2カ月ほど前、ダイエットが停滞してたときに、断食道場に入ってみた。
2日半も固形物を食べないのだから当然体重の変化はあるが、それよりも終わったときに何より驚いたのが……
「おいしい」と感じる味や、「お腹いっぱい」という感覚が、今までと違う……!?
私は基本的にジャンクフードも、酒の肴になるような塩気のあるものも大好きだ。チキンラーメンをそのままかじったりもする。
だけど断食道場に入った後、こんな変化が起こった。
- 食べ物の素材の味に敏感になり、「今までは調味料を味わっていたのかもしれない……」と思えた
- コンビニ惣菜のこんにゃくの煮物は洗わないと食べられないほど、濃い味が苦手になった
- 逆にだしの風味を強く感じられるようになり、薄味の料理をおいしく感じられるようになる
- 食べる量を減らしても、足りないと感じない
1カ月も経つと「薄味をおいしく感じられる」という感覚は保ちつつも、素材の味に対する感覚は結構元に戻ってきてる気がする。できることなら、もう一度あの感覚を味わいたい。自宅で簡単にできる方法はないだろうか。
そこで、前回のダイエット企画でもご協力いただいた、管理栄養士でファスティング(断食)マイスターの圓尾和紀さんに相談してみることにした。
圓尾和紀(まるお・かずき)さん
株式会社ふること代表。管理栄養士。“日本の伝統食の良さを活かす古くて新しい食事法”をテーマに活動している。テレビ、雑誌、ラジオなどのメディアへの出演やチャンネル登録者3万人を超えるYoutube番組「カラダヨロコブチャンネル」でも情報発信を行っている。著書に『地味だけど「ほっとする」食べ方』(ワニブックス)がある。
▼「カラダヨロコブチャンネル」
「断食で味覚が敏感に」は本当だった
──圓尾さんは「ファスティングマイスター」ということで、断食指導もされてるんですよね? やはり「痩せたい」という方が多く来られるんですか?
圓尾さん:ダイエット目的の方もいらっしゃいますけど、「体質改善したい」「デトックスして身体をスッキリさせたい」という方が多いですね。あとは「仕事のパフォーマンスを上げたい」という経営者の方なんかもいらっしゃいます。
──なるほど。ところで、私が以前断食を試した後、味覚がかなりリセットされたんですが……。
圓尾さん:敏感になりますね。
──味覚を正して、薄味の食べ物でも満足感を得たい場合、断食という方法は手っ取り早いんですか?
圓尾さん:日常の食事を少しずつ薄味に変えることでも味覚を正すことはできますが、それでは時間がかかります。それが断食だと短期間で実感しやすいんです。
断食中、どう味覚が変わったか振り返る
ここで、食事も生活もしっかり管理されていた断食道場での生活を振り返ってみたい。私の場合は、5日間道場に入り、2日半の断食を経験している。
入所前、普段よりも食事を控えめにするよう連絡がきた。一気に量を減らすと体調が悪くなってしまったり、逆に一気に増やすのもよくないらしい。
入所すると減食が始まり、翌日から断食開始だ。序盤は空腹を我慢しつつも、断食道場という場だからか、「ようやく闘いが始まったか……」という感じ。
断食中は基本的には「酵素ジュース」を飲んで暮らす。
酵素ジュースの他には、梅干しの種を舐めるのも、番茶を飲むのも、塩を舐めるのもOK。
すごくきついのかと思っていたが、意外とそんなこともない。「空腹」なのは分かっているものの、「食べたい」と思わなくなった。自分で食事量の調節をするのはなかなか難しいので、こうした施設に頼る人が多いのは納得だ。
2日半の断食を終えると、固形物(7分粥)を食べることを許され……この上ない感動があった。
ものすごく薄いはずの味噌汁(具なし)がめちゃめちゃうまい!!!! 「体験しないと分からない感覚ですよね!」と周りの人たちと言い合う。
ちょっと食べたことで食欲スイッチが入ったのか、やたら食べ物の画像を検索するようになる。けどまだ「今すぐ食べたい」という感覚はなく、「出所したらなにを食べたいか」という話をしている間でさえ、食べられなくても平気なのだ。食欲というものが、「遠くて行けない憧れの国」みたいに現実味のない感じ。
普段感じている「空腹」とは、一体なんなのだろう。
それからは徐々に食事量を増やす。気分はスッキリしてるが、断食効果のおかげなのか、単に規則正しい生活をしていたからなのか、よく分からない。
4日ぶりに食べたおかずは“超ごちそう”に思え、普段じゃあり得ないほどご飯を噛みしめつつ、昆布のうまみをしばらく堪能した。
帰宅後、「久々の食事だーーー!!」とがっつく想像もしていたが、そんな気にはならなかった。体重は2kg減ったが、そんなことよりこの味覚の変化が予想外すぎた。
ざっくりだが、以上が私の初めての断食体験だ。
「手軽なスープ断食」を提案してもらう
ここからは圓尾さんの経験も聞きつつ、「自宅で行う断食」についての具体的な相談をしていこう。
──断食って、どのくらいの期間行うのが効果的なんですか?
