オーストラリアの森林火災は、この地球の未来を“予言”している

オーストラリアで続く大規模な森林火災の被害が止まらない。多数の死者が出ているのみならず、巨大な煙の雲が東海岸沿いの大都市を襲い、数百万人が深刻な呼吸器系疾患の危険に晒されている。温暖化が引き金となった大規模火災が北半球でも南半球でも起こり始めているいま、地球全体への影響を防ぐことが喫緊の課題になりつつある。

fire

AAP IMAGE/DEAN LEWINS/AFLO

この地球上の人類にどんな恐ろしい未来が待っているのかを知りたければ、オーストラリアに目を向けるといい。

2019年9月から続いている大規模な森林火災によって、オーストラリアでは1,450万エーカー(約58,600平方キロメートル)が焼かれ、少なくとも18人が死亡した。巨大な煙の雲が東海岸沿いの大都市を襲い、数百万人が深刻な呼吸器系疾患の危険に晒されている。しかもオーストラリアの山火事シーズンは、まだ始まったばかりなのである。

カリフォルニア州の住民にとっては見慣れた光景だろう。ここでも気候変動や土地管理などの同じ要因が重なって、森林火災は以前より規模が大きく、広範囲の土地を焼き、より多くの死者を出している。

いまや、地球は「残り火の時代」に突入した。残り火の時代とは、氷河期のようなものと考えていい。ただし、氷ではなく世界が火に包まれる時代だ。火の歴史家であるスティーヴン・パインが言うところの「Pyrocene(火新世)」である。

カリフォルニアの火災に続く大惨事

オーストラリアでもカリフォルニアでも、温暖化によって植物は乾燥し、燃えやすくなっている。オーストラリアでは深刻な干ばつに加えて、12月中旬には猛烈な熱波に襲われ、1日の気温が同国史上最高を記録。平均最高気温は約42℃に達した。

カリフォルニアと同じように、強風によって小さな火花があおられて大規模な山火事となり、あまりの巨大さゆえに天候にまで影響を及ぼしている。カリフォルニアでは18年、勢いよく燃え広がった火災のためパラダイスという町が完全に焼け野原となった。オーストラリアでも火は急速に拡大し、町全体を飲み込もうとしている。

「これは前代未聞です」と、タスマニア大学の火災科学者であるデヴィッド・ボウマンは言う。「前代未聞どころではなく、大惨事です」

オーストラリアの火災は、本来なら燃えるはずのない場所にまで広がっている。例えば、火に強いはずのバナナ農園までも炎に包まれた。「農村地帯での燃え広がり方は異常です。広がるのが速すぎて、どうしようもできません。小さな田舎町に避難指示が出されていると聞くと、背筋が寒くなります」

野焼き政策の採用が転機に

カリフォルニアと同じくオーストラリアの森林火災も気候変動によるところが大きいが、数十年におよぶ誤った国内政策のせいでもある。

かつて数千年の間、どの土地でも先住民たちは火との健全な関係を維持してきた。地球上で初めて森林火災が起こって以来、火は常に生態系のリセット役となっており、先住民たちはこの働きを理解していたのだ。小さな火で茂みを焼いておけば、あとで成長しすぎて手の付けられない大規模火災に発展するのを防ぐことができる。

オーストラリアへやってきた英国人は、火災に関してはどんなに小さなものでも許さず、野火が起こったらすぐに消火した。ところが第二次世界大戦後、オーストラリアの政策立案者たちはこのやり方を見直し始めた。アボリジニや地方に住むオーストラリア人の山火事対策から学び、広範囲での野焼き政策を採用したのだ。

「ある程度の科学的厳密性と官僚的な規律を採り入れることにしたのです。それが転機となりました」と、歴史家のパインは言う。「これが国家的な業績のようなものとして捉えられ、もはや英国式のモデルに従う必要はなくなったのです」

米国もまた、最初は英国式の妥協を許さないモデルを追及していたが、やがてオーストラリアに続いた(カリフォルニア州は、もう少し管理下の野焼きを実践すべきだが、南東部の州ではうまくいっている)。

だが、その後オーストラリアでは森林の野焼き擁護者と、とりわけ野火といった火災の潜在的な破壊性を懸念する都市環境保護家との間で対立が生まれた。「英国の伝統から来る火への不信感もいまだに根強く、(火災の影響を懸念する人々は)いつでも火災を防ぐ方法を模索しています」と、パインは言う。

