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ソバの結実率、アリがいると1・5倍に 東大院が飯島で調査

ソバの結実に関わるアリの働きについて話す宮下教授(右)ら=昨年12月、東京都内ソバの結実に関わるアリの働きについて話す宮下教授(右)ら=昨年12月、東京都内
 アリが花の送粉(花粉の媒介)に関わったソバは、関わらなかったソバと比べて結実率が1・5倍ほど高い傾向にあることが6日までに、東京大大学院の研究室が上伊那郡飯島町で行った調査の速報値で分かった。ソバは主にハチやアブ、チョウが送粉するとされてきただけに、意外なアリの仕事ぶりに県内の農業関係者らも興味津々。研究室は実際の生産に生かせるかどうか、さらに調査、研究を進める。

 調査は生物多様性科学研究室が昨年6月に4カ所、同9月に5カ所の畑で行った。それぞれで、受粉前に粘着性スプレーを根元に吹き掛け、アリが花まで上れないようにして他の昆虫の送粉しか期待できなくした6株と、手を加えない12株とを比較。受粉しなかった花と結実した花を数え、結実率を算出した。

 速報値ではいずれも、手を加えなかった株の結実率が平均3割ほどだったのに対し、アリが花まで上れないようにした株は同2割ほどだった。

 同研究室の宮下直(ただし)教授(生態学)によると、花が大きく雄しべや雌しべが長いリンゴやカボチャの花だと、体長5ミリ前後のクロヤマアリや同10ミリ前後のクロオオアリが蜜のある花の中心部まで潜り込んでも、雄しべや雌しべに触れず送粉の役割を果たさない。一方、ソバの花は小ぶりで雄しべ、雌しべとも両種の体長より短い。アリが蜜を採ろうと中央部で動き回ることで体に花粉が付着し、送粉している可能性が高まったという。

 2017年産ソバの生産量が市町村別で県内3位の伊那市のソバ農家やそば店などでつくる「信州そば発祥の地伊那そば振興会」会長、飯島進さん(65)は「送粉のためにハチを畑に放つことはあるがアリには目が向かなかった」。宮下教授によると、アリはチョウやハチと比べて曇天や低温でも活動するといい、県農業技術課も「ソバの受粉は訪花(ほうか)昆虫が頼り。アリが悪天候に強いならありがたい存在だ」と受け止める。

 ただ今回の調査は、いずれもあぜから1メートル以内の株。畑は毎年耕されるためアリが巣を作るには適しておらず、あぜや土手、草地にすむアリは畑の中心部では個体数が少ないという。アリの活躍はソバ生産の収量アップにつなげられるのか。宮下教授は「アリの送粉効果が畑全体に及んでいるか、中心部でも調査する必要がある」としている。

(1月7日)

長野県のニュース(1月7日)