シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】 作:ほとばしるメロン果汁
「
モモンガ自身にとってはあっという間の時間だったが、オラサーダルク=ヘイリリアルにとってはどうだっただろうか。途中で気絶する度に
始める前に告げたとおりモモンガにペットの躾方はわからないのだ。これで駄目だった場合は面倒だが、他の方法を考えなければならない。
(別の躾方か……麻痺させた後スポイトランスで何度も串刺しにするとか、
持続回復によって徐々に傷が塞がりながらも、全く動かない当人を前にして考える。後者はレベルダウンのリスクが考えられるため、できればやりたくない。そもそもここまでして駄目だったのなら、家族への遺言でも聞いてあげた方が手間が掛からないのではないか。あのドラゴン達の中ではキーリストランが一応の代表を務めていたようだし、そのまま揃ってモモンガの配下兼ペットになってくれそうだ。
「…ぐう、っゲポ!」
少しばかり考えを整理していると、口から固まった血を吐き出しながら首を持ち上げ始めた。
「目が覚めたかしら?」
「!?!?!??!?!?!??!」
声を掛けたとたん途端に細い眼を見開き
「……死にたくない?」
「っは?! …は、ひゃい!」
「……なら、何をすべきかはわかる?」
「は、はい!」
部屋の隅に駆け込み何やら作業をし始めた。てっきり他のドラゴンと同じように、ガタガタ震えながらひれ伏すと思い込んでいたので興味が惹かれるが――
「別に黄金はいらないのだけど」
「で、ですが! 私があなた様に差し出せる物などこの城と黄金くらいかと」
ガタガタ震えながら体全てを使って黄金を搔き集め始めたドラゴンに声を掛ける。同時に相手の反応から一つの可能性が浮かんだ。このドラゴン、よくよく考えれば先程まで部屋に閉じこもっていたのだ。事前の知識が違えば他のドラゴンとの反応の差異も頷ける。
状況を説明しなければならないと考え、小休止中に呼び出した椅子に腰掛けながら確認することにした。
「ひょっとして、私がドワーフの協力者だと知らない?」
「ど、ドワーフ!? あのような
「
自身程ではないが、流石に協力者に対する暴言も無視できない。今後は配下にしたドラゴンを誰かに紹介することもあるかもしれないのだ。配下の無礼はモモンガ自身の株を落とす、それくらいは元社会人であるモモンガにもわかるのだから。
躾のための手頃な魔法が指先に炎を膨れ上がらせる。瞬時にシャルティアの体よりも巨大な
「あ、
聞き飽き始めたドラゴンの悶え苦しむ絶叫を前に(さて、いまいち頼りないこのドラゴンにどう説明したものか……)と考えに沈み始めた。
♦
「つ、つまりあなた様はドワーフに味方したためこの城を……」
「そう。あなたは拒否してもいいのよ。但し」
そっと指を突き付けると、既にひれ伏していた体を震わせさらに地面に擦り始めた。床にひびが入ったが、これ以上は流石に面倒なので見逃しておく。
「それと、そこにある黄金はどうやって集めたのかしら?」
そのまま指を横にずらし問いかける。流石にナザリックの宝物殿に比べれば雀の涙以下であるが、この世界に来て間もないモモンガでも相当な量の財宝や鉱石だとわかる。
「こ、この城や他のドワーフの都市で私が見つけた物と後は……クアゴアに献上させた鉱物などですが……」
「なら鉱物以外は全部ドワーフに返す事」
「なっ…そんな! 巨人共から奪った物なども――」
「賠償金か無断占拠費用? みたいな物かしら。あなたにこの城や外の建物を直せるなら話は別だけど?」
窓の外を見る。王都の中心部に建てられた王城なだけあって城下町だった場所が一望できる、だがその姿は言葉通りの華やかな印象とは真逆、見渡せる建造物は廃墟に近い。クアゴア氏族が住居などに使っており、最低限の整備はされているようだがフェオ・ジュラより劣化が激しい。
「うぅ……わかりました」
「鉱石は見逃すのだし、また集めればいいのではないかしら」
「あ!? 集めてもいいんですか!」
見るからに気落ちしていた態度が一気に回復したようだ。姿勢は先ほどと変わらず地面に伏した状態だが、見開いた眼でこちらを見つめて来る。どうやらドラゴンの感情は表情よりも、目を見た方が分かりやすいらしい。
「配下の者同士で争いごとは禁止、ドワーフのような友好的種族からの搾取も禁止……今のところこれくらいか」
そういえば配下にした際のルールもろくに決めていなかった。部下などせいぜい新人教育の時くらいだったため。少々不味い。
「わかりました! 下等なクアゴアや巨人共から奪えば良いのですね!?」
その返答に思わず頭に白い手を当て、天を仰ぎそうになる。
――本当に不味いかもしれない。このドラゴンの思考は、後々ホウレンソウ無しで暴走しかねない。
「……言い方を変えましょう。私が敵と認めた者以外からの略奪、及び搾取は禁止。拾ってくる場合も持ち主がいないか、名前が書いてないか確認する事。それと――」
残念ながらクアゴアも
「アゼルリシア山脈の主だった種族は、全て私の配下にするつもりだから。この山ではあまりそういったことは出来ないかもね」
(ドラゴンって吸血による眷属化の対象になるのかな?)