火種が徐々に大きくなっているところに厳しい干ばつが襲うと、スーパーチャージされた森林火災が発生する条件が整う。植物がからからに乾き、風が激しく吹けば、よく手入れの行き届いた農園ですら火の手を免れることはできない。

北半球と南半球で山火事シーズンが重なり始めた

オーストラリアとカリフォルニア州の関係は、土地の状態だけにとどまらない。ふたつの土地は北半球と南半球に分かれているため、これまでは山火事のシーズンが真逆だった。オーストラリアが夏のときはカリフォルニア州は冬であり、逆にオーストラリアが冬になるとカリフォルニアに夏が訪れる。

このため交換プログラムのようなかたちで、それぞれの国の消防士たちは太平洋を越えて互いの季節的な森林火災の消火活動を助け合ってきた。ところが、気候変動によってその関係は複雑化した。双方の山火事シーズンが長期化し、一部が重なり合ってきているのだ。実際、今季オーストラリアで火災シーズンが始まろうとしていたころ、カリフォルニア州ではまだ各地で過去最悪の森林火災に苦しんでいた。

「準備が特に難しくなっています。互いの人員だけでなく、機材にも依存していますから」と、オーストラリアの気候評議会の研究責任者マーティン・ライスは言う。「オーストラリアはカリフォルニア州のような上空からの消火能力が十分ではありません」

この経験をオーストラリアは生かせるか

スーパーチャージされた“火新世”の森林火災によって、世界中で何百万という命が危険に晒されている。また、それ以上の人々が煙による間接的な被害を受ける。オーストラリアの火災はシドニーの空を陰らせ、煙はニュージーランドにまで達している。

森林火災の煙を吸うことは誰にとっても有害だが、特に高齢になると喘息患者へのリスクが高く、子どもの呼吸器系にも長期的な影響を与える。オーストラリアの森林火災は、地方にとっても都市部にとっても緊急事態なのだ。

だが、気候変動による未曽有の事態が、危機に立ち向かうオーストラリア人を奮い立たせるきっかけになるかもしれない。「これは、わたしたちにとっての『ガリポリの戦い』にたとえられます」と、火災科学者のボウマンは言う。「大きな軍事的敗北でしたが、それをオーストラリア流のやり方で“記念”する。なぜならそれが国家を強くするからです」

そして彼は、こう付け加えた。「この森林火災からも同じことが起きると期待しています。この経験すべてをどうにかして生かさなければなりません」

※『WIRED』による気候変動や地球温暖化の関連記事はこちら

RELATED

SHARE

CES 2020:スマートフォンのレンズが一瞬で消える? 特殊ガラスでカメラが“見えなく”なる端末、OnePlusが発表へ

中国のスマートフォンメーカーであるワンプラスが、カメラのレンズが“消える”スマートフォンのコンセプトモデルを開発した。「CES 2020」で披露される予定のこの端末は、電気信号によって色が変わる特殊ガラスをスマートフォンのカメラの上に配置している。同社にとって「技術的な課題克服の象徴」というコンセプトは、いかに生まれたのか。

TEXT BY LAUREN GOODE

WIRED(US)

OnePlus

VIDEO BY ONEPLUS

いまや個人用の重要なデヴァイスの多くが、たった1枚の“ガラス板”のような高性能な端末へと統合されている。こうしたなか、スマートフォンメーカーは目立つためなら何でもする。曲がるディスプレイを搭載し、高いリフレッシュレートを誇り、懐かしいデザインでユーザーの心を掴む。

そして、スマートフォンからカメラのレンズさえも省こうとしている。そんなコンセプトを採用したのが、中国のスマートフォンメーカーであるワンプラス(OnePlus、万普拉斯)の新しいプロトタイプ「OnePlus Concept One」だ。

ワンプラスは英国の自動車メーカーであるマクラーレンと協力し、高級車のサンルーフや航空機の窓に使われているガラス技術をスマートフォンに取り入れようとしている。電気信号によって色が変わる特殊ガラスが、スマートフォンのカメラの上に配置されているのだ。

