20:どんなサンプルシナリオを書くべきか
まず最初に謝罪を。
シナリオライターの収入で書いた額と所属ライターのお給料で書いた額が異なり、大きな齟齬が発生しておりますがこれは筆者が鳥頭なせいです。
このエッセイはあくまでもフィクションな嘘まみれの日記でございますから今後矛盾などが発生しても「ふ~ん」と流していただけるとうれしいです。ごめんなさい。
気を取り直して本題に入ろう。
シナリオライターになるにはメーカーにサンプルを送ればいいと以前軽く書いたわけだが、今回は「どうすればエロゲシナリオライターになれるか」をできる限り具体的に書いてみたいと思う。本気で目指している人の参考になれば幸いである。
まず、「自分は往年の名作のような泣きゲーを作りたい」と思っている人はエロゲではなく別の道を模索した方がいい。今まで散々書いてきたが、今は萌えの全盛期であり、ほとんどのメーカーは萌えしか求めていない。泣きゲーを作ろうとして業界に入ると、きっと、いや、絶対絶望することになる。そんなシナリオは書かせてもらえないから。実際、好きなものが書けず辞めていったライターを何人も見ている。俺自身、一時は萌えを書くことの難しさに挫折しかけたこともある。
つまり、今シナリオライターに求められている資質は「萌えキャラ/シナリオが書けること」この一点である。
裏道として「萌えシナリオに見せかけて実は泣きゲー」「萌えシナリオに見せかけて実はグロゲー」という騙し討ちもできるといえばできるが、駆け出しのうちは企画を任せてもらえることもまずないため、いつそんな話を書ける機会が巡ってくるかわからない。やはり萌えゲー以外を書きたい人は別の道を選んだ方がきっと活躍できることだろう。
陵辱系のようなジャンルも様々な規制のせいで年々減っているため、「俺はハードなエロが書きたいんだ!」という人も萌えゲーか、あるいはゆるい萌え抜きゲーに回されることが多い。
とはいえ、最近ちょっとずつ規制がゆるくなってきていて、グロ系の作品がちらほらと出るようになってきた。そっちをやりたいと思っている人は、今がいいタイミングかもしれない。
次にサンプルについて。
好き放題書いて手当たり次第送ればいい。なんてわけは当然ないから、まずは好きなメーカーのHPを覗いてみよう。どのメーカーもだいたい求人のページがあるから、そこにどんなサンプルを用意すればいいかが書いてるはずだ。
俺がよく例に挙げるClochetteのページを見てみよう。
募集職種はグラフィックデザイナー・背景グラフィッカー・アシスタントグラフィッカー。以上三種のみ。残念ながらライターは募集していないようだ。
次にオーガストを見てみよう。
このご時世に珍しく正社員の募集がある。どんな業務を行うかはしっかりと書いてあるが、どんなサンプルが欲しいかは書いていない。
外注募集の方を見てみると、「商業媒体にて原稿料を得た実績が複数回あること。」「自身の執筆されたシナリオ・脚本のサンプルを2点ほど。」と書いてある。
あくまでも推測ではあるが、正社員の募集は積極的ではなく、即戦力の外注が欲しいように見える。
最後にもう一社、フロントウィングを見てみよう。
ここが一番詳しくサンプルの条件が書いてあるが、必要なのは「『グリザイア』シリーズのキャラを使ったオリジナルストーリー。」であり、自由課題については「※提出されなくても結構です」と書いてある。つまり欲しいのはサブライターに使える人材であり、メインライターとして使えるかは重要ではないと読み取れる。もっともはじめて仕事をする相手にいきなりメインを任せるはずがないので、サブライターの資質があるかどうかをはかるのは当然である。
以上三社の採用情報を見てみたが、Clochetteは採用枠なし、オーガストは正社員枠があるにはあるが、即戦力を求めているようなので未経験者が採用されるか怪しい。もっとも可能性を感じるのはフロントウィングだろうか。
なんにせよ「未経験者がいきなりメインを任せてもらえることはほぼありえない」ことがわかってもらえたと思う。
自分の作品が作りたいのに、他人の作品の補佐をやらされる。これを耐えられるかどうかが非常に重要で、「俺は自分の話しか書きたくない」という人は正社員もフリーランスも無理だ。エロゲライターではなく、ラノベなど他の道を目指した方がいい。
自分を出すのは、有名になり周囲から頼られるようになってからだ。それまではひたすら我慢我慢。俺もまだ我慢の途中だが……暗い話になるのでやめておこう。
あともう一つ、トータル的に学びたいならメーカーに所属するのがおすすめなどと言ってはしまったが、正社員として採用されるのもなかなか厳しそうだ、という感想も抱いたのではないだろうか。