話を終えた後、後ろにオラサーダルクを従えながら城内を歩く。配下にしたのだから頭にでも乗ろうかと少し考えたのだが、城内では狭い通路も在るため諦めた。配下の頭に乗って自らの頭を壁にぶつけるなど、情けなさすぎる。
(でもこれまで全く吸血衝動とかないんだよなぁ)
それよりも考えているのは自らの体の事。吸血鬼で
(殴ってるときも血の狂乱は発動しなかったし……心配しなくていいのか、発動していないだけなのか)
少なくとも鈴木悟としては、血を吸うなんて勘弁して頂きたい。設定は大事にしたいが喋り方や性癖を筆頭に、吸血行為も無理だろう。これまで会った種族の血を見る機会が何度も遭ったにもかかわらず、不味そうにしか見えなかったのは幸いだ。
(とりあえずこの心配も先延ばしだな、現状問題ないし)
如何しようも無い事から思考を切り替えながらドラゴン達の元へ戻る。
その間に震えるドラゴン達の間を抜け、宝物殿の扉に佇みモモンガを見つめる人物に歩み寄る。足音をたて近くを通るたびに、周囲のドラゴンの震えが増している気がしたが、そんなことはどうでもいい。
王都奪還がほぼ解決した今、モモンガの興味は旅の当初からの疑問、目の前の人物ゴンドに戻る。四人で行動していた道中なら兎も角、今ここで不可視のマントを被り一人佇ずんでいるのは、モモンガを待っていたのかもしれない。
「……ゴンド、あなたにも砦で待っているように言ったつもりだったのだけれど?」
「あー、嬢ちゃんにはわしが見えておると思わんかったのでな、って言い訳は無理かの?」
無理だろう。不可視状態だったゴンドも飛行魔法や強化魔法の対象にしてきたのだ、ゴンド自身もそれは分かっているはずだ。
「しかし本当にドラゴンを全部従えてしまったんじゃの……」
モモンガ――シャルティアの背後を覗き込むように見据え、感心するような声。
子供のように心底驚いているような、喜んでいるような好意的な反応だ。
「まぁアレで何かの役に立つかもしれないし、例えばドワーフ国と帝国間の空輸貿易とかね」
「なんと!? ……そんな発想ができるとは、流石シャルティア様じゃ」
「別に最初の『シャルティア嬢ちゃん』って呼び方でもいいのだけど。それで、無理矢理ついて来た理由はそんなに言いにくい事なの?」
「う、うぐぅ」
ドラゴンを従えたことに本当に驚いての言葉だろうが、話を逸らすには少々無理がある。なぜ彼一人不可視化状態で砦からこの場に戻っているのか。そもそも命を懸けて無理矢理ついてきたのだ。(モモンガが運んだのはこの際置いておく)危険というリスクを冒す行動にはそれ相応の理由がなくてはならない。この場で思い付く事と言えば――
「ひょっとして泥棒するために、私についてきたとか?」
顎に手を置きながらゴンドの背後にある入り口に目を移す。入ってきた扉程ではないがなかなかに大きく、そしてそれ以上に華美な装飾がされた扉だ。モモンガの趣味からやや外れるが、宝物殿の扉と言われれば納得してしまう豪華さがあった。
しかしゴンドという人物は、命の恩人を窃盗に利用する事はしないだろう。短い付き合いだがそれくらいの信頼はしていた。
「は、半分いや、多少そういったことになるかもしれんのじゃが……」
「え……そう、なの?」
意外過ぎる返答に、思わず目を見開き息を呑んでしまう。人を見る目に自信などないが、ゴンドは義理堅い人物と思い込んでいただけに、驚きのあまり感情の鎮静化も遅れてしまった。
「……流石にそれは駄目なんじゃ」
「あぁ! いや、違うんじゃッ! この宝物殿にはな、わしの父の作ったルーン武具や技術書があって、それをなんとか手に入れたいんじゃ! ルーン研究のために!」
「……そうなると最初に会った調査団にいたのも?」
「うむ、そもそも嬢ちゃんに最初助けて貰った調査団に志願したのも、研究費用のための報酬目当での。文字通り命がけじゃったから報酬も相応だったんじゃ」