カメラアプリを開くと、この特殊ガラスが透明になってレンズが姿を現す。カメラアプリが使われていないときは、ガラスが不透明になってレンズは見えなくなる。ラスヴェガスで開催される「CES 2020」で、ワンプラスはこのコンセプトモデルを披露する予定だ。

技術的な課題克服の象徴

OnePlus Concept Oneは、その名の通りコンセプトであり、近く発売される予定はないとワンプラスは発表している。ワンプラスの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のピート・ラウ(劉作虎)は『WIRED』US版のオンラインインタヴューで、Concept Oneは「ワンプラスにとって冒険的なモデルで、多くの(技術的な)課題の克服の象徴でもある」と語った。

ラウは「このアプローチによって少量の生産が可能になります。そして少数のユーザーグループからのフィードバックを得て、より幅広いユーザーに利用してもらえるデヴァイスの開発が可能になると考えています」と語っている。

設計にマクラーレンが関与していることを知らなくても、Concept Oneからはレースカー独特の美学を感じられるかもしれない。先月サンフランシスコで開催された説明会でConcept Oneが紹介されたが、背面は縁に沿ったステッチが目を引くパパイヤオレンジの革製で、背面の中央には縦に黒の薄いエレクトロクロミック・ガラス[編註:電流を流すと色が変わる物質を使ったガラス]が取り付けられていた。

OnePlus

IMAGE BY ONEPLUS

OnePlus Concept Oneには、ワンプラスのスマートフォン「OnePlus 7T Pro McLaren」と同じ仕様のカメラが搭載されている。4,800万画素のメインカメラと1,600万画素の超広角カメラのデュアルレンズで、Concept Oneにはエレクトロクロミックが使われている点が異なる。

これによって実質的にカメラのレンズは視界から消え、カメラアプリが動作していないときはスマートフォン上にレンズは見えない。カメラアプリを起動すると、背面にカメラのレンズがうっすらと見える。暗い部屋で物を探しているときのように注意深く目を凝らさないと、レンズの輪郭を見分けることはできない。

出っ張りがないのが利点

このエレクトロクロミック・ガラスは、マクラーレンのスーパーカー「720S」でオプション装備のサンルーフに使われているガラスと同じものだ。ちなみに、このオプションの価格は9,100ドル(約98万円)となる(30万ドル以上するスポーツカーを買える人にはこのオプションをつける余裕がある。マクラーレン720Sは庶民向けのクルマではないのだ)。

この特殊ガラス技術は、18年式のマクラーレン「570GT」にもオプションとして設定されていた。ワンプラスのラウによると、同社のクリエイティヴディレクターが英国のウォーキングにあるマクラーレンの本社を訪問した際に、720Sのエレクトロクロミック・ガラスを小型のパーソナルデヴァイスに採用できないかと思いついたという。そのアイデアに同社は興味をもち、専門のエンジニアチームを結成して18年末から開発に取り組み始めた。

実物を見ると、ちょっと拍子抜けする。「消えるカメラ」と聞くと、何か手品のようなトリックか、わかりやすい変身を想像するかもしれない。だが、これは単に見えづらいカメラにすぎない。メリットは出っ張りがない点だろう。

この薄くて細長い特殊ガラスを含むスマートフォンの開発に際しては、いくつかの課題に直面したとラウは説明する。エレクトロクロミック・ガラスは、ハイエンドスマートフォンの背面に使われているガラスの上に、さらに別の材料を追加する必要がある。このため、これまでは厚さが課題だった。最終的にConcept Oneの全体の厚さは、わずか0.1mmしか増えていない。

カメラは1秒以内に「オフ」から「オン」へ

エレクトロクロミック・ガラスは、不透明な状態から半透明へと移行するために電流が必要になる。このためワンプラスは、人々が毎日利用するスマートフォンで消費電力を最小限に抑えられるように、ガラスを調整する必要があった。

色が変わる速度も課題だった。ガラスが不透明から透明へと変化するために時間がかかって、シャッターチャンスを逃してしまっては意味がない。ジェット旅客機の「ボーイング787ドリームライナー」の窓に採用されたエレクトロクロミック・ガラスは、透明から不透明、完全な着色状態へと移行するために数秒かかることもある。ラウによるとConcept Oneでは、カメラのレンズは1秒以内に「オフ」から「オン」へと切り替わる。