圓尾さん:できれば丸3日間ぐらい行ったほうが効果は実感できます。私はあんまり長い断食には向いてない体質ですが、人によっては意外と長期でもいけるんですよね。私が知っている中だと、最長62日間断食した方もいます。
──ええっ、そんなにいけるものなんですか! 圓尾さんはご自宅で断食をされることも多いんですか?
圓尾さん:身体の調子が良くなると感じるので、これまで数十回はやってます。何回もやってると慣れてきますよ。いつもは3~5日間、最大で6日間行ったことがあります。
──自宅でするなら、どういう方法がいいんですか?
圓尾さん:私の場合はファスティングの協会が認定している酵素ドリンクを買って、それを使っています。
──それだと入手も難しいですよね。ちなみにおいくらぐらいでしょう……?
圓尾さん::3日分で2万円弱です。
──そ、それは完全に予算オーバーです……。なにか代わりの方法はありますか?
圓尾さん:甘酒やコールドプレスジュースでも、1日程度の断食なら可能かと思います。ただ、これは代替品ではなく、ファスティングの質自体は下がってしまいます。
──ほんとはドリンクを使いたいところですが、予算の都合もあるので甘酒にしておきます……。一日あたり、どのぐらい飲めばいいんですか?
圓尾さん:通常摂取しているカロリーの25〜30%を摂らないといけないことを考えると、甘酒は1日400〜500mlぐらいが適当でしょう。一気に飲むと血糖値が急上昇するので、少しずつ飲むといいです。発酵食品なので、腸内環境にもプラスに働きますよ。
──甘酒だけで、3日間の断食は無理なんですか?
圓尾さん:健康上のリスクを考えるとおすすめできませんね。断食前後で消化に負担のかからないスープなどを飲みながらであれば可能だと思います。
スープについては、使ってよい食材・避けるべき食材を教えてもらい、その範囲内で作って食べる。基本的に動物性のもの(肉、魚、卵、乳製品)がNGだ。
【スープに使ってよい食材】
- 野菜
- いも類(さつまいも、じゃがいも、里いも、長いも等)
- 海藻(もずく、めかぶ、海苔、昆布、わかめ、ひじき等)
- きのこ類(シイタケ、しめじ、エリンギ、なめこ、マイタケ等)
- 大豆製品(大豆、豆腐、油揚げ、厚揚げ、豆乳、湯葉、高野豆腐、納豆等)
- その他豆類
- ごま、ナッツ類
味付けはだしや化学調味料不使用のブイヨンをベース(市販のコンソメスープでも可)に、塩コショウ、味噌、トマトスープ、豆乳スープ、カレー粉などを使う。牛乳やバターなどを使わなければ、レシピは何でもOK。
──なぜ動物性たんぱく質を摂らないようにするんですか?
圓尾さん:ファスティング中は腸内環境が良くなる傾向があるんですけど、動物性たんぱく質は腸内環境に対して悪い方向に働く作用が多いので、避けるようにしてもらっています。
──断食中に体調が悪くならないためには、何を注意すればいいでしょうか?
