新春特別企画

2020年のAIアシスタント

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あけましておめでとうございます。よういちろうです。今年もよろしくお願いいたします。

皆さんのお宅には,スマートスピーカーやスマートディスプレイと呼ばれるデバイスはありますか? また,スマートフォンに対して日頃から「オッケー,グーグル」⁠アレクサ」⁠クローバ」と問いかけていますでしょうか? 筆者の感覚では,一昨年から昨年にかけて,AIアシスタントを利用している人々が着実に増えていきました。徐々に市民権を得てきているという実感はありますが,特に昨年は課題も多く見えた年となりました。

本記事では,2020年というオリンピックイヤーにおいて,AIアシスタントがどうなっていくのか,その見通しを紹介します。昨年の動向を踏まえながら,今年AIアシスタント関連でどういった動きが見られるか,予想してみたいと思います。

ここで取り上げるAIアシスタントは,日本においてプラットフォーム化をすでに遂げているGoogleアシスタント,Amazon Alexa,そしてLINE Clovaを対象とします。

より身近になったAIアシスタント

2014年にAmazonからAlexaが,2016年にGoogleからGoogleアシスタントが登場,そして2017年にLINEからClovaが発表されました。これらはAIアシスタントの代表格として特に日本において現在普及しているプロダクトたちです。すでにAIアシスタントが登場してから5年が経過しています。特に最近のコンピュータの進化において,5年間という時間は長い部類に入ると思います。この長い期間の中で,AIアシスタントは着実に市民権を得てきています。

AIアシスタントの登場当初は,スマートスピーカーという音声のみを取り扱うデバイスと共に登場したため,Voice User Interface(VUI)が注目されました。AIアシスタントにとってVUIが重要でありUI/UXの中心であることは今でも変わっていません。しかし,昨年はその状況に変化がありました。それは,スマートディスプレイの登場と普及です。

特に日本においては,スマートスピーカーよりも,画面付きのスマートディスプレイのほうが好まれている傾向がありました。例えば,昨年の7月に行われたMMD研究所のスマートウォッチとスマートスピーカーに関する調査の結果として,Google Home,Home miniやAmazon Echo(音声のみ対応)がシェア33〜35%だったのに対して,日本で発売されてから約1ヶ月のGoogle Nest Hub(スマートディスプレイ)のシェアが21.8%という高い割合でした。この結果からも,人々がスマートディスプレイに強い関心を持っていることがわかります。

これは,今までのコンピュータはすべて「画面に結果が表示される」形態でしたので,どうしても「要求したことがうまくいったかどうかを目で見て確認したい」というある種の慣れが作用した結果かと想像できます。

スマートディスプレイの売れ行きに比例して,AIアシスタント側も画面に対応する動きが昨年は加速しました。開発者は,画面に対応したスキルやアクションを開発できるようになりました。

  • Alexa - Displayテンプレート,Displayインタフェース,Alexa Presentation Language (APL)
  • Googleアシスタント - Interactive Canvas

Clovaについては自由にClova Desk向けの画面対応を行うことはまだできませんが,すでに画面対応したスキルがいくつか登場しています。また,⁠画面がある」という特徴は,

  • YouTubeといった動画を閲覧することができる
  • デジタルフォトフレームになる
  • ビデオチャットができる
  • ユーザが話したフレーズがどう認識されたか表示される

という安心感を提供できますので,スマートスピーカーよりも好まれています。

「VUI + 画面」というマルチモーダル(様々なデバイスに対応すること)への対応が昨年進みましたが,より多様なデバイスが今年は登場することが予想できます。実は昨年においても,その片鱗が登場してきていました。特に,スマートイヤホン(AIアシスタントを呼び出すことが可能なイヤホン)が数多く発売開始され,さらに発売の予告がありました。特に筆者は,Amazonが独自のスマートイヤホンEcho Budsを発表してきたことに驚きました。Echo Loop(指輪)やEcho Frames(メガネ)に関しても,Echo Budsと同様に「スマートスピーカーを身につけていつでもどこでもAIアシスタントを呼び出すためのデバイス」として発表されています。

Amazonが発表したスマートイヤホン「Echo Buds」

Amazonが発表したスマートイヤホン「Echo Buds」

日本でもAIアシスタントを起動可能なイヤホンやヘッドフォンがいくつか発売されていますが,残念ながら盛り上がりには欠けている状況と言えるでしょう。これは,日本人が公共の場では一人で何か話すことに躊躇する雰囲気があるからだと考えられます。海外の方々が日本の駅のホームでスマートフォンに何かを話しかけている姿を誰しもが見たことがあると思います。それは明らかに通話ではなく,旅行の思い出を自らの声で録音している姿だとわかるときがあります。

日本人も,いつか海外の方々のように,AIアシスタントをウェアラブルデバイスで呼び出して利用し始めるようになるでしょう。今年はそういった光景が徐々に増えてくるはずです。

ただ,いきなりウェアラブルデバイスが普及するのではなく,その前に別の変化が来ると考えられます。それは,⁠スマートフォンの使い方が変わる」ということです。

特にAndroidにおいては,ホーム画面に並んでいるアプリのアイコンをタップしてアプリ起動する操作は徐々に減っていき,その代わりに「Googleアシスタントを声で呼び出し,アプリ名を話してそのアプリを起動させる」といった使い方が推奨されていきます。さらに進むと,⁠アプリを起動する」という使い方から,⁠○○したい」といったフレーズを声でAIアシスタントに問いかけることで,適切なアプリが起動して希望を実現してくれる機能が動作する,という振る舞いに変わっていくことでしょう。

スマートフォンの使い方がそういった方法に変わっていくに連れて,そもそもスマートフォンという「持ち運ぶためには大きめのデバイス」を使い続けるよりも,もっと手軽なウェアラブルデバイスを利用したほうが利便性が高くなっていくタイミングが来るはずです。その結果として,現在誰しもが利用しているスマートフォンのシェアは減っていくことになります。今年は,ユーザが利用しているデバイスの変化の兆しがはっきりと多くの方々に認識される年になりそうです。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

1975年2月生まれ。Tably株式会社所属。業務アプリ向けの開発ツールやフレームワークの設計に携わった後,mixi Platform,LINE Platformの技術統括を行う。日本でのソーシャルアプリケーションの技術的な基礎を確立しただけでなく,メッセージングアプリにおいても世界に先駆けてBOT Platformの立ち上げを主導した。その後もプラットフォームのさらなる進化に日々チャレンジしている。趣味で開発しているChromebook向けアプリは,Google Open Source Programs Officeから評価を得ている。Google Developers Expert(Assistant, Web Technology担当)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。著書『OpenSocial入門』,『開発者のためのChromeガイドブック』,『ソーシャルアプリプラットフォーム構築技法』。