シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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二次創作小説って話のサクサク進む展開の速い作品が好まれる傾向な気がします。(多分)

ただこの作品は建国が最終目標なので、かなり長く描写やキャラの掘り下げを多用します。オバロ読者向けにわかりやすく言うと、書籍版は9巻で建国したね。あ…(察し)

今回は1話内で視点が3人(人?)それぞれ変わります。


『山に棲むモノ達』

(ミストフォームが使える巨人。と、いったところか?)

 

 白い塊が右手を大きく振りかぶった姿を見下ろし、山頂のさらに上空――漆黒の夜空から観察を始める。それと同時に投石、もとい視界を覆うほどの大岩が飛んできた。だが瞬時に発動した魔法の矢(マジック・アロー)で粉々に粉砕する。

 

 散り落ちる破片を一瞥した後、改めて観察を始めた。敵は既に変化を終えており、肌の色は人間で言えば病的に青白く、髪や髭は周囲の雪と同化してしまうほど白い。その髪と髭が顔を覆っており、表情を伺うことはできない。大きさは十メートル程だろうか、ユグドラシルの巨大ボスと比べればやや貧弱に見えた。

 

「せっかく真っ暗なんだし、見た目も派手な魔法を使ってみようか」

 

 いきなりの相手の攻撃に対して、何もしないわけにもいかない。昼間に試せなかった上位の魔法を幾つか思い浮かべ、実験するべき魔法を絞り込んでいく。

 

星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)をこんなところで使うわけにはいかないし……)

 

 時間を掛けず脳内で決定を下し、両手を広げたまま呟く。

 

「〈隕石落下(メテオフォール)〉」

 

 途端に闇と月光に染まった山脈を紅い光が覆う。無事行使できた事を確認できたモモンガは頭上を見上げ同時に、予期せぬ結果に瞳を見開くことになった。

 

「え? あれ?」

 

 第十位階魔法『〈隕石落下(メテオフォール)〉』

 

 それはその言葉の通り巨大な隕石を一つ召喚し地表へ落下させる、ユグドラシルの世界でも上位者の中ではそれなりにポピュラーな魔法だった。ユグドラシルでも見慣れた巨大な隕石が地上に落下していく様は、飛んでいるモモンガには見慣れた物として確認できた。

 

 ――だが

 

(え? ……数がッ!?)

 

 頭上を覆う闇夜を切り裂く光、本来の一つに留まらず視界に収めただけでも数十の紅い光の源が山頂へ向かって落下していく。その光景に驚きつつも、即座に冷静となった思考で昼間の実験結果を思い出していた。

 昼間に確認した数々の魔法も全てではないが、同じように威力の上がっている物もあった。それと同じ効果がこの〈隕石落下(メテオフォール)〉にも適用されているとすれば――

 

(低位の攻撃魔法ではあまり実感はなかったんだけど、これは……)

 

 空気を震わせながら様々な形をした隕石が土煙に覆われた山頂へ落下する様を、一応の退避のため上昇しながら見下ろす。プレイヤー数人と魔法をかけ合わせなければ不可能なこの雨のような隕石落下(メテオフォール)を、自分一人で出来たことにわずかながら抑制された精神が喜びを覚えてしまう。

 

(でもこれは反則だよなぁ)

 

 意図せず不正行為をしてしまったような落胆する独り言とともに、周囲を地震と巨大な爆発音が包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃がおさまった後、すぐさま確認のため土砂と土煙を魔法で吹き飛ばす。その魔法の威力にも少し驚いた後、改めて山頂があった場所を見降ろした。

 

 山頂どころか山全体の面影は見る影もなく、ほぼ全て削られてしまっていた。積もっていた雪はもちろん、山のあった周囲一帯は地表がむき出しになっており、周りの山脈も岩肌が露出していた。近くの削り取られた山はもちろん、離れた場所では地震による雪崩が起こっている。

 

「十位階魔法でもとんでもない威力だな、気を付けて使わないと」

 

 いくら敵を倒したといっても、この世界の自然を無くしてしまうのはモモンガとしても本意ではない。

 

(もし超位階魔法まで威力が上がっていたら)

 

 思わず身震いしてしまう。同時に「使うにしても時と場所を考えないとな」と自らの中で結論を出した。もちろん自分の命あってこそなので、危機になれば躊躇はしないが。

 同時に敵対した巨人についても考える。装備は貧弱な服のみ、攻撃方法も原始的で全く相手にならなかった。他にもあった可能性はあるがあの様子では期待できない。

 

(一先ず、脅威となる強者ではなかったか)

 

 念には念を入れ考えていた逃走方法も使用することがなかったためか、軽い落胆と安堵を僅かに感じつつ、考察と今後の作業確認を頭の中で整理する。

 そしてそれを終えると、おもむろにスキルによる羽を生やし、意思疎通できる種族を探すため再び飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘジンマール何かわかったかしら?」

「母上ですか? い~え、全くです」

「そう。まぁあれだけの情報ではね」

 