圓尾さん:断食中は激しい運動は避け、断食後はいきなり脂っこいものなどは食べないようにしましょう。断食前後の夕食も、なるべく20時までには終えるようにした方がいいですね。
5日間「スープ断食」チャレンジ
これまでの話から、スケジュールを組むにあたって注意するポイントはこの3点。
- 甘酒のみで2日間以上過ごすのはNG
- スープなどを飲みながらでも、3日間は続けた方が効果が感じられる
- 食事量を急激に変えない方がいい
5日間の「スープ断食」のスケジュールはこのようになった。
- 1日目:3食ともスープ
- 2日目:朝食は甘酒、昼・夕食はスープ
- 3日目:3食とも甘酒
- 4日目:朝食は甘酒、昼・夕食はスープ
- 5日目:3食ともスープ
そして、私ひとりだとデータが少ないのでは? ということで、編集担当・Tさん(30歳/男性/普通体型/いつも仕事の終わり時間が遅く、ジャンクな食生活を送っている)にも似たような断食生活をしてもらうことになった。
5日間終わったころには、お互いどれほどの変化を感じられるんだろう。
1日目:3食ともスープ
▲大根、ニンジン、レンコン、白菜、じゃがいも、プチトマトのスープ
【さくらい】
「野菜をだしで煮てもいい」と聞いていたので、だしパックで煮てみたが、よく考えたら「魚もNG」。「だしにかつお節が入ってたら、ダメじゃないか!」と気付き、急遽ブイヨンで作り直す。ブイヨンはパッケージに書かれている規定より少なめにしてみたら、塩気が物足りない。
企画だからがんばれてるけど、自宅は道場に比べて格段に誘惑が多い。ものすごい空腹だ……。
【Tさん】
朝食を逃し、14時・20時にじゃがいも、かぼちゃ、トマト、マイタケのスープ(それぞれ2人分)を作って飲む。仕事していても糖分が足りていないからか、とにかく頭が回らなくて辛い。過去最高に作業が捗らなかった1日だった。
2日目:朝食は甘酒、昼・夕食はスープ
【さくらい】
仕事で街を歩き回る時間が長いと誘惑が多く、断食道場に入っていたときより圧倒的にきつい。職場に昨日と同じスープを持参する。
空腹のあまり、職場においてあったポテトチップスをついガン見した。気を紛らわすために塩を舐め、ちょっと満足。
【Tさん】
おいしさ、とにかく甘味を欲していたので、甘酒のおいしさが五臓六腑に染み渡る。ただ、空腹感はあまり満たせていない。昼・夕食は昨日と同じレシピのスープを飲む。これで4食同じレシピだが、味への飽きはそこまできていない。まだ大丈夫。
【圓尾さんアドバイス】
糖質が少ないと、低血糖の症状が起きる可能性もあるので、いも類(じゃがいも、さつまいもなど)を意識して摂るようにしてください。
3日目:3食とも甘酒
【さくらい】
前日より「食べたい」という欲求はなく、楽になってきた。甘酒はコップに多めに入れておくとつい無意識にゴクゴク飲んでしまうので、少なめに入れておく。身体に染み渡るほどおいしい。
【Tさん】
起きるとほとんど空腹感はないが、起き上がるのが辛い。帰宅途中にカフェに入り、エスプレッソの香りだけ味わって満足する。空腹で眠れないことが一番心配だったが、読書をしていたら普通に眠気が押し寄せてきて就寝。
【圓尾さんアドバイス】
甘酒は食事のときだけに限定せずに、一口でも二口でもいいので、頻繁に飲んでみてください。決して無理はしないようにしましょう。
4日目:朝食は甘酒、昼・夕食はスープ
▲具はなめこ、長芋、大豆、あかもく。梅醤油味の昆布だしのトロトロスープ
【さくらい】
断食道場での断食明けのときほどの感激はないが、昼にスープをほんのちょっと舐めただけでかなりおいしく感じる。甘酒以外の味が久しぶりだからだ。これだけでも満足。
▲仕事中の飲み物は、ノンカフェインの麦茶に豆乳をくわえた麦茶ラテ。摂取できるものの種類が前日よりも増えて、満足感がある
▲夜のみ、なめこ、白菜、納豆、油揚げのみそ汁。普段ならこれだけが1食だなんて絶対物足りないが、今はかなりの食べ応えを感じる
【Tさん】
甘酒のみの期間は乗り切るも、我慢できず夕方に近所のオーガニックカフェに駆け込み、卵かけご飯の定食を食べる。味噌汁やおこわ、一つ一つがうまいが、味覚が変わったという感覚は今のところ薄い。ひとまずは、単純に食べられることそのものへの喜びを噛み締めるばかり。
5日目:3食ともスープ
▲さつまいも、ブロッコリー、たまねぎのスープ
【さくらい】
空腹という意味のストレスはないが、おいしい店が多いエリアを歩いたことで「世の中の人はなんて食を楽しんでるんだろう」と実感し、「嗜好品としての食」をそろそろ摂りたくなる。
さつまいも、ブロッコリー、たまねぎのスープを作った。カレー粉と豆乳を入れ「豆乳カレースープ」を作ろうとしたが、うっかり煮詰めすぎて分離……。
これまで塩分も抑えた薄味のスープばかりだったが、カレー粉と豆乳を加えたことで、風味や口当たりも変わって、満足度は高い。
もっと序盤から食事ごとにこういった変化を付けたほうが、飽きがこなくてよかっただろうな……と、最後の最後で気付いた。
【Tさん】
朝食を逃し、その後も会議だったため16時に昼食。ダメだとわかっていながらも、ハンバーガーのセットに手を出してしまった。味覚の変化を意識しすぎているからかもしれないが、何だかハンバーガーもチキンナゲットもすごくまろやかに感じる。
味覚の変化はあったか、話し合う
さくらい:味覚の変化はありましたか? こちらは、断食道場に入ったときのように「びっくりするほど違う!」ってことはないですが、「薄味のほうが食べていて落ち着く……」とは思いました。
Tさん:味覚が変わった実感は薄いですが、カップラーメンのじゃがいもや、バーベキューソースのトマトの酸味など、野菜系に対して舌の感覚が敏感になっている気はします。
さくらい:素材の味を強めに感じたのは私もです。ラーメンを食べたら妙に小麦粉の風味を感じたんですよね。食べる量はどうですか?
