10:ネットの悪意
数年前、ステルスマーケティングが話題になった。
流行る以前から某掲示板では過剰に褒め称える人物に対して「社員乙」などと煽っていたもので、その言葉が「ステマ乙」に変わっただけだったりするのだが、おそらくそのレスを書いている人の大半は、本気でステルスマーケティングが行われているとは思っていないだろう。
では、実際のところどうなのか。
これからする話はただの与太話と思って読んでいただければありがたい。
エロゲ業界の景気が良かった頃は某掲示板全盛期でもあって、掲示板上で盛んに情報交換が行われており、その影響力は無視できないほどだった。
とある流通会社の社員は、予約の伸びが悪い作品のスレッドを数人で盛り上げ続けたら、予約が数千本伸びた、と話していた。
そして業界内でかなり有名で今でも第一線で活躍しているとあるシナリオライターも、複数回線を用い自作品をその掲示板で褒め称えていた。そうやって予約を伸ばしていた。
逆に、同じ発売月の作品を不当に貶めたり、同業者の悪い噂を捏造し広めたりと、自分を上げて他者を下げる行為を行っていた人物も俺は知っている。
少なくとも、エロゲ全盛期の時代はそういうことが平気で行われていた。
じゃあ今は? となるわけだが、昔からやっていた人は、たぶん今でもやっていると思う。
いわゆるアンチ行為を繰り返していた人物は、悲しいことに気にくわない同業者に粘着し続けている。
随分前に作家数名が一人の作家をネットで中傷していたことがIDの流出などで発覚したが、そういったことはこちらの業界でも起こっている。
ただし、今では某掲示板の影響力がほとんどなく、あくまでも俺の見解ではあるが、ステルスマーケティングをしたところで効果は非常に薄いだろう。
だからステマはありません、などとは言えないが、うまみがまるでないのに続けている人物、あるいは会社があったら、それほど必死なのかもしれない。
俺も某掲示板はたまに覗くが、作品を貶めることに妙に執着しているレスを見ると、もしや……と思ってしまう。
というのも俺自身そういう経験があるからで、ド新人の頃はヘルプで書いただけのサブ中のサブだった(ついでに言うなら俺が担当した箇所は公開されていない)にもかかわらず、なぜか俺だけが名指しで叩かれていた。
結論からいえばその犯人は俺がヘルプに入った作品のメインライターだったわけで、「サブがクソすぎる。すべてメインに任せろ。やはりメインは神」と俺を貶めることで、スレを自分を褒め称える流れにしようとしていた。
俺がディレクターになりメインで書くようになると、俺を貶めるためだけに作品スレを荒らしたりした。
入社当時から特に衝突も無くうまく付き合えていたはずなのだが、なにが彼をあそこまで駆り立てたのか、いまだにわからない。
俺が会社を辞めた理由については……もう言うまでもないだろう。
シナリオライターになり作品を発表すると、少なからずこういった“不当な悪意”に晒されることになる。
そんな掲示板など見なければいいのだが、やはり気になるものでつい見てしまい、そしてストレスで胃が痛くなる。新人の頃はそんな毎日だった。
ネットの批判は、近しい誰かの理解不能な敵意かもしれない。
知らない誰かの言葉であれば笑って流せても、普段親しくしている人物だとわかってしまうと、ショックも計り知れない。
どうか物書きを目指している人は、そういったこともあるのだと頭の片隅にでも留めておいて欲しい。
心を強く持って、一緒にがんばっていこうじゃないか。