ドラゴン達に待機を命じた後、しばらく歩きながらルーンの説明を聞き終え、総司令官達ドワーフを待機させている砦まで来ていた。話しながらも技術の衰退について度々落ち込むゴンドだったが、ルーン技術については聞き終えている。
ユグドラシルの規格とほぼ同じだったドワーフのルーン技術だが、残念ながらモモンガが聞きたかったプレイヤーに繋がる話は得られなかった。一番聞きたかったそもそものルーン技術の開発者はわからない。だが歴史にも関わる本格的な調査はドワーフの国に戻ってから調べればいい。今はこの元王都で出来る事をしなくては、例えば――
「ねぇゴンド、あの宝物庫にルーンの技術書があるのは間違いないの?」
「流石に二百年前放棄されたからハッキリとはわからん。だが今見た限り扉が動かされた形跡はないし、周りも壊されておらんかった。ドラゴン達もお手上げだったんじゃろう」
ドワーフの技術も捨てたもんじゃないのぉ、と朗らかに笑うゴンド。確かに二百年もの間宝を守り続けた技術は素晴らしい。モモンガのようなプレイヤーにかかれば破壊など造作もないと思うが。
(ただ開けるのは無理かな……あぁ~開錠系のアイテムさえあればなぁ~……おっといけない)
慌てて首を振る、また悲しみの海に沈んではややこしい事になる。今できない方法を考えてもしょうがないのだ。今できる事を考えてこそ建設的な明日があるのだから。とりあえずルーン技術については、プレイヤーの手掛かりになるかもしれないので引き続き調査をしたい。さしあたって見てみたいのは歴史書とルーン技術書ではあるが、残念ながらドワーフの使う文字は読めないが方法はある。
「ルーンの技術書だけど、私も見てみたいから。この王都が解放された時一緒に見せてもらえるように頼んでみようか?」
「……は、い? いいのか? そんな事を」
「えぇ、流石に過去に献上した武具は無理だと思うけど」
「あ、いや。ありがたい申し出じゃが、もう嬢ちゃんへの恩は返せる限度を超えてしまいそうなんじゃが」
「いいのですよ、ただ私は読めないと思うので……」
「何じゃそんな事! わかっておる、わしの持てる知識を全て使って解説してやるわい。そうじゃ! 酒におぼれとるルーン工匠にも声を掛けとかんとな」
聞けば他のルーン工匠はみな諦めているらしい。ゴンドは意地でも父や祖父の実績と名を残そうと奮励しているようだが、彼には才能がないらしく全く研究が進んでいないそうだ。正直モモンガにとって、プレイヤーが関わっているかの確認以外はどうでもいいのだが、向こうが恩に感じてくれるならそれに越したことはないだろう。
「ところで技術書って見せてもらうだけじゃなく、貰う事ってできる? 貰えたらそのままゴンドにあげるけど」
「な!?」
「一応廃れた技術なんでしょう? 摂政会としても惜しくないんじゃない?」
「……確かにそうかもしれん、ましてや嬢ちゃんは今や国とっての英雄じゃから無視はできんし」
ここで鍵になるのは出発前にドワーフと交わした覚書だろう。正式な契約書ではない旨も書かれているし、作戦の結果次第では上乗せも明記されている。言わばお互いに『おおよそこれ位にしましょうね』と、くぎを刺した形になる。そのおおよその範囲にルーン技術書は含まれるのであろうか。アッサリ頷いてくれれば良し、交渉となると無理は出来ないが。
(まぁルーンについてはここでの仕事を終わらせてからだな。もうドラゴンは済んだし、後は……)
総司令官達を待たせている砦の前から、遠方に見える城下町――そこにあるクアゴア達が集まった大きな建物を見据えた。
♦
「そうか、来たか」
「はいっ! 今此方に案内させています」
「何人いるのだ?」
「それが、たった一人です……」
「ほう? ドラゴンはいないのか?」
「はい……まさかドラゴン共は全て殺されたんじゃ」