Tさん:あっさり普段のペース(昼・夕2食)に戻っちゃいました。ただ、深夜にお腹は減らなくなりましたね。
さくらい:私は食べる量が少なくても満足できるようになりました。空腹って意外と慣れますよね。
Tさん:そうですね。「食べたい」という欲求が脳のどこかにひっかかったまま、それ以上は下に降りてこない感じはありました。
手軽に味覚を変えるのは、やっぱり難しい!
今回は、味覚の大きな変化は実感できなかったが、舌の感覚が磨かれたような気はしている。改めて圓尾さんに気になることを聞いてみよう。
──無事、今回の断食も完走できました。ただ、正直なところ味覚の変化に物足りなさを感じてます。「どのぐらい変化するか」は断食日数に比例するものなんですか?
圓尾さん:なるほど……。比例するというよりは、味を感じる細胞の新陳代謝や味覚を伝える神経の働きを良くするには、ある程度の日数が必要なんです。
──具体的には何日ぐらい断食すれば変わりますか?
圓尾さん:目安として、3日以上は必要となりそうですね。
──今回の甘酒を使った方法だと、完全に食事を抜く期間は短いですもんね。圓尾さんが普段使われている酵素ドリンクでは、なぜ長期間の断食が可能なんですか?
圓尾さん:野菜や果物を発酵させた酵素ドリンクを使っているのですが、生きていく上で必要な栄養素と最低限のカロリーが含まれているので、長期間の断食も可能になるんです。
──「手軽に」というのは難しいんですね。今回の方法でもっと効果を感じるためにはどうすればいいんでしょうか。
圓尾さん:サプリメントではない食品を使ったファスティングは、期間をこれ以上長くすると問題が起きるリスクも高まります。この方法だと、これが限界かもしれません。
──そうなんですね……。けど、断食以降は食事量が少なくなったような感覚はあるので、味覚以外にも何かしらの効果はありますよね?
圓尾さん:そうですね。「適度に食事量を減らすと、遺伝子が活性化されて長寿につながる」という研究結果がありますので、健康にも繋がると思いますよ。
最初はダイエット目的で始めた断食。しかし、思わぬ副産物がいくつもあった。
自分の塩辛いもの好きは直らないんだろうとずっと思っていたが、意外と簡単に解決への糸口はあったと気付けたし、食べる量の減らし方のコツを掴めた感じもある。健康対策に役立ちそうな要素が多く散りばめられていて、このノウハウは今後の日常生活にも使えそうだ。
「味覚を変えるのは簡単じゃない!」という結論にはなったが、「敏感になってる」と感じたので、つまりは「これも”味覚の変化”への一歩では?」とも思える。
もう一度同じ食生活を……となるとちょっと大変だけれど、「適度に食事量を減らす」のは身体にもよさそうなので、たまにはこの方法を生活に取り入れてみたい。
書いた人:さくらいみか
レバ刺しが好きだったが、違法になってからはゴマ油を舐めて満足しようとしている。 塩辛いものばかりを好んでいるので、病気にならないよう気を付けて生きていきたい。 長生きをしたい。
- Twitter:@skrimk0218