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【社会】

防犯映像 市民に見せる 練馬区立図書館 不審者や置引 確認頼まれ5件 

捜査関係事項照会書なしに男性と警察官に防犯カメラの映像を見せていた練馬区立石神井図書館=東京都練馬区で

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 東京都練馬区立図書館が、防犯カメラの映像を一般の人の求めに応じて見せるなど、区の条例や規程に反したずさんな運用をしていたことが分かった。図書館は利用者の「内心の自由」を守る役目を負っており、個人情報保護のレベルは一般の防犯カメラよりも高い水準が求められている。専門家から「ここまでいいかげんとは、がくぜんとした」との声が上がっている。 (石原真樹)

 区個人情報保護条例と区立図書館の防犯カメラ運用の規程では「(外部提供は裁判所や警察署などからの)正式要請があるもの以外には応じない」とし、捜査関係事項照会書などの事前の提出を定めている。

 同区立図書館の映像データについて二〇一七、一八年度の外部提供状況を調べた池尻成二区議や区によると、この二年間で十五件を警察に提供。このうち二件は先に一般の人に見せていた。警察官とともに一般の人に見せたケースも三件あり、しかも照会書の提出がなかったり、事後提出だったりした。

 一般の人に先に見せた事例は、一八年十月、平和台図書館は、飼い犬の散歩を巡って他人に罵声を浴びるなどのトラブルになった、と訴えた女性に対し、トラブル相手が写っている映像を確認させた。三月には、同館敷地内の駐輪場で不審者に声を掛けられたという女児の相談を受け、その様子が写っている映像を見せた。ともに当事者の申告のみで、法的な書面などの根拠はなかった。

 警察官が立ち会った事例は、一八年四月、石神井図書館内で「置引にあった」という男性に館内の様子が写った映像を見せ、一七年八月に関町図書館、一九年二月に練馬図書館でも、児童への声掛けなどで一般の人に映像を見せていた。

 石神井の事例は、照会書も受けていなかった。照会書はほか十四件は提出されていたが、関町と練馬の事例も含め半数の七件は事後提出で、計八件で規程の原則から外れていた。

 区立図書館を統括する光が丘図書館の清水優子館長は「館内の公序良俗の維持と利用者の生命、身体、健康、財産に対する危険を避けるために必要と判断し対応した」と説明する。

 これに対し、日本図書館協会の西河内(にしごうち)靖泰・図書館の自由委員会委員長は「図書館の防犯カメラの運用は厳格であるべきだ。映像には他人も写っており、一般利用者に見せるなど信じられない。緊急性があるとも思えない。これだけ個人情報保護が叫ばれる中で、開いた口がふさがらない」と話している。

◆捜査提供でも慎重さ必要

 図書館は近年、利用者のプライバシー保護と防犯の板挟みに悩まされてきた。練馬区立図書館のずさんな運用があらわになったことで、図書館の信頼を損ないかねない。

 二〇一七年、愛知県図書館など複数の図書館で蔵書切り取り事件が発生。同館は警備を増やしたが「利用者のプライバシーが見えてしまう」として館内に防犯カメラは設置しなかった。一五年には明治大学図書館が館内の盗難対応で、「苦渋の決断」として捜索令状なしに防犯カメラ映像や入館者記録などを警察に提供し、波紋を広げた。

 日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」は、図書館が戦前に国民の思想統制に加担したとの反省から、読書記録はもちろん、図書館の利用事実も外部に漏らさないことを掲げる。情報公開請求で実態を調べた池尻区議は「個人情報保護条例すら守れない図書館の現状に強い危機感を感じる」と批判する。

 同協会の西河内さんも「図書館は、利用者に信頼してもらうことが何よりも大事」と強調。「現代では、学校に行きたくない子、配偶者暴力被害に悩む人が図書館に逃げてくることもある。利用者が安心できるよう、プライバシー保護には敏感であるべきだ」とし、犯罪捜査であっても、任意の提供は慎重な姿勢が必要だと指摘する。

 

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