「犯人はお前でありんちゅ!」
「──えーーーーっ!」
車内に助手のキーノの絶叫が響きました。
「ちょ、ちょっと待て! ありんすちゃん! なんでわた、私が!?」
「……ふっ。しゅべて、この美少女名たんて、ありんちゅちゃにはお見通し、なんでありんちゅ」
「な、な、な、なにを……ありんすちゃん。冗談はやめてくれ!」
ありんすちゃんはキーノの前で指をチッチッチッと振って見せました。
「このモモン、いや、モモンのニセモノを殺ちた犯人はキーノでありんちゅ!」
一堂の視線がありんすちゃんに注がれています。美少女名探偵は小さく咳払いをすると言葉を続けました。
「こりはアダマンタイト級冒険者モモンのニセモノにキーノがふられて、殺ちてしまったのでありんちゅ」
ありんすちゃんはまるで見ていたかのように事件のあらましを語りはじめました。
※ ※ ※
「モモン様。モモン様は……その……小さい子はどう思うか? あ、いや、小さいと言ってもそこまで小さくないが、やはり小さいといか……」
「……小さい子? あの探偵の少女の事かな? あの美少女名探偵の少女……」
「……いや、違うのだ。小さいというのはあそこまで小さいという事ではなくてだな……身体の一部分の大きさ……女の部分というか……」
キーノの歯切れの悪い言葉にモモンはかすかな苛立ちを覚えました。
「……キーノさん。ハッキリと言ってもらわないとわからないですね」
キーノは決心して顔を上げました。
「モモン様。モモン様はオッパイが大きい方が……す、好き……なのか?」
「……オッパイ?……」
モモンはあきれ顔でキーノを見返しました。
「……ま、まあ、大きいにこした事はないな。うん……オッパイ」
モモンが少しばかり顔を赤らめて答えた瞬間──
「モモン様のバカーー!!」
キーノは次々とモモンの身体にナイフを突き立てていきます。何本ものナイフが刺さったモモンは絶命しました。
「……やってしまった……私は……モモン様を……殺してしまった……この手で……うわぁアアアアーー!!!!」
※ ※ ※
「──こうちてモモンはキーノに殺ちゃれてちまったのでありんちゅ」
ありんすちゃんは得意そうに胸をはります。
「──ちょっとまてーーいッ! 私がモモン様を殺すとかありえん。それにさっきありんすちゃんはモモン様がニセモノと言っていたが……ナニガナニヤラ……」
キーノは必死に抗議します。
「犯人はぁ……怪しい助手う……」
「……キーノが犯人」
ゼータとデルタが囁きあいます。
「これで決定ね。このゴミムシが犯人ね」
「……いや、お前の方が怪しいだろ。仮面を被った魔術師なんて……」
ありんすちゃんがくってかかるキーノを黙らせます。
「……キーノはダメダメでありんちゅ。仮面には理由、ありありなんでありんちゅ」
ありんすちゃんが指示を出すとガンマ──仮面の魔術師冒険者が仮面を外しました。
「──お、お前は!」
仮面を外した魔術師の正体はなんと……アダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”の『美姫』ナーベだったのでした。
「……コホン。ではナーベ、こりはモモンのニセモノでありんちゅな」
「……はい」
ナーベは断言しました。
「……事件はこのニセモノが、モモンになりすまちた事が始まりでありんちゅた」
乗客乗務員の前でありんすちゃんは語りはじめました。
「このニセモノがモモンになりちゅまちたのは……この列車の金塊が目当てだったでありんちゅ」
ありんすちゃんの謎解きによれば──男はオリエント急行に金塊が積まれている事を知り、予告状を出す。そして乗務員が不安になった所に自らをモモンと偽ってまんまと金塊の警備につく、と、こういうわけです。
「……ちょんな時にこの男にとって予想外のこちょがおきたのでありんちた」
男にとって想定外だったのがキーノの存在だったのです。なにしろキーノはかつてストーカー事件を起こした程の熱狂的なモモン狂信者です。そんなキーノが回りでウロウロしていてはいつ化けの皮が剥がれてしまうか気が気でない状態だったに違いありません。
「……ちょこでキーノを失恋さしぇて遠ざけるはずでありんちたが……キーノに殺ちゃれてちまったのでありんちゅ」
ありんすちゃんの推理の前にキーノはガックリと肩を落とすのでした。
かくして『オリエント急行の殺人』漆黒のモモン殺人事件ならぬ漆黒のモモンニセモノ殺人事件は静かに幕を降ろすのでした。
※ ※ ※
車掌のセバスは男の死体を貨物室の片隅に運ぶと布袋に納めました。
「……そうそう。忘れる所でした」
セバスは懐からルーンが刻まれたナイフ──七本めのナイフ──を取り出すと男に突き立てました。
「……しかし……いったい何ものだったのでしょうか……」
セバスは布袋のファスナーを閉めると部屋を出ていきました。