身なりはとてもきれいで、小旅行みたいな大荷物。下着類の入った透明のポリ袋を持ってたのだけがちょっと変わった感じだった。
こんにちは、と声をかけてみたら、こんにちは、と返してくれたけど、なんだか不安げにおろおろしている。
どうかされましたか? ときいたら「家に帰ろうと思うのに、わからなくなってしまいました」とはっきりした口調で言って、泣き出してしまった。
詳しく聞いたら、ちかくに団地があって、確かにそこに住んでるんだけど、何棟の何号か全然わからない、どうしても思い出せないと言う。
心細くてしかたないんだろう、それだけ言うととにかくしくしく泣くので、わあ、どうしようと思って、とっさに「大丈夫ですよ、おうちは絶対わかりますよ。おうちがわかるまで一緒にいますからね、必ず送っていきますからね」と言って、ちょっとだけハグした。(同性だからいいかなと思って)
振り返るとなんとも無責任な発言だけど。(特におうちは絶対わかるのところ)
それで、おかばんの中見せていただいてもいいですか、と持ちかけると、「ええ、たいしたものは入ってないのでどうぞ」と、やっぱりはっきりした口調で許可してくれたので見させてもらったら、いろいろとパンパンに入ってる中、通所介護の利用料請求書が出てきて、そこにご自宅の住所の記載があった。
ご本人が言うとおりの団地だったから、玄関先まで送り届けられた。
ご自宅まで、手をつないでゆっくり歩いていった。
途中、寒いのにすみません、大丈夫ですか? と、不安で泣きながらも私を気遣ってくれた。
「厚着してるから寒くないです。〇〇さんは大丈夫ですか?」ときくと、私は大丈夫ですと答えてくれた。
部屋の前についてみたら、玄関は施錠もしてなかった。
もう迷子になって不安で泣かなくてもいいように、どうにかうまいこと行ってくれたらいいなと切に願う。
請求書の明細に「おやつ代」の文字をみたとき、ドアの内側に「あぶないので外に出ないでください」と書いた貼り紙がしてあるのを見たとき、どうしてかわからないけど、ただただとてもやるせなくなり、涙がこぼれそうになった。
帰るべき家を見失って泣く。
未来の私の両親であり、私自身であるような気もして、今もとてもやるせない。
同時に、とても丁寧な言葉遣いをされて、自分が不安でつらいときなのに、こちらにあたたかな気遣いもしてくださる、礼儀正しい人格の人だった。
うまく言えないけど、だからこそやるせない。
それから、大病でも認知症でも、それを患っている人のことを、私はそこだけをクローズアップして見てしまってるんだなと気づいて、そういう自分も嫌になった。
当たり前だけどそれは本当は「夏がだめだったり、セロリが好きだったりする」ような、当人の一面にしかすぎないはずなのに。
ボケたら何もわからないなんて嘘だよね。 若年性認知症ならそのつらさを想像できるのに、若いうちは老人を自分とは違う生き物のように思ってしまう。 手を引いてくれてありがとう。
自分と地続きなんだと痛切に思った出来事だった 読んでくださって、ありがとうと言ってくださって、こちらこそ本当にありがとう
でもキモくて金のないおっさんがボケて迷子になっていた場合はどうでもいいから無視するんですよねわかります
今日は遅かったな 仕事忙しいの?
なんていい人!神さま仏さま! 私の母は認知症になって徘徊して草野球を見ているところを保護されました。近所の人が、おたくの人寒い中草野球見てるよって父に言いに来てくれた。...