「皆に話さなければならない事というのは…私が犯した過ちについてだ」
「…アインズ様!そのような事は…」
「アルベド、お前の気持ちは嬉しいが私は皆に知ってもらわないと自分が許せんのだ。頼む…」
アインズが何を言うのか察したアルベドはそれを止めようとするのだが、アインズの決意は固い。アインズに「頼む」と言われれば引き下がるしかない。自分の制止は届かないと知ったアルベドは、そっと目を伏せアインズの側に寄り添うように立つ。
(…アルベド…)
その姿に背中を押されたアインズは、自分を愛してくれるアルベドは本来の姿ではなく、自分がそのように彼女の心を変えてしまった事をシモベ達に告げる。
「…そのような事をしたのはアルベドに対してだけだ。それはアインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて誓おう。だが、そんな事をした私を皆はアルベドの伴侶として認めてくれるか?仕えるべき主人と認めてくれるか?」
話を締めくくり、シモベ達の反応を伺うアインズ。だが…
(…えっ、何の反応もないぞ!?なんかキラキラした目でこっち見てるし!もしかして聞こえてなかった!?)
シモベ達から何の反応もない事に狼狽えているアインズの横で、今度はアルベドがそっと語り出す。
「お言葉ですが、アインズ様は思い違いをなさっています。皆、確かにアインズ様が仰るような事をしてくださったのは事実です。それは私も感じましたから…ですが、それは私にとって喜びでしかありません」
「!アルベド…」
「アインズ様は覚えてらっしゃらないかもしれませんが……あの、少しの間だけモモンガ様とお呼びしてもよろしいですか?私がお話したいのは、アインズ様と名乗られるずっと以前の出来事ですので…」
「…ああ、構わないぞアルベド」
「ありがとうございます、モモンガ様。モモンガ様は至高の御方々が去られた後も、長い間お一人で私達を守ってくださいました」
「……」
「私達を守る為に、お怪我をされて帰って来られる事も珍しくありませんでした。ある日傷だらけで玉座の間に来られたモモンガ様を見た時、何の役にも立たない自分を消してしまいたいと思いました。でも…」
「でも…その時モモンガ様は私を見て、私に…寂しい思いをさせてすまないな…と仰ってくださいました。誰よりも傷ついているのはモモンガ様なのに…」
「その瞬間からです。私がモモンガ様の為に全てを捧げようと誓ったのは…あの時私の中に流れてきたあたたかい感情を、私はずっと忘れません」
「それと…」
そこまで語り終え、アルベドはシモベ達の方へ顔を向ける。
「ナザリックがこの世界に転移する直前、モモンガ様は確かに私に与えられた定めを変えられたわ。でも、それは私の為を思っての事なの」
「私に元々与えられていた定めは…誰にでも体を許す淫らな女…そういうものだった。もっとも、淫魔なのだから仕方ない事なのだけど」
「アルベド…知っていたのか」
「自分の事ですもの…それくらい分かりますわ」
「モモンガ様はね、それを不憫に思って変えてくださったの。本当に幸せだった…だって、私をお創りになられたタブラ様よりも私を大切に思ってくださったのよ。モモンガ様が初めて声をかけてくださった時と同じあたたかさを感じたわ」
アルベドはもう一度アインズに向き直る。
「玉座の間での出来事は私の支えとなっております。そして、定めを変えてくださった事も私にとっては大切な思い出なのです。それを過ちなどと仰らないでください…」
そう言って少し切なげに微笑むアルベドを見て、アインズは胸を締め付けられるような思いで必死に言葉を探す。
「アルベド、私は…」
「良いのです、アインズ様。私の気持ちが伝わればそれで十分なのですから…それに、思い違いをされているのはこれだけではないのですよ」
「ねえアウラ、マーレ。アインズ様が私の定めを変えられた事をどう思う?」
アルベドの問いかけに、マーレがおずおずと答えようとする。
「ア、アインズ様…」
(い、いきなり子供はやめて!子供に軽蔑されるのが一番辛いんだぞ…)
アインズはアルベドがいきなりアウラとマーレに意見を求めた事に、自分で言い出した事にも関わらず激しく動揺する。しかし、返ってきた答えは…
「…ボ、ボクにも…ボクにもお願いします!」
「…………ハイ?…………」
「あー!ダメだよマーレ!アタシが先なんだからね!」
「だ、だって、ボクも大きくなったらアインズ様のお嫁さんになりたいから…」
