターの芝居の中でも、谷口さんが一番意識しているのが、“手”の表現だという。手の握り方、構え方、置く場所でキャラクターごとに変化をつけている。

「手は顔の次にものを言う場所だと思っています。常に手を握っている人は緊張していたり、壁をつくったりしている印象を受ける。逆に、だらっと手を広げている人は自然体な印象になる。

『マギレコ』では、主人公の(環)いろはの手は、一番気を使っています。真面目で気を使い過ぎる性格なので、手をだらっとさせているよりも、常に肩や腕、服などに手を添えているイメージが僕の中にあります。キャラクターデザインでも作画でも、キャラクターごとに手の表情を変えることにはこだわっていますね」

『まどか☆マギカ』にはキャラクターにルールがあった?

ゲームの『マギレコ』では、キャラクターごとにデザイナーが異なる。そのため、アニメ作品にする際には、デザイナーそれぞれの個性を引き出しながら、統一感を出さなければならない。難しく感じる作業だが、『まどか☆マギカ』当初から決められた“あるルール”にのっとることでスムーズに進行できるという。

「『まどか☆マギカ』制作時の監督・新房(昭之)さんとキャラクターデザイナーの岸田(隆宏)さんが、キャラクター原案である蒼樹(うめ)先生の絵の特徴を捉えて、描く際の作画上のルールをつくってくださっていて。蒼樹先生の絵のうち、特に顔のパーツは、すべて丸や四角などの記号がベースです。また、目の中に線を数本斜めに入れたり、輪郭やまぶたの線を二重にしたり。

このルールに沿いながら、各デザイナーが描いたキャラクターの特徴など尊重すべき部分はそのまま残してアニメで描くようにしました。すると、原案を描いたデザイナーが異なっても、あまり苦労せずに『まどか☆マギカ』らしいキャラクターを描くことができました」

環いろは

環いろは

こう語る一方で、描きやすいキャラクター、描きにくいキャラクターもいると谷口さんは語った。描きやすいキャラクターに「(十咎)ももこ と(水波)レナ」、描きにくいキャラクターに「いろは と やちよ」を例に挙げてくれた。

「感情が表に出ている性格であること、そして髪形などのシルエットがハッキリしていて個性が強いことが描きやすいキャラクターの条件です。芝居がつけやすいですからね。一方、何を考えているか分からなかったり、外見がシンプルだったりすると、どうやって個性を出せばいいのか、芝居をつければいいのか分からなくて描きづらい」

マギレコ資料

「主人公なのに、いろはに関してはいまだに探り探り描いてます。感情の起伏の大きな子ではないし、登場するキャラクターの中でビジュアルも一番シンプルです。これから感情が表に出てくることを期待しています」

描く人の個性が絵に、芝居に、表れる

谷口さんは『マギレコ』と同じように原作のある作品に数多く携わり、完成されたキャラクターをアニメ用につくり替えている。その過程では、「原作と差がないか」を常に意識しているという。

「クリエーティブなことはほとんどしません。原作のある作品は、ファンが支えていたからこそアニメ化できると思っています。アニメと原作でイメージが異なると、ガッカリしてしまう人も多いでしょう。そのため、できるだけ原作に忠実に描き進めることを心掛けています」

谷口さんは自分の価値観だけを頼りにせず、毎回周りのスタッフに意見を聞きながら、キャラクターを描いていくそうだ。

谷口淳一郎

原作をリスペクトすること、原作ファンを思うことは素晴らしい。その一方、クリエーティブな仕事だからこそ、個性を出したいと感じるのでは……という問いが生まれた。

「アニメーターなら誰しもだと思うのですが、いくら忠実に再現しようとしても勝手に個性が出ちゃうんです。周りのスタッフには『谷口の絵はすぐ分かる』と言われるほど。特にキャラクターの演技で一番個性が出てしまうみたい。アニメーターからは描きづらいと言われることもあります(笑)」

「どうしてもクセのようなものが絵に出てしまうんですよね。直近で担当していた作品の影響を受けることや、同時期に複数の作品に携わっていると無意識に絵が混ざることもあります。

例えば、まどか☆マギカシリーズでおなじみの『キュゥべえ』ですが、僕が過去に作画監督として携わった、超人気の某作品に登場するキャラクターと目の形や耳の形、横顔などは無意識に似てしまっていると感じます(笑)」