「流石にそれは考えられん、ドラゴンだぞ! 空を飛べるのだ、全滅などそう簡単にはいかん」
氏族王ペ・リユロは頭をフル回転させて考えていた。聞くところによると戦いの痕跡もなく淡々と此方に案内されているらしい。歓迎と併せて会談の要請も事前に伝えており、承諾の連絡も受けている。ドラゴン達がいた城の様子も見てくるよう部下に伝えているが、そちらはまだだ。とはいえ城に入り無傷で戻ってきたとなれば、そういうことなのだろう。
相手はドラゴンより遥かに強い。信じられなかったがクアゴアの軍を、三度の呪文で一蹴したという報告は事実なのだろう。であれば、それ相応の対応をしなければならないという事だ。だが、元々最悪の事態を想定し準備してきたため問題はない。
「準備は整っているな?」
「はいっ! ドワーフ共と歓迎の宴の準備も滞りなく」
「そうか、では到着次第待たせることなくこの場に通すのだぞ」
「はいっ!」
これでいいだろう。相手がドワーフ共に味方しているのは把握している。ヨオズの殺され方が少々気になるが、新しい支配者を迎え、勢力を増した後、支配者を倒せばいいのだ。種族全体の将来を考えれば、あのフロスト・ドラゴンより強い支配者の下に一時的とはいえ身を寄せるのは、逆に良い事なのかもしれない。
ただ、できれば相手の正確な力を把握したい。ドラゴンと同じように支配に入った後、情報収集すればいいのだが、今回の支配者は未だ謎が多すぎる。正確な力は無理でも、せめて一端は今この時に目にしなければならない気がしていた。
「き、来ました!」
その報告を聞き、慌てて自らの服を確認する。クアゴアで唯一氏族王が着る服だ。元々クアゴアという種族は毛皮に覆われているため服など着ない。王としての威厳と分かりやすさのために作ったものだ。ドワーフの捕虜に作らせた王冠も在ったが、念のため今は外している。
次に周りを確認する。元々はドワーフどもの大きな住処のひとつだったらしい建物。掃除も終えており、なかなか頑丈でこの都市では城の次に大きい。下の階には身綺麗にさせたドワーフ達を置いており、そろそろ会っている頃だろう。部下には降伏と共に、ドワーフ達を解放する意思を事前に申し出るように伝えてある。
――完璧だ。
これでこの最上階にある謁見の間まで通し、降伏勧告を受諾すれば一先ずクアゴア氏族の平穏は保たれる。鉱石や黄金を差し出すのも、強欲なドラゴンで慣れているため苦ではない。後は新しい支配者を騙しつつ、力を――
「あなたが、クアゴアの王?」
聞き覚えのない突然の声が耳に届いた。部下の声ではない。今更自らを王かどうか確認するクアゴアの部下などいない。
同時に嗅覚が独特の匂いを拾う。クアゴアでもドワーフでもない。土の匂いではなく、強いて言えば過去の戦場で散々嗅いできた血の匂いに近い。匂いのする方向――階段へ目を向けるとそれはいた。
「じゃあ、死のうか? メッセージは届いたのでしょう? 他のクアゴアが話してくれたよ」
暗闇でも栄える光る鉱石のような毛を頭頂部に持ち、毛皮に覆われていない肌と黒い服を着た自らより小さい者がいた。
「……死?」
途端に恐怖に襲われる。死ねという言葉にでない。その現れた存在に、なぜか自らより弱そうなドワーフでもない小さな存在に恐怖した。
「なっ! ……待って、お、お前たち!」
恐怖に怯え小さい者から目をそらすと同時にドサリッと、周りから音がした。本能で音を追うと部下達が倒れていた。――気絶? いや、死んでいる?
あり得ない、あの者はなにもしていない。今もあの場に留まって此方を見ているだけだ。
「へぇ~、お前だけ耐えられるんだ。勿体ないな」
ただ此方を見ているだけだった瞳が、初めて興味を持った物に変わる。良い変化だと本能が告げるが――、だが恐怖は止まらない。近づいて来る足音がまるで死刑宣告のように、さらに恐怖を増していく。
「…な、なんで。私、を」
――殺すのか?
