本結びと縦結びはどっちが強い?「圧力で色が変わる繊維」によって科学的に解明!
- ロープは結び方によって結び目の強度や安定性がなぜ大きく変化するが、その理由は十分理解されていなかった
- 新たな研究は圧力で色の変化する繊維を利用して、結び目をモデル化し交差やねじれの条件を明らかにした
- このモデルにより、結び目の安定性の比較や、状況に応じた最適な結び目の提示が可能になる
ロープを固定するとき、重要になるのが結び方です。世の中には様々なロープの結び方があり、その方法によって結び目の強度や安定性は大きく変わってきます。
これは船舶免許を取ろうとした人や、登山家、建設現場で働く人たちなら、基礎的な知識として学んだ経験があるでしょう。
しかし、なぜ結び方によって結び目の安定性は変わってくるのでしょうか? その物理的な理由については、実はこれまで十分に理解されていませんでした。
マサチューセッツ工科大学の数学者や技術者の研究グループは、そんな結び目の安定を予測するための数学モデルを開発しました。
長い歴史の中で、経験的に洗練されていった結び目。このモデルは、最高の結び目とは何なのか? その理由を示してくれるといいます。
この研究はマサチューセッツ工科大学の機械工学准教授のKolle氏、数学の准教授Dunkel氏らの研究グループにより発表され、1月3日付けで科学誌『Science』に掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/367/6473/71
圧力で色の変わるロープ
今回の研究で面白いのが、結び目の強度を理解するために張力や圧力に応じて色が変化する伸縮性繊維を利用したことです。
この不思議なカメレオンロープは、引っ張ると繊維が虹色から別の色に変化していきます。
開発者のKolle氏がこの繊維について講演を行った際、聴衆の中に数学者のDunkel氏がいて、この不思議なロープを使って結び目の安定性が研究できるのではないか、と考えたのが今回の研究チーム結成のきっかけだったのだそうです。
数学の分野では、長い間幾何学的な問題としてヒモの結び目に興味を持っていました。この場合、数学者たちはヒモを両端のつながった閉曲線として考え、材質や力学的な要素も無視してヒモのねじれや変形の問題として考えます。
しかし、Dunkel氏は今回の特殊な繊維を利用することで、この結び目理論の数学的モデルに物理的な特性を追加して、ある結び目が他の結び目より強い理由を説明できると考えたのです。
スパゲッティ物理学
Dunkel氏は以前、一風変わった研究を行っていました。それはスパゲッティを綺麗に2つに折る方法の研究です。
真のスパゲッティ愛好家は乾燥パスタを二つ折りにすることにブチ切れるらしいですが、彼らの主張に逆らってスパゲッティを2つに折ろうとすると、折り目が細かい破片になってしまってうまくいきません。
この「スパゲッティ問題」は、実はノーベル物理学賞を受賞したファインマンも頭を悩ませたという有名な難問です。
Dunkel氏も参加した研究グループはスパゲッティをモデル化して、全体にねじりを加えることで綺麗に2つに折れることを発見したのです。
今回の研究では、このとき使われたスパゲッティをシミュレーションするモデルを再利用し、ここに変色繊維で様々な結び目を作った際に記録された圧力やねじれの情報を組み込むことで、結び目の安定性のモデル化に成功したのです。
研究グループは完成したモデルで様々な結びを作り、それが変色繊維で作った結び目と同じように圧力やねじれが再現されていることを確認しました。
この完成したモデルを使い様々な結び目を比較することで、強い結び目に見られる特徴や条件が明らかになったのです。
強い結び目
彼らの研究によると、より多くの交差があり、より多くのねじれの変動があれば結び目は強くなるのだと言います。
例えば、あるロープが左回転で結び目を強く引っ張っているとき、隣接するロープが右回転でねじれていると反対方向の摩擦が両者の間に生じて、その結び目を安定させます。
これが隣り合うロープが互いに同じ方向へ回転してしまうと、ロープは滑って結び目が弱くなってしまいます。
ちょっとイメージしづらいですが、これはよく似た2つの結び方「本結び」と「縦結び」では、「本結び」の方が安定してい強固な理由を説明してくれます。
本結びは縦結びに比べて、上手く複数の輪を作っていて、引っ張ったときに隣接するヒモが逆回転するようになっています。
このモデルは、ある結び目同士でどちらがより強固で安定しているかを明らかにでき、セーリングや登山、建築現場などで用途に応じた最適な結び方の選択に役立てられるとのこと。
こうした経験的な知識に頼って決定されていた問題が、科学的な裏付けによって決定できるようになると、職人が伝統で受け継いできた技も、機械のシミュレーションが解決する時代になるのかもしれません。