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TVアニメ『映像研には手を出すな!』×Adobe Animateを活用したサイエンスSARU流アニメ制作術

TVアニメ『映像研には手を出すな!』×Adobe Animateを活用したサイエンスSARU流アニメ制作術

日本でもいち早くFlash(現:Adobe Animate)を用いたアニメーション制作を導入してきた、湯浅政明氏率いるサイエンスSARU。今回は、NHK総合テレビで2020年1月5日(日)から放送が開始されるTVアニメ『映像研には手を出すな!』におけるデジタル作画事例を紹介する。また現在、同作とアドビ システムズとのスペシャルコラボコンテストも開催中だ。コンテストの詳細はこちら

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 257(2020年1月号)からの転載となります。

TEXT_野澤 慧
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

  • TVアニメ『映像研には手を出すな!』
    ▼放送:NHK総合テレビ
    2020年1月5日(日)24:10~放送スタート!!!
    (関西地方は24:45~)
    ※放送予定は変更になる場合があります
    ▼配信:FOD独占配信 2020年1月5日(日)
    毎週日曜日26:00最新話配信

    原作:大童澄瞳(小学館『月刊!スピリッツ』連載中)、監督:湯浅政明、キャラクターデザイン:浅野直之、音楽:オオルタイチ、アニメーション制作:サイエンスSARU
    eizouken-anime.com
    ©2020 大童澄瞳・小学館 /「映像研」製作委員会

国内外から個性的なスタッフが集結!
サイエンスSARUらしさの秘密とは

映画『夜明け告げるルーのうた』(2017)をはじめ、唯一無二の世界観が国内外で高く評価されている湯浅政明監督。そんな湯浅監督を中心に設立され、映画『夜は短し歩けよ乙女』(2017)、『DEVILMAN crybaby』(2018)などのヒット作を制作してきたのがサイエンスSARUだ。世界中から支持を得ているアニメスタジオのひとつで、今年1月5日(日)からTVアニメ『映像研には手を出すな!』が放送され、注目が集まっている。

左から、アニメーター・高畑匠子氏、アニメーター・本橋茉里氏、アニメーター・太田琴美氏。
以上、サイエンスSARU
www.sciencesaru.com

本作『映像研には手を出すな!』は、3人の女子高校生がアニメ制作に挑戦する物語だ。アニメ制作の過程やその魅力、苦悩など、アニメ制作の裏側を個性的なキャラクターたちの軽妙なやり取りを通して描く。こうした独特な空気感をもつ作品とサイエンスSARUの相性は抜群だ。そこには、サイエンスSARUというスタジオがもつ背景も関係している。

サイエンスSARUでは、スタッフの個性を大切にした採用を行い、現在アニメーション部門には20人ほどのクリエイターが所属しており、各人の経歴は様々だ。美術大学や海外のスクール出身者など幅広く、国内だけに留まらず、世界中から湯浅ワールドに魅了されたクリエイターが集まっている。そのため、ほとんどのスタッフが日本の制作会社の作画経験をもたず、タイムシートの読み方もわからない状態でスタートするという。一見不利と思えるが、結果として様々な経験や視点が作品に取り込まれ、複雑な味わいのある作品をより深いものにしてくれるのだ。

デジタルツールについては、Animate CCを導入している。海外の制作現場では強い支持を得ているが、ツールのクセが日本のアニメ制作では活かしづらいこともあり、日本のアニメ作品で用いられることは少ない。こうしたツールの選択もサイエンスSARUの作風につながっているのだろうが、どのように活用されているのか気になるところだ。

それでは、国を超えて人々を惹きつける作品を生み出すサイエンスSARU流の制作を、最新作『映像研には手を出すな!』を通してみていこう。

<1>デジタルツールの特性を活かした作画作業

作品、制作陣、ツールの乗算で構築される作品世界

今回は「映像研」の3人娘よろしく、個性的な女性クリエイター3人にお集まりいただいた。本橋茉里氏はFlashアニメーターとして活躍し、『映像研には手を出すな!』第1話の絵コンテ・演出を担当しているクリエイターだ。高畑匠子氏は、別の職種からカナダに渡り、アニメーションの仕事を始めたという異端の経歴をもつ。そして太田琴美氏は、大学でアニメーションを学び、憧れのサイエンスSARUへ入社したばかりのフレッシュな新人である。