そして信頼性も欠かせない。定期的に新しい技術に挑むスマートフォンメーカーに、すべて問題なく機能する新製品を発売することがどれほど重要であるか尋ねてみるといい。ラウによると、ワンプラスは全体的な製造品質が確実に同社の標準を満たすように努力しているという。

OnePlus

IMAGE BY ONEPLUS

ニューヨークのコンサルティング会社Material ConneXionの研究部門でエグゼクティヴ・ヴァイスプレジデントを務めるアンドリュー・デントは、エレクトロクロミック・ガラスには寿命の問題が報告されていると指摘する。デントによると、この問題は建築など多くの分野に当てはまり、スマートフォンに限った問題ではないという。

「絶えずモードを切り替えていると、一定の年数を経て劣化します。完全に透明にならない点が生じたり、スイッチの反応が悪くなったりすることがあるのです」と、デントは説明する。エレクトロクロミック・ガラスは単一の層ではなく、ガラス層とポリマー層から構成されている。このためはがすのは難しく、簡単に交換できるとは限らない。

デントはまた、エレクトロクロミック・ガラスが高価なことも指摘している。ただし、小型のガジェットなら1台に使用される量は数グラムにすぎない可能性が高い。ワンプラスは現時点ではこのコンセプトモデルを少数しかつくっていないので、生産コストはそれほど大きな問題ではないと強調している。技術が成熟するにつれコストは下がるだろうと、ラウは考えているという。

負担のないデザインという哲学

ワンプラスは、大手の競合に先駆けて優れた技術を市場にもたらすことで定評がある。すりガラス調の背面デザイン、スマートフォンを落とすと自動収納されるポップアップ式カメラレンズ、そしてリフレッシュレートが90Hzのディスプレイなどだ。

ワンプラスは、親会社である中国のスマートフォンメーカーOPPO(広東欧珀移動通信)とリソースを共有しているという。だが、世界のスマートフォン市場の数パーセントを占めるにすぎない。つまり、この種のコンセプトモデルや「消えるカメラ」などは、その他の大手メーカーが実装し始めない限り、はやらないかもしれない。

それでも、ラウが「負担のないデザイン」と呼ぶこのデザイン哲学が、最新の哲学になりかけていることを示す多くの証拠がある。「この哲学の核心は、意味のあるデザインを重視することにあります。 途切れることが一切ないスムーズな表示の実現なのです」とラウは説明する。レンズ、ボタン、スピーカーグリル、さらには接続ポートさえも、個人用でデヴァイスから消滅し始める可能性がある(とはいえ、3.5mmヘッドフォンジャックの消滅から立ち直れる日は来ないかもしれない)。

サムスンの新しいスマートフォンと近日中の発表が噂さる最新モデルには、ディスプレイに内蔵された指紋センサーや、適切な壁紙を使うとほぼ見えなくなるピンホール型カメラレンズなどが搭載されている。アップル製品の予測で有名なアナリストの郭明錤(ミンチー・クオ)によると、アップルは「iPhone」の2021年モデルから充電ポートを完全に廃止し、iPhoneではワイヤレス充電が必須となる可能性もある。

デザインの合理化という“もろ刃の剣”

サンフランシスコのデザインスタジオであるNewDealDesignの創業者兼チーフプロダクトデザイナーであるガディ・アミットは、このようなテクノロジー製品のデザインサイクルは新しいものではないと言う。アミットによると、初期は技術的な要件によって特定のボタン、つまみ、ポートの配置が決まるが、時間の経過とともに設計者はデザインの合理化を推し進めようとする。

その例としてアミットは、初期の家庭用テレビを挙げる。「1960年代と70年代に最初に家庭用テレビが登場したとき、テレビの前面にはたくさんのつまみがありました。それが最終的には、特徴のないすっきりした四角いデザインが主流になりました」

だが、デザインに特徴がなくなったことで製品が使いにくくなったり、ひどい場合には障害者にとって使いにくい製品になったりして、ユーザーに大きな負担をかけることがあるとアミットは警告する。

「例えば、出っ張っているカメラの利点は、カメラの位置が分かり、触れて感知でき、誤ってレンズをべたべた触ってしまうことがない点です」とアミットは言う。「より優れた、より調和のとれたデザインの創造は、もろ刃の剣になりえるのです」

※『WIRED』によるCESの関連記事はこちら

RELATED

SHARE