「推しキャラクターを見つけてほしい」

谷口さんに、今後手がけてみたい作品を伺ったところ、「『まどか☆マギカ』の続きを今か今かと待ってます」と笑いながら話してくれた。

「新しく『まどか☆マギカ』のアニメ制作が始まると聞き、最初は劇場版の続きである新作映画をつくるのかと思っていました。しかし、ふたを開けたら『マギレコ』のアニメ制作と知って戸惑いました。シャフトさん次第ではありますが、原作の続きがつくれる日を楽しみに待ってます」

小さいキュゥべぇ

小さいキュゥべぇ

『まどか☆マギカ』へ想いを馳(は)せながらも、新作である『マギレコ』の見どころも語ってくれた。谷口さんいわく、『まどか☆マギカ』との違いにも注目してほしいのだそう。『マギレコ』はキャラクターの数が原作より多い上に、「一人ひとりの可愛さにこだわりを持っている」からだ。

「『まどか☆マギカ』はダークな世界観が作品の中で大切なポイントでした。キャラクターたちが過酷な状況に直面することも多く、可愛さよりも悲壮感や険しい表情を描かなければいけなかった。『マギレコ』もダークな面はありますが、よりキャラクターたちの可愛さを全面に出しています」

「ですから、ぜひ“推し”のキャラクターを見つけてもらえたらうれしいです。みんな個性的な上に、一人ひとりの演技を変えて表現しているつもりです。そのため、どのキャラクターに感情移入するかは人それぞれだと思います。僕としては、登場シーンは少ないけど(環)ういが見た目もバックボーンも含めて好きです。いつアニメに登場するか秘密ですが、ぜひ登場シーンは注目していただければと思います(笑)」

「アニメで芝居を演出する」『マギアレコード』キャラクターデザイン・総作画監督 谷口淳一郎が表すキャラクターの魅力

『まどか☆マギカ』の世界観が好きなら、たとえゲームを未プレイの人でも、原作を見たことがない人でも、『マギレコ』は十分に楽しめる作品となっている。可愛いキャラクターたちの中からぜひ、お気に入りを見つけてほしい。

(文・阿部裕華 写真・林紗記)

プロフィール

谷口 淳一郎(たにぐち・じゅんいちろう)

アニメーター、キャラクターデザイナー。『魔法少女まどか☆マギカ』のTVシリーズでは総作画監督のひとりとして参加。『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』ではキャラクターデザイン・総作画監督としても活躍した。キャラクターデザインを務めた作品では『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『よんでますよ、アザゼルさん。』『夏雪ランデブー』『月刊少女野崎くん』『監獄学園』『刀剣乱舞-花丸-』『多田くんは恋をしない』などがある。

 

『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』作品情報

「アニメで芝居を演出する」『マギアレコード』キャラクターデザイン・総作画監督 谷口淳一郎が表すキャラクターの魅力

2020年1月4日よりMBS・TOKYO MX・群馬テレビ・とちぎテレビ・BS11 ほかにて放送開始

<STAFF>

原作:Magica Quartet
総監督/シリーズ構成:劇団イヌカレー(泥犬)
メインキャラクター原案:蒼樹うめ
副監督:宮本幸裕
キャラクターデザイン/総作画監督:谷口淳一郎
総作画監督:杉山延寛・山村洋貴
アクションディレクター:橋本敬史
メインアニメーター:伊藤良明・高野晃久・宮井加奈
美術監督:内藤 健
色彩設計:日比野 仁
編集:松原理恵
CG監督:島 久登
撮影監督:土屋康次
脚本協力:エルスウェア
音楽:尾澤拓実
音響監督:鶴岡陽太
アニメーションスーパーバイザー:新房昭之
アニメーション制作:シャフト

<キャスト>

環いろは:麻倉もも
七海やちよ:雨宮 天
由比鶴乃:夏川椎菜
深月フェリシア:佐倉綾音
二葉さな:小倉 唯
十咎ももこ:小松未可子
秋野かえで:大橋彩香
水波レナ:石原夏織
黒江:花澤香菜

TVアニメ「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」公式サイト

マギアレコード公式ツイッター(@magireco)

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケッターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエイターにお熱。

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