本作はアニメ制作を題材としているということで、実際のクリエイターから見た魅力について「アニメをつくっている途中で"これで良いのか?"と主人公が自問自答するところがあります。その姿が大学時代の自分と重なりました」と太田氏。アニメーターや監督・演出、プロデューサーなど、アニメに関わる様々なセクションのリアルな視点が描かれているところは、大きな魅力だという。一方、高畑氏は「私は最初からデジタルアニメーターだったので、作品に登場するアナログの制作道具が興味深いです」と語る。海外からキャリアを開始した高畑氏にとって、ツールはデジタルがスタンダードなのだ。

サイエンスSARUでも早くからデジタルツールを積極的に採り入れ、効率化やクオリティの向上を図っている。本作ではデジタルとアナログの割合は約6:4と、デジタルの方が上回っているとのこと。また、Animateを主体としているのは、起ち上げスタッフがAnimate(当時はFlash)を使用していたことがきっかけとなっている。Animateはベクターのため、T.Uのようなカットも1枚の画で対応でき、プログラミングを組んで自動化することも可能、加えてカメラワークや色変えなど作業を手助けする機能も多い。コピーして流用することも容易で、過去には作画監督の描いたキャラクターの表情をコピーし、原画工程を省略した作品もあったという。こうしたAnimateの特徴は湯浅監督の制作作品にもマッチするようだ。ただし「Animateは何でもできる魔法のツールではありません。今回は、浅野直之さんが手がけたキャラクターデザインを見たとき、Animateの強みを活かしやすいデザインだと思いました」と本橋氏。ツールの強みを理解した上で、その個性を活かすことを心がけながら、作品のために制作陣は力を尽くしている。『映像研には手を出すな!』×サイエンスSARU×Animate――この3つの力がかけ合わされた「最強の世界」を刮目して観るべし。

サイエンスSARUのデジタル作画環境

高畑氏【左】と太田氏【右】の作業風景。長机に各人のPCが配置されたシンプルなもの。同フロアのスタッフはほとんどiMac(macOS:Mojave 10.14)と、DELL製のサブモニタを接続したデュアルモニタ環境が整えられている。ペンタブレットはスタッフが使いやすいものを選んでいるが、インタビュイー3人は共にWacom Cintiq Pro 16を使用しているとのこと。ソフトはAnimate CC、PhotoshopCLIP STUDIO PAINTが基本となる

デジタルトレス

レイアウト・原画【上】は、アナログとデジタルが混在して納品されるため、Animateでトレスしていく【下】のだが、最終的な画のクオリティに大きく影響する大切な工程だ。作画のニュアンスをどれだけ忠実に落とし込めるかがポイントとなる。高畑氏は「鉛筆の独特な柔らかいラインやわずかなニュアンスをAnimateで汲み取るのは、神経を遣います」と難しさを語る。綺麗な線はAnimateの大きな特徴であり強みだが、反面強弱がつけづらい。そもそも鉛筆とベクターの線の太さは異なるため、どこをなぞるかという選択も生まれる。担当アニメーターの個性が反映される場面でもあり、同時に力量が図られる工程とも言える

オニオンスキン+髪揺れ動画

Animateの作業画面【上】とタイムラインのアップ【下】。タイムライン上で範囲を指定することで、その範囲のフレームを重ねて表示でき、その前後のアニメーションの軌道が可視化され、滑らかな動きが付けやすい。画像は髪の毛のアニメーション作業。自動中割では直線的な動きになってしまうところを、手作業で滑らかに動かしていく。海外のAnimateの作業では、髪の毛を一房ずつ分けて動かすという使い方は滅多にしないという。「このような複雑なデザインでAnimateを使うと言ったら、海外のアニメーターに"クレイジー"と言われると思います。Animateでここまで細かく調整するのは日本ならではだと思います」と本橋氏は笑う。クレイジーだからこそ、サイエンスSARUでしか表現できない世界が生まれるのだ

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Animateの特性を活かしたカット制作

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