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引き出し業者 はびこらせぬ手だてを

 ひきこもりの「自立支援」をうたい、無理やり連れ出して施設に軟禁し、高額な費用を請求する。「引き出し屋」と呼ばれる悪質な業者がはびこる現状を改めていく手がかりにしたい。

 3カ月にわたって軟禁されたとして関東の30代の女性が起こした裁判で、業者に損害賠償を命じる判決を東京地裁が言い渡した。自由な意思に基づいて行動する権利を侵害したと認定した。

 一人暮らしのマンションに、玄関のドアチェーンをバールで壊して入り込んだ職員に「寮」へ連れて行かれ、携帯電話や現金を取り上げられた。逃げ出して警察に駆け込んだが相手にされず、連れ戻されたという。

 本人の意向を確かめなかった上、医療や福祉の専門職もいない実態から、支援とは名ばかりだったと判決は結論づけている。業者とは母親が契約し、およそ570万円を支払っていた。

 ひきこもりが長期化、高年齢化するとともに、引き出し業者とのトラブルも顕在化し、訴訟は各地で相次ぐ。鍵をかけた部屋に閉じ込められた、精神科病院に入院させられた、といった訴えも聞く。神奈川の男性は、逮捕監禁致傷の疑いで業者を刑事告訴した。

 民間業者による入居型の施設は全国に50カ所余りあるという。ただ、設置、運営の基準や規制はなく、実態はつかめていない。

 家族のわらにもすがる思いにつけ込むようにして悪質業者による人権侵害が横行するのを見過ごすわけにいかない。政府、自治体は実態の把握を急ぎ、被害を防ぐ手だてを講じなければならない。

 引き出し業者は、必ず自立させるなどとうたって契約を持ちかける。けれども、本人の意に反することを強要するのは、そう仕向けた家族との関係を断絶させ、状況をより悪化させかねない。

 悪質業者がはびこるのは、公的な支援が届いていないことの裏返しでもある。子どもでも高齢者でもない年齢層の成人は、福祉の枠からも取り残され、家族が抱えるしかなくなりがちだ。

 隣近所の人づき合いが薄れ、家庭の問題は外からは見えにくくなっている。偏見を恐れて周りに知られまいとする家族も多い。そこにどう手を差し伸べ、本人と家族の孤立を防いでいくか。

 それぞれの家庭の事情も、本人の性格や特性も異なる。もつれた糸を一つ一つ解きほぐしていくような丁寧な関わりが必要になる。当事者や支援者の団体とも連携した取り組みが欠かせない。

(12月30日)

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