 元ドワーフの王城にドラゴン特有の野太い声が響く。王城の外周に位置する部屋で、自らの巨体と天秤で相対できるほどの大量の本を相手に、頭だけ入室してきた母であるキーリストランから頼まれた調べものを続ける。

 だが提供された手掛かり自体が断片的すぎるため、ハッキリとした現象や人物をドワーフが古くから蓄えた書物からは発見できずにいた。

 

 ――昨夜、山脈上空に現れた羽の生えた黒い人型

 ――そして、山をも吹き飛ばす空からの炎の魔法

 

「無難に考えれば吸血鬼か、それに近い種族が恐ろしい魔法を使ったとなりますが」

「そうね、問題はそんな魔法が本当に存在するのかね」

「それこそ神話の話になってしまいますが……」

 

 そういった物語の中に該当する話は存在する、だがお父上たる霜の竜の王が求める話はそういった話ではなく、明確な対策を含んだ結果を知らせなければならない。

 

 正直もう自分がデタラメな本を書いて持っていけば早いかもしれないが、今回はアゼルリシア山脈全体のパワーバランスに関わる。そこには末端とは言えヘジンマールの命も関わっているのだ。あまり自信はなかったが自らの知識が役に立つかもしれず、ヘジンマールはひそかに張り切っていた――

 

「兄上達は戻りましたか?」

「えぇ日の沈む方角の一番高い山、あなたは知らないでしょうけど巨人の住処の一つが消えていたそうよ」

「では、本当に山の中に住んでいた霧の巨人は全て?」

「山脈が削り取られていたのよ、それに比べれば小さい巨人なんてね」

「……」

「オラサーダルクもあの調子だし、もう逃げようかしら」

 

 力のない瞳とともにため息をつく母に同意する。あの地震があった明け方に帰ってきたオラサーダルク=ヘイリリアル(霜の竜の王)は、玉座の間を離れ自身の宝をかき集め部屋に引き籠っていた。

 

 扉の前では震えていると思われる振動が響いてくるらしい。その話を母から聞いた時、ヘジンマールは何とも言えない微妙な気持ちになった。

 

「では急いだほうがいいのでは? ここも安全ではないかもしれませんし」

「そうだけどね。逃げた先が安全かもわからないし。子供にはわからないでしょうけど、新しく住処を探すのも大変なのよ」

「確かにそうですけど……」

「それに私たちが相手にならないくらい恐ろしい怪物だった場合でも、やりようはあるのよ」

「え?」

「一つだけ条件が整えばね、その時は中身が詰まったあなたが一番役に立つかもしれないわね」

「えぇ!?」

 

 自分が? と、ヘジンマールは思わず母を二度見した後、自らの出っ張った腹を見下ろす。(中身が詰まってるって……ま、まさか生贄なんじゃ)相手のご機嫌伺いに子供を差し出す。本の中の物語では決して珍しくない展開だ。

 

 相手がドラゴンを食べる場合なら万々歳、そうでなくてもドラゴンの素材は貴重であり、その価値がわかるものであれば死体一つでも喜ばれるかもしれない。腹の肉をみじん切りにされる自らの姿を想像してしまい、思わず手にしていた本が震える。

 

「ヘジンマール? なにか勘違いしてない?」

「は? い、生贄ではないのですか?」

「……なるほど、それもあったわね」

「……」

 

 安堵を求めるために余計な事を言ってしまった、自らの口の軽さには大いに反省を諭すべきだろう。だが生贄路線を回避するためにも、確認しなければならないことがある。見上げる位置にいるであろう母親には、誰も犠牲にならずに済む妙案があるらしい。

 百年以上生きてきて今更母親に甘えるようで情けないが、命に比べれば些細なプライドなど気にせず素直に尋ねることにした。

 

「あ~、それで母上の一つ条件が整えば生き残れる手段というのは?」

「ムンウィニアと私たちが敵だったのは、あなたも覚えているでしょう?」

「はい、よく覚えていますよ。……身をもって」

「そうよね。最初は周りに噛みついてばかりだったし」

 

 自らの母親とは別の父の妃、ムンウィニアは敗北して半ば無理矢理妃とされたのだ。今ではほぼ角は取れたが最初の頃は特に、母親間の関係は最悪と言っていいものだった。

 ヘジンマールも実害こそなかったが、目線が合うたび冷気のブレスもかくやという悪寒が走る視線を頂くのは、心労の溜まる日々であった。

 

「話が通じれば、配下にして貰うと……そういうことですか?」

「そうね。ムンウィニアと違うのは、無理矢理じゃなくて進んでなることくらいね」

「話が通じない場合、その瞬間山ごと殺されるかもしれませんよ」

「そうね、だからその確認は私がするわ。あなたはいつでも逃げれる準備をしていなさい」

「え? ……母上?」

 

 会話をしながらも本に走らせていた目を止めてしばし動きを止める。今自分は母親に何を言われたのか? 理解できなかった。血が繋がった母親であるせいかヘジンマールが身内から浴びていた嘲笑の視線とは違う態度でいてくれた母。