オーガストのように老舗であり堅実な経営をしているメーカーであれば別だが、ほとんどのメーカーは毎作品毎作品ギリギリの状態で制作していて、新人を育てる余裕がないという実情がある。新人育成に費用をかけるのであれば、有名でなくても実務経験があるライターを使った方がいい、というわけだ。
新人に企画を任せないのも似たような理由で、一定水準以上の原画家を起用できれば売り上げも一定以上確保できるとは言え、シナリオでこけると次回作に露骨に影響し、メーカー全体の評価を著しく下げることになる。だから昔のように「とりあえずやらしてみるか」なんて冒険はできず、サブとして使うしかないのだ。そして運が悪いとそのままサブライターとして終わることになる。
またまたネガティブな話になってしまったが、この変でやめて話を戻そう。
よさそうなメーカーを見つけ覚悟も決まったら、いよいよサンプル作成となる。どういったサンプルを作るべきなのかに触れていこう。
実は所属時代、付け加えるならまだ景気がギリギリよかったころ、送られてきたサンプルに目を通す仕事もしていたのだが、ゲームシナリオを想定した作品を送ってこない人はだいたい弾いていた。それとメーカーの作風とまったく関係のない作品しか送ってこない人もだ。
理想と違ったからと数ヶ月、早いと数日で辞めてしまうライターが結構いて、意欲があるかどうかを最重要視していたためだ。
先ほど書いたとおり新人育成はコストがかかるから、すぐに辞められたらひっっじょ~~~に困るのだ。だからかなり慎重に選んでいた。
少しでも採用の可能性をあげたいのなら、そのメーカーの作品を数作プレイして研究した上でサンプルを書き上げるべきだし、小説ではなくシナリオを送るべきである。
立ち絵や背景、効果音などの指定も入っていると好感度はかなり高い。どのメーカーにも同じもの送っているんだろうなと感じるそつのないサンプルよりも、多少技術面に粗があっても必死に勉強してそのメーカーのためだけに作り上げたサンプルならば、俺は絶対に後者を選ぶ。
もちろんいつか書いたとおり面白ければそれでオッケーではあるのだが、メーカーの作風に合わせられるかは所属にもフリーにも求められる資質であるから、「俺にはその力がある!」と示した方が当然採用される可能性は高くなる。
とにかく、メーカーの作風にあったサンプルを必死に仕上げるのがライターになる一番の近道だろう。
それともう一点、Hシーンは絶対にいれた方がいい。
エロが書けなくて辞める新人を過去に何人か見てきたため、Hシーンのないサンプルしか送ってこなかった人もやはり弾いていた。
メーカーの指定があればそれにそって、なければ作風にあわせて、Hシーンもしっかりと盛り込んでいる。そんなサンプルがベストである。
Hシーンはフロントウィングのように分量が指定されていれば別だが、なかった場合は20から25kbくらい書いた方がいい。
萌えゲーのHシーンはそれくらいの分量が目安になっていて、10kbだと短すぎて問題外、15kbも短くて物足りないとユーザーから批判されてしまう。20kbも書くのは結構しんどかったりするのだが、それくらい書けないとのちのち苦しむことになるかもしれない。
サンプルに関する注意事項はだいたいこんなものだろうか。とにかく「小説ではなくシナリオを送る」ことを守れば、高確率で「おっ」と思ってもらえるはずだ。それくらいシナリオを送ってくる人が少なかった。
そしてしっかりと練り上げたサンプルシナリオを作り上げることができたら、あともうひとつ、小説でもなんでもいい、自分のすべてをぶつけた渾身の作品も一緒に送ろう。
メーカーに合わせられることを示しつつ、「俺にはこんな個性もあるんだぜ!」とアピールするわけだ。
結果的に後者は読んでもらえないかもしれないし、採用されても個性を発揮する機会は与えられないかもしれないが、数年後に「そういえばキミ、あれ得意だったよね」とチャンスが巡ってくるかもしれない。
ゲーム制作はチームワークが重要だから個性しかアピールしない人は使いにくいが、やはり創作者であるのだから個性的であるべきなのだ。
ディレクターの理不尽な指示に従うだけの日々を過ごすことになろうとも、胸の内には強い信念を持っていて欲しいと俺は思う。
エロゲ業界は新人ライターがほとんど育っておらず、衰退へと突き進んでいる。
つらい業界でも関係ない、エロゲが大好きだという人は、ぜひ目指してみて欲しい。
俺とはライバルになるが、同時に仲間でもある。一緒に不況を乗り越え、がんばっていこうじゃないか。
最後に、一つだけ言い忘れたことがある。
声優が大好きでライターになりたいという人へ。
いつかも書いた気がするが、声優に会ってしまうとその人の声で抜くのがつらくなる。だからこそいいという強者以外はライターになるな。続ければ続けるほど多くの声優と顔見知りになり、エロゲで抜けなくなるぞ。
この俺のように……。