益田美樹

“虐待冤罪” 無罪判決続く 当事者が投げ掛ける「揺さぶられ症候群」の隙間

1/7(火) 8:15 配信

虐待から子どもを救おうという機運が高まるなか、“虐待冤罪(えんざい)”が起きている。強い揺さぶりで脳などを損傷する「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」に関するものだ。子どもがSBSとみなされると、子どもと引き離され、刑事裁判の被告となるケースも少なくない。ただ、2018年から2019年にかけて、こうした事例で少なくとも4件の無罪判決が出た。起訴案件の有罪率が100%に近いと言われる日本で、立て続けの無罪判決は異例というほかはない。(文・写真:益田美樹/Yahoo!ニュース 特集編集部)

つかまり立ちで転び、入院

秋が深くなり始めたころ、大阪府の山野由紀さん(仮名)宅を訪ねた。39歳。こぎれいに片付いたリビングで、由紀さんは2017年8月の出来事を語ってくれた。人生を暗転させた一日である。

山野由紀さん(仮名)

「長男はあのとき7カ月でした。つい数日前に、つかまり立ちができるようになったところだったんです」

午後4時前だったという。

「リビングのソファの前に長男を置いて、お茶を飲もうとキッチンに行ったんです。ほんの2、3メートルしか離れていません。キッチンから見ると、長男はちょうど、ソファにつかまり立ちをしていました」

ズバリそのソファです、とテレビの前を指さした。今と種類は違うが、当時も衝撃を和らげるマットを敷いていたという。

事故の現場。今も同じ場所に同じソファがある

「『もう、転ぶからやめてー』と急いで戻ろうとしたら、転んで。後ろ向きに。駆け寄って、抱っこしてトントンとあやしてたら、おっきな声で泣いたんです。素人判断ですが、『ああ、泣いた。よかった、よかった』と。でも、そこから一気に……」

長男は急に脱力し、重くなった。

意識を失ったことに気付いた由紀さんは、長男をいったんマットの上に寝かせ、夫(46)に連絡し、掛かりつけの病院に電話した。すると、「時間外です」と自動音声が流れている。急いで救急車を呼んだ。名前を叫び続けても長男の意識は戻らない。

「もうパニックで。病院に着いて看護師さんから『お母さんしっかりして』と言われたんですが、それどころじゃなかった」

長男は頭の中で出血していた。急性硬膜下血腫。手術が必要で、別の病院へ再度搬送された。執刀医からは手術前、「出血が止まらなかったら助からない」と告げられた。夫と一緒にひたすら祈った。手術が終わったのは午後11時ごろ。出血は止まっていた。

「ほんとに、頑張ってくれてありがとう、でした」

イメージ(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

病院で何を言われたか

手術の日、病院で言われたことがいくつかあった。

「普通に転んだぐらいじゃ、(あんな症状に)ならないからね」という医師の一言。児童相談所(大阪府中央子ども家庭センター)に通告するという話もあった。SBSを疑われていたのである。

乳幼児の上半身を持って前後に激しく揺さぶることで、脳などが損傷し発症する。近年では、「虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)」とも分類される。主に「硬膜下血腫」「網膜出血」「脳浮腫」という三徴候で診断され、長男もそれに該当していたという。

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