「ニッポンの和牛を世界へ」――。そんなコンセプトを掲げ、最高級の和牛ブランドを世界に広めているWAGYUMAFIA(ワギュウマフィア)をご存じだろうか。
世界中の名高いシェフから注目される和牛の輸出と、元サッカー選手のデビッド・ベッカムやシンガーソングライターのエド・シーランなど、世界中のセレブをファンに持つ高級レストランを運営する企業だ。世界最高峰と言われたレストラン「エル・ブジ」を手掛け、料理界の頂点を極めたと言われるアドリア兄弟の弟アルベルト・アドリアをはじめ、世界的に名高いシェフがWAGYUMAFIAとポップアップイベントを開いていて、海外でも話題になっている。
そのトータルプロデュースをしているのは、和牛の世界的なサプライヤーとして知られるWAGYUMAFIA代表取締役の浜田寿人。起業家の“ホリエモン”こと堀江貴文と共同で 2016 年に設立した。これまで世界85都市以上を巡り、神戸牛と尾崎牛のポップアップのワールドツアーを開催。世界の有名シェフとコラボしながら、高級レストランに神戸牛と尾崎牛を輸出することに成功している。
高級レストランは国内で 4 店舗を展開するほか、18 年には香港に旗艦店をオープン。今後は現在の香港に加えてマニラ(2020年)、バンコク(2021年)、ロンドン(2021年)などにも出店する計画だ。つまり、世界一の和牛を売る男が、浜田なのだ。
しかし、わずか3年という短期間で驚異的な成長を実現した背景には、浜田が経験した幾度もの挫折と失敗があった。苦難の末にたどり着いたWAGYUMAFIAのビジネスモデルについて聞いたインタビューを、前・中・後編の3 回にわたってお届けする。
まず前編ではWAGYUMAFIAの現状と、ソニー本社に最年少で入社後、映画会社を立ち上げるなど若くして起業家として活躍してきた浜田の“挫折”について聞いた。
「いってらっしゃい!」
野太い声を発し、光り輝く牛肉を見せながら睨(にら)み付けるようなポーズで高級和牛を提供するのは、WAGYUMAFIA共同創立者である“和牛輸出王”浜田寿人と、起業家の“ホリエモン”こと堀江貴文。東京都・歌舞伎町で2019年10月にオープンした、新業態のスタンド式高級焼肉店YAKINIKUMAFIA(ヤキニクマフィア)の発表会で見せたパフォーマンスだ。
実はこの掛け声は、WAGYUMAFIAのレストランや、世界各国で開催しているイベントでもおなじみのものだ。外国人には「EAT-N-SHOUT!(イートゥンシャウト、いってらっしゃい)」という意味だと説明している。一種の語呂合わせのようなものだが、日本の和牛を世界に広めるための、エンターテインメントの一環でもある。
WAGYUMAFIAは16年に設立。宮崎県の尾崎宗春が育てる尾崎牛と、兵庫県の田中久工をはじめとする神戸牛のトップ生産者から直接仕入れた黒毛和牛を、海外のレストランに輸出する一方、自社でもレストランを展開する。店舗数はグループ全体で国内に6店舗(東京に4店舗)、海外に3店舗(香港)だ。
国内のレストランは多彩だ。会員制の最高級和牛レストランのほか、神戸牛のシャトーブリアンを使用したカツサンドを5万円で提供する店や、世界のシェフと和牛コラボをするポップアップレストラン、スタンディングの焼肉バーなどもある。香港の店舗は客席数が25席ながら年商6億円と好調。20年1月以降、ロンドン、ニューヨーク、マカオなど海外でも5店舗の出店を目指している。
一方、新業態として展開を始めたYAKINIKUMAFIAは、尾崎牛と神戸牛を税込で1人5500円から味わえる焼肉レストランだ。20年1月以降は会員登録がなくても利用できるようになった。客の半数はWAGYUMAFIAと同様にインバウンドを想定していて、21年までに国内20店舗と、海外は香港、マニラ、ロンドン、ニューヨークなど10店舗を立ち上げる。
香港では「ラーメン二郎」にインスパイアされた和牛100%ラーメン「WAGYUJIRO(ワギュジロー)」などを提供する「MASHI NO MASHI」も展開していて、20年1月には東京・六本木にもWAGYUJIRO専門店「MASHI NO MASHI TOKYO」がプレオープンした。1杯1万円、1日1時間営業のみというスタイルだ。
設立からわずか3年で急成長を続けるWAGYUMAFIAは、国内では堀江の事業というイメージが強いかもしれない。だが、実質的にトータルプロデュースと海外戦略を担当しているのは何を隠そう、この浜田だ。この時期に一気に店舗展開をする理由を、浜田は記者発表会でこう述べた。
「今年に入って海外のシェフから、和牛のみならず日本の食材に対して、熱い視線が向けられていると実感しています。2019年はラグビーワールドカップが開催され、2020年にはオリンピックが控えていることもあって、海外の視線が日本に向いているのは間違いないです。
僕らが和牛に注目しているのは、食こそが英語の次に取って代わることができる国際言語、非言語だと考えているからです。和牛をはじめとする日本の食材という最高のコミュニケーションツールを全世界に向けて発信していくチャンスだと思っています」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.