「お嫁さんって…アンタは男の子なんだから無理に決まってるでしょ」
「で、でも…コ、コキュートスさんがそういう道もあるって言ってたよ…」
「ウム、タシカニイッタ」
「ちょっと、コキュートス!マーレに変な事教えないでよ!も~!それにしたってさ、アルベドだけずるいよね~」
そのようなやり取りを唖然として眺めるアインズ。そんなアインズを見てアルベドはクスクスと笑みをもらす。
「思い違いという意味がお分かりになりましたか?私達シモベにとってアインズ様をお慕いするのは当然の事。アインズ様を愛する事を、アインズ様自ら求めてくださるというのはシモベにとって最大の喜びなのですよ」
「…そ、そういうもの…なのか?」
(あのキラキラした目は期待の眼差しだったのか…もはや忠誠とかそういうレベルじゃないな…)
「そういうものなのです。もう…こうなってしまうから言いたくなかったのですよ?せっかく二人だけの秘め事にしようと思ったのに!」
そう言って少しむくれるアルベドをアインズは優しく抱き締める。その時、アインズの心に刺さったトゲは綺麗に消えさっていた。
「アルベド、ありがとう。私はお前に救われたよ…」
「…いいえ、アインズ様が私を救ってくださったのです」
そういって抱き合う二人をシモベ達は涙ぐみながら見守っていた。
…アインズの背後にいる二人を除いては。
その二人とはシャルティア・ブラッドフォールンとデミウルゴス。二人とも血の涙を流しながら、ぐぬぬと歯を食いしばっていた。
(こんの大口ゴリラ!調子に乗りおってぇ~~~!)
(…まさかアインズ様がそのようなお力を持っていらしたとは!流石はナザリックの頂点に相応しき御方…しかしなぜッ!なぜこのデミウルゴスにその定めを与えてくださらなかったのですかッ!)
そんな二人を尻目に、アルベドはアインズの胸の中でほくそ笑んでいた。
(くっふ~~~っ!ついにやったわ!ついに落としたわ!最後は案外チョロかったわね)
そしてアインズの肩越しにシャルティアへ視線を送る。
(見なさいシャルティア。所詮あなたとは格が違うのよ、か・く・が!)
その挑発を受け取ったシャルティアは最後の抵抗を試みる。
「ね、ねえアインズ様…?」
「ん?どうしたシャルティア?」
「当然、妾にも定めをお与えくださるのでありんしょう?アルベドよりもアインズ様を愛しているという定めを…」
「ああ、それこの世界に来た時に出来なくなったんだ。もうやる気もないしな」
アインズが放ったこの言葉を聞いて、守護者最強を謳われたシャルティア・ブラッドフォールンは真っ白な灰になった。もっともショックだったのは他のシモベも同じらしく、場の空気が一気に盛り下がる。
(くふふっ、ざまあ見なさいヤツメウナギ!これで完全決着ね。これはもう…この場でイッちゃってもいいわよね!も、ももんがさまぁ~~!)
「アインズ様。アルベドに関しては皆の賛同が得られたという事で、次の者の発表に移ってもよろしいですか?」
大惨事が起ころうとしたその時、アルベドの異変に気付いたデミウルゴスが二人を引き離す。
「ああ、そうだな。長くなってすまなかった」
アルベドを放し玉座に戻るアインズ。しかしその時聞こえたあからさまな舌打ちに一抹の不安を覚える。
(まさかさっきのが演技って事はないよな…?いやいや、もっとアルベドを信じてやらないと!さっきまでのアルベドは本当に綺麗なアルベドだったぞ!)
一方、デミウルゴスは大惨事を未然に防げた事に胸を撫で下ろしていた。
(危なかった…こんな所でアルベドにアインズ様のご計画を台無しにされる訳にはいかないからね…しかも次の発表の時にはアインズ様の秘策ともいうべき何かが隠されているはず…心しておかねば)
アインズの言う「内容は言えないけど皆に話さなきゃいけない事」とは、アルベドの設定いじっちゃったよ!という事なのだが、それには全く気付かないデミウルゴス。それはコキュートスもセバスも同様であった。それもそのはず、シモベ達にとって「アインズを愛する」という事は当然も当然であり、アインズがアルベドに行った事に問題など何もないのだ。アインズ・ウール・ゴウンこと鈴木悟のそれなりの覚悟を伴った大告白は完全にスルーされ、事態は次の展開を迎える。
「本日はもう一名、アインズ様の伴侶となる栄誉を授かる者がいます。その者の名は…」
今回はここまでとなります。読んでくださった皆様ありがとうございました!アルベド編はこれで終了です。次回、アインズ様の秘策?が明らかに!?