最後まで言葉にならない。毛はとっくに逆立ち、体のあちこちから出血と共に体液が出始めた。
「うわ~、ギリギリまで耐えるとこうなるのか。汚いな~」
これ以上近づかれては本当に死んでしまう。だが動けない、体全てが毛の一本まで動かせる気がしない。
「それで、なんで殺すか?」
いつの間にか目の前まで恐怖が来ていた。興味は失せたのか、玉座から動けない王をなんでもない物のように見ている。
今もガタガタと震えが止まらない。ひぅ、と声なのか息なのかわからない物が口から漏れ出る。
「赤いクアゴアで送ったメッセージ通り、私があなたの前に着いたから時間切れなの」
『私がお前の元にたどり着くまでが期限だ。それまでにお前の部族の一匹が私を奴隷にすると言った戯言の罪を謝罪するなら良し。慈悲を願わないのであれば、これがお前の運命だ』
レッドクアゴア――ヨオズは、確かにそう言って自ら首を切り裂いた。だがそんな事で、たった一匹の部下の一言で自分は……。
「私自身はそれほど大した存在ではない、今もおまえと圧倒的な力の差を見せつけているが、その中身は平凡な物。私がこれからやる事成す事、全てが良い結果になるなんて思ってはいない。批判や侮辱も受けるだろうしそれは当然だと思う。
――だが私はね、自らのこの『体と名前』をとても大事にしている。エロいキャラだから欲情してしまうのはしょうがないか? でもね、奴隷とか物扱いとかそんな風に見られるのは我慢ならない。ペロロンチーノさんは異種〇物や奴隷物も守備範囲だったけど、私はいたってノーマルだし」
何を言っているのかがわからないが、大事な物を汚した。それならばこの者の怒りもわかる、だがそれが自らにまで降りかかるのは、支配者の気まぐれという物なのかもしれない。
「お、おぉ……っく! ぉねがいがッ…!」
「お願いか、……聞こう」
途端に恐怖が薄らいでいく、体は相変わらず動かない。だが、なんとか息を整えることはできた。口の中は体液と混りあった血の味がするが、喋ることは出来そうだった。
「お、お願ぃ、いたし……ます。クアゴアは、クアゴア族は! きっと……あなた様の…」
「なるほど、死を覚悟しながらも意思のある強い目ね。心配せずとも殺すクアゴアは、王であるお前で最後のつもりだよ。歯向かったら別だけれど」
「あ、あり……ありがとぅ、ご、ございます」
「……」
静寂。あれほど死の恐怖を感じたばかりだが、目の前の恐怖にも何も感じない。何かしら考えているのか全く動かず此方を見ている。同族であればこの支配者の考えることが、少しでもわかるのだろうか。だとすれば死んだあとはデレの地ではなく、この支配者の同族に生まれ変わりたいものだ。そんな機会が存在すればだが。
「……お前の名前は?」
最後に王として名乗らせてから死なせてくれるのだろうか。慈悲深い。先程まであれほど恐ろしかった存在なのに。
「ペ・リユロ」
「そう……先ほどの言葉は取り消します」
「なっ! そ、そんな……ぜ……」
殺すクアゴアは自分で最後だと、確かにそう言った。体は確かにろくに動かないが、耳は完全にやられてはいない。クアゴア族をこれからも殺すという事。このような存在に殺し尽くされれば、最早クアゴアは文字通り根絶やしになるしかなくなる。
「どうか、慈悲を……私で最後に…」
「他のクアゴアと少し違うし、王だけあってレアね? ……リユロ、私に仕える気はある?」
「っ!?」
一瞬なにを言われたのかがわからなかった。仕える?それは生き残れるということか。先ほどまで絶対だと思われていた死に、自らは沈んでいたはずなのに。
「どうなの?」
クアゴア種族の小さい眼を見開き、声の主を見つめる。余計に目から血が噴き出したが構わない。残った全力でこの誘いに答えなければ、今まで声高々に氏族王ペ・リユロとして名乗ってきた自らの半生が否定されるような気がした。
「あなた様が……許してくださるのであれば」
「そう、
みなさんは血を見て不味そうって考えますか?普通痛そうとかですよね? あ…察し
クアゴア族の扱いは今後特に影響はない予定なので、少々ぞんざいになってしまいました(反省)1章からどんどん帝国メインになるのである意味ドワーフもほぼこの章以外は……