保釈対応、突かれた隙 ゴーン元会長の逃亡発覚1週間

ゴーン元会長逃亡
社会・くらし
2020/1/7 23:00

日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)の海外逃亡が発覚して1週間が過ぎた。元会長がレバノンにたどり着くまでの足取りはほぼ判明し、保釈中の行動管理や水際での出国検査の隙が浮き彫りになっている。政府はこれを機に制度や運用の見直しに動き始めたが、被った痛手はあまりにも大きかった。

「私はレバノンにいる」。2019年12月31日の大みそか、ゴーン元会長が突然声明を発し、逃亡のニュースは世界を駆け巡った。

東京地検や警視庁の捜査によると、元会長は12月29日午後、保釈条件で指定された東京都港区の住宅を1人で出た。米国人とみられる男性2人とホテルで合流し、品川で新幹線に乗って大阪へ向かった。関西国際空港で大きな箱に潜んでプライベートジェットに乗り込み、同日深夜に日本を離れたとされる。

関空では箱のX線検査は行われていなかった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、元会長の逃亡を支援する十数人のチームが事前に20回以上来日して各地の空港を下見し、保安検査の甘さから関空を選んだと報じている。

航空法が定める保安検査の主目的は、不特定多数が乗る航空機でのハイジャックやテロの防止。プライベートジェットについては「自家用車と同じ」(国土交通省航空局)とされ、専用施設では検査をしないケースも少なくないという。プライベートジェット運航会社の担当者は「使うのは企業の役員や富裕層。セキュリティーよりプライバシー、簡素な手続きが重視されるのは世界共通の認識だ」と話す。

税関は違法薬物の流入阻止や関税徴収を主な目的としており、「出」に関しては手薄になりがち。「税関は申告に基づく性善説が原則。飛行機に何を積み込むか、全てを把握するのは難しい」と税関関係者は話す。

カルロス・ゴーン元会長が使ったとみられるプライベートジェット専用施設の入り口(7日、関西国際空港)

カルロス・ゴーン元会長が使ったとみられるプライベートジェット専用施設の入り口(7日、関西国際空港)

東京地裁が決めた元会長の保釈条件の大半は、事件関係者との接触を防ぐためのもの。住宅には人の出入りを撮影する監視カメラが設置されていたが、1カ月分の映像をまとめて裁判所に提出する方式で、逃亡を察知する役には立たなかった。

逃亡防止策の不備を危惧したためか、元会長には民間の「監視」が付いていた。弁護団などによると、19年4月の保釈以降、探偵が24時間態勢で尾行していたという。弁護団は「日産が雇った探偵が違法につきまとっている」とし、12月27日に警察に告訴状を提出。監視が止まった直後、元会長は逃亡を決行した。

日産は監視について「コメントできない」としている。

15億円の保釈保証金は全額没収となったが、逃亡を防ぐ決め手にはならなかった。捜査関係者は「各国で様々なビジネスを展開している元会長の資産の全容を把握するのは困難」と話す。

米国や英国、カナダなどでは、保釈中の被告に全地球測位システム(GPS)などによる追跡装置を装着させることもある。だが、日本では国外逃亡事案が比較的少なく、プライバシーへの配慮もあって導入の議論が進んでこなかった。

元会長の逃亡を受け、法務省は保釈中の逃走行為に罰則を設ける方向で検討に入った。GPS活用についても森雅子法相は「様々な観点から検討したい」としている。赤羽一嘉国交相は7日、羽田、成田、中部、関西の4空港で6日からプライベートジェットの大型荷物の保安検査を義務化したことを明らかにした。

ゴーン元会長は8日にベイルートで記者会見を開く予定で、日産や日本の司法を厳しく非難するとみられている。元会長の身柄が日本に戻る見通しは立っていない。

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