 それは本の物語にあるような暖かな優しい母親というものではなく、悪く言えば無関心、よく言えば放任主義に類するものだった。

 

 ヘジンマールが知識にのめり込むようになればその関係も顕著になり、こうして部屋を訪ねて来る日も徐々に少なくなっていった。

 たまに部屋に来た日はアゼルリシア山脈にいる魔物の確認や鉱石など知識が目的でヘジンマール自身に用件があったことはほとんどなかった。それはそれで知識の価値が確認できてヘジンマールは満足だったが。

 

 突然の事で鈍くなった思考が動き出し本から視線を移せば、既に母親の姿は扉の向こうだった。

 

「は、母上?」

「あなたは一応兄なんだから、せめて弟達に安全に逃げる方法や方角を教えておきなさい」

「わ、わかりました」

「上手くすれば強大な力の庇護下に入れるかもしれないのだから、悪い賭けじゃないはずよ」

「……」

 

 扉のさらに先へ消える母親の気配を見送りつつヘジンマールはドワーフの本に書かれていたある一節を思い出していた。

 

 

『剣に対する父の愛に匹敵するものはないが、子に対する母親の愛に匹敵するものも、この世にない。』

 

「ドワーフだけかと思っていたけど、ひょっとしてドラゴンにも当てはまるのか……」

 

 種族としてのドラゴンは本来、肉親間の愛情はかなり薄い。

本来孤高の存在であるはずのドラゴンの集団を作った父のように、あの母に関してもそれは例外なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…はぁ…くっ…っそ!」

 

 山中の地下空間から抜け出るため、全力で地上への上り坂を駆ける。地上の光が僅かにだが届き始めていた、――あの光に届けば自分は助かる。しかし悲しい事にドワーフの種族ゆえの身体的特徴のため、追っ手を振り切ることは未だできていない。

 

 既に後方の甲高い金属を打ち合うような音は消え、薄暗い地底には自らの息遣いと駆ける足音、後方から迫る二体とおぼしきクアゴアの足音の気配しか感じられなかった。

 

「くっそ…マント、さえ、あれば!」

 

 ただ運が悪かった。交換条件付きではあったが調査団に組み込まれたことも、その調査団が地上を目指してる途中で突然クアゴアの一団に出くわしたことも、さらにはその際不可視化のマントを落としてしまった事が一番の痛恨だった。

 

(だが、もう少しじゃ!)

 

 奇襲だったことに加え、敵の数が多すぎた。そのため自分も含めた味方は地下洞窟という空間の許す限り四方へ分散して逃げ出した。同胞の中でも戦う力量のない自分は最初から最後まで一切の憂いもなく逃げの一手だった。そのためここまでなんとか走ってこれたのだ。

 途中でマントがない事には焦ったが、奴らクアゴアは地上に出れば盲目となり、ろくな追跡など出来ないだろう。地上まで行けば助かる。

 

 父のルーン技術を残すまで自分は死ねない――

 

「はぁ……はぁ、っは!?」

 

 だが突然体が前に進まなくなった、それどころか左肩に痛みを感じたと思った途端に後方へ吹き飛ばされる。凄まじい速度だった。

 自分が走ってきていた地下洞窟の天井と後方、床の順番で視界の映像がゆっくりと流れ、最後に肩をつかんで自分を投げ飛ばしたと思われる青色のクアゴアが見えた。

 

「っぐぁ! っつ!!」

 

 認識できた途端に背中をしたたかに打ち付ける。同時に体内の空気が口から出そうになるのをなんとか耐える。前方は塞がれた、ならば走ってきた後ろに転げ落ちるように逃げればいい。考えてる暇はなかった。

 

「ふう、ったく! ノロマなドワーフごときが手間かけさせやがって!」

「があっ!」

 

 起き上がろうとした途端に激痛が走り、叫び声を上げてしまう。視界の隅には自分の体へ足を乗せている別のクアゴアが映った。どうやら痛みの原因は腹を踏まれたことらしい。

 

(くそっ! もう駄目じゃ!)

 

 既に気力だけで走っていた状態で足を止められてしまい、さらには動きも止められた。後ろを振り返らず必死に走っていたため、まさか青の上位種が追ってきていると思わなかった。心が折れかけたところに極度の疲労と与えられた痛みが、残った意識を削り取る。

 

 今自分に起こっている事全てに、良いものがなにもなかった。

 

 クアゴアの二匹はゴンドを奴隷にして連れていく手筈を確認していた、殺されはしないのかもしれない。だがクアゴアの奴隷になった同族が逃げられた話は聞いたこともない。

 

 自分の人生はここまでかと薄れる意識とともに諦めかけていた時――

 

 

「あの~、こんにちは」

 

 場違いな台詞で、聞きなれない女の声が暗闇の空間に響きわたった。




ゴンドがヒロインとかないですないです

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