01:ディレクターとシナリオライター
ゲーム制作を舵取りしているのは誰か。
それはディレクターである。
たとえば、カラスは黒い、という文章があったとする。
ディレクターが「いやカラスは白いでしょ」と言えば、カラスは白い、と修正しなくてはならないし、「いいえ、カラスは黒いですからこのままで」と指摘を無視しても納品後に体験版なり製品版なりを遊んでみると、カラスは白い、と勝手に修正されている。あるいは、カラスは黒い、という文章が消えていて、前後の文章の繋がりがおかしくなっている。
それに文句を言えないのが、俺のような外注ライターである。
一文消えるだけならまだ良い方で、1シーン丸々カットされてしまうこともある。当然、「こういう風に調整したよ」などという親切な報告はない。
このように、作品の質を最終的に決めるのはライターではなくディレクターである。
もちろん単純にシナリオの質が悪いのはライターの責任なのだが、納品後にめちゃくちゃな調整をされてしまい、書いた本人でさえ「あ、これやばい」と思ってしまうこともそれほど珍しくない。
そして発売後にユーザーに怒られるのはディレクターではなくライターという悲しい現実が待っている。
大御所ライターであればきっとそんなことにはならないのだろうが、俺のような底辺ライターの扱いはそんなものである。
自分がおもしろいと思うシナリオではなく、ディレクターがおもしろいと思うシナリオこそが外注ライターには求められる。
クソシナリオに出会った場合、ライターを責めるなとは言わない。だが、そのクソシナリオはディレクターの暴走の結果かもしれない。その可能性をちょっとだけ考えてもらえると、少しはライターも報われるかもしれない。
とまぁ、クソシナリオができるのはライターだけのせいじゃないんだよと言い訳がましく長々と語ってきたわけだが、もちろん優秀なディレクターもいるし、指示なんて一切聞かず俺様の道のみを行くライターもいる。
実はそういった問題のあるライターの方が、業界には多いのかもしれない。
クライアントからのリテイクが気に食わず途中で仕事を降りてしまったり、収録まで終わったあとに「修正したい」と言いだして余計なコストをかけさせたり。
前者に関してはクライアントが無茶苦茶な要求をしている場合もあるので、一概にライターが悪いとは言えないのだが、自分で受けた仕事をクライアントに相談せず知り合いに流しその上で自分の名義で作品を発表したりなど、問題を起こすライターというのは少なくない。
ライターというのは自己顕示欲だったり承認欲求だったりが大なり小なりあるもので、それはもうわがままな人種なのである。
そういった面倒な連中を相手にしなければならないのだから、ディレクターという立場も結構大変なのだろう。
作品がけなされればライターの責任を問われるが、作品が賞賛されても誉められるのはライターで、ディレクターにまでユーザーの意識が向くことは少ない。
ディレクターとはまさに縁の下の力持ちで、だからこそ増長し無理難題をふっかけてくる二度と一緒に仕事したくないような輩もいるが、優秀なディレクターはライターの力を何倍に高めてくれる。そういったディレクターとは、今後も末永く付き合っていきたいものである。
ゲーム制作において重要なのは、ライターよりもディレクターの手腕である。
もし名作に出会ったとき、原画やシナリオだけでなく、ディレクターが誰かもチェックしておくといい。おそらくそのディレクターが手がけた作品は、期待以上のクオリティになっているはずだ。
好きなライターがいてそのライターらしい作品を求めている場合は、ライター自身がディレクターを兼任しているかどうかをチェックするといい。そういった作品は間違いなく、ライターの個性が炸裂している。きっと好みの作品になっていることだろう。
逆に他にディレクターがいる場合は、ライターの個性が死んでいる危険性がある。体験版をプレイして「今回はらしくないな」と少しでも感じたら、それはディレクターの指示に従って機械的に書いているだけかもしれない。ライターらしさを期待した場合、ほぼ確実に地雷となるから避けた方がいい。
基本、俺みたいな無名ライターは、ディレクターの指示に従うのみである。
設定やプロットを作ることもあるが、すべて用意された上で指示に従うのみという仕事も多い。企画立案を任されることは滅多にない。
もしライターを目指している人がいて、「俺の考えた話をたくさんの人に読んでもらうんだ」という夢を抱いているのならば、しばらくその夢はしまっておこう。好きに書きたいのならば、仕事にしない方がいい。
まず間違いなく駆け出しの時期は俺のように指示に従うだけで好きなものは書けないし、メーカーに所属した場合はしばらくシナリオを書かせてすらもらえないこともある。
次回はそのあたりの、ライターになったばかりの頃の話でもしてみようと思う。
そろそろ女の子でも出てこないとつまらないと思うから、女性スタッフの話も交えるかもしれない。
あとは収録の話もいつかできたらいいなと構想を膨らませつつ、今回はこれにて。