東京地検の斎藤隆博・次席検事は、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の会見が終わる前の9日午前零時すぎに日英2言語でコメントを発表し、「自身の犯した事象を度外視して、一方的に我が国の刑事司法制度を非難する主張は到底受け入れられない」と批判した。
斎藤次席は会見について「自らの行為を不当に正当化するものに過ぎない」と批判。逃亡については「我が国の法を無視し、処罰を受けることを嫌った」と非難した。
ゴーン前会長が逃亡理由の一つに挙げた妻キャロル氏との接見禁止については、「ゴーン被告に逃亡の恐れが認められ、妻を通じてゴーン被告が口裏合わせなどの罪証隠滅を現に行ってきたことが原因だ」と指摘。事件が日産と検察による「陰謀」との前会長の主張についても、「有罪判決が得られる高度の蓋然性(がいぜんせい)が認められる証拠を収集しており、不合理で全く事実に反している」とした。
コメントは地検のホームページに掲載された。地検がこうしたコメントを出すのは極めて異例。
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の会見を受け、東京地検の斎藤隆博次席検事が9日未明に発表したコメントの全文は次の通り。
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被告人ゴーンは、犯罪に当たり得る行為をしてまで国外逃亡したものであり、今回の会見内容も自らの行為を不当に正当化するものにすぎない。被告人ゴーンが約130日間にわたって逮捕・勾留され、また、保釈指定条件において妻らとの接触が制限されたのは、現にその後違法な手段で出国して逃亡したことからも明らかなとおり、被告人ゴーンに高度の逃亡のおそれが認められたことや、妻自身が被告人ゴーンがその任務に違背して日産から取得した資金の還流先の関係者であるとともに、その妻を通じて被告人ゴーンが他の事件関係者に口裏合わせを行うなどの罪証隠滅行為を現に行ってきたことを原因とするもので、被告人ゴーン自身の責任に帰着するものである。このような自身の犯した事象を度外視して、一方的に我が国の刑事司法制度を非難する被告人ゴーンの主張は、我が国の刑事司法制度を不当におとしめるものであって、到底受け入れられない。
また、当庁は、被告人ゴーンによる本件各犯行につき、適正に端緒を得て我が国の法に従って適法に捜査を進め、訴追に至ったものである。本件の捜査により、検察は被告人ゴーンの犯した犯行について、有罪判決が得られる高度の蓋然(がいぜん)性が認められるだけの証拠を収集し、公訴を提起したものであって、そもそも犯罪が存在しなければ、このような起訴に耐えうる証拠を収集できるはずがなく、日産と検察により仕組まれた訴追であるとの被告人ゴーンの主張は不合理であり、全く事実に反している。
当庁としては、適正な裁判に向けて主張やそれに沿う証拠の開示を行ってきたところ、被告人ゴーンは、我が国の法を無視し、処罰を受けることを嫌い、国外逃亡したものであり、当庁は、被告人ゴーンに我が国で裁判を受けさせるべく、関係機関と連携して、できる限りの手段を講じる所存である。
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森雅子法相は9日未明、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の記者会見を受けて臨時の会見を開いた。深夜の会見は極めて異例。前会長の海外出国について改めて「犯罪行為に該当し得る」とした上で、「刑事裁判から逃避した。どの国の制度下であっても許されない行為だ。それを正当化するために、我が国の法制度や運用について誤った事実を喧伝(けんでん)するのは看過できない」と述べた。
前会長が批判した日本の刑事司法については「個人の人権を保障しつつ、事案の真相を明らかにするために適正に運用されている。すべての刑事事件は、被告に公平な公開裁判を受ける権利が保障されている」と反論した。
さらに前会長に呼びかける形で、「主張すべきことがあれば我が国の刑事司法の中で正々堂々と主張することを望む」と語った。
森雅子法相のコメントの全文は次の通り。
先ほど国外逃亡したカルロス・ゴーン被告人が記者会見を行ったが、今回の出国は犯罪行為に該当し得るものであり、彼はICPO(国際刑事警察機構)から国際手配されている。
ゴーン被告人は、我が国における経済活動で、自身の役員報酬を過少に記載した有価証券報告書虚偽記載の事実のほか、自己が実質的に保有する法人名義の預金口座に自己の利益を図る目的で日産の子会社から多額の金銭を送金させた特別背任の事実などで起訴されている。
ところが、ゴーン被告人は裁判所から逃げ隠れしてはならない、海外渡航をしてはならないとの条件の下で、これを約束し保釈されていたにもかかわらず、国外に逃亡し、刑事裁判そのものから逃避したのであって、どの国の制度の下であっても許されざる行為である。しかも、それを正当化するために、国内外に向けて我が国の法制度やその運用について誤った事実を殊更に喧伝(けんでん)するものであって、到底看過できるものではない。
我が国の刑事司法制度は、個人の基本的人権を保障しつつ事案の真相を明らかにするために適正な手続を定めて適正に運用されている。
そもそも各国の刑事司法制度には、様々な違いがある。例えば、被疑者の身柄拘束に関しては、ある国では広く無令状逮捕が認められているが、我が国では現行犯などのごく一部の例外を除き無令状の逮捕はできず、捜査機関から独立した裁判官による審査を経て令状を得なければ捜査機関が逮捕することはできない。このように身柄拘束の間口を非常に狭く、厳格なものとしている。
刑事司法制度は各国の歴史や文化に基づき長期間にわたって形成されてきたものであり、各国の司法制度に一義的な優劣があるものではなく、刑事司法制度の是非は制度全体を見て評価すべきであり、その一部のみを切り取った批判は適切ではない。
身柄拘束に関する不服申立制度もあり、罪証隠滅のおそれがなければ妻との面会なども認められる。全ての刑事事件において、被告人に公平な裁判所による公開裁判を受ける権利が保障されている。
そして、我が国はこれまでの警察や検察、司法関係者と国民の皆様の努力の積み重ねにより、犯罪の発生率は国際的にみても非常に低く、世界一安全な国といってよいものと考えている。
もちろん様々なご指摘があることは承知しており、これまでも時代に即して制度の見直しを続けてきたものであり、今後もより良い司法制度に向けて不断に見直しをしていく努力は惜しまない。
我が国の刑事司法制度が世界中の方々に正しく理解していただけるよう、今後も情報提供を行い疑問に答えてまいる所存である。
ゴーン被告人においては、主張すべきことがあるのであれば、我が国の公正な刑事司法手続きの中で主張を尽くし、公正な裁判所の判断を仰ぐことを強く望む。
政府として、関係国、国際機関などとも連携しつつ、我が国の刑事手続きが適正に行われるようできる限りの措置を講じてまいりたい。
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