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(戸が開く音)
(畑山)お先に失礼します。(稲葉)失礼します。
(喜美子)明日な 大事な話があるんよ。母屋の方に寄ってくれる?
そこで話すわ。分かりました。
大事な話て…。明日や言うてはるやん。
お前! 何で そんなんすんねん!ケンカすな! ケンカ… 離れて!
離れて帰りなさい! 仲よう。
はい。 はい 仲ような。
気ぃ付けてな。
(信作)おう。おう。
ハチ いる?ああ おるけど 先客や。
♪~
♪「涙が降れば きっと消えてしまう」
♪「揺らぐ残り火 どうかここにいて」
♪「私を創る 出会いもサヨナラも」
♪~
♪「日々 恋をして 胸を焦がしたい」
♪「いたずらな空にも悔やんでいられない」
♪「ほら 笑うのよ 赤い太陽のように」
♪「いつの日も雨に負けるもんか」
♪「今日の日も 涙に負けるもんか」
(柴田)ほうけ… 弟子は いらんか。奥さんがいれば 事足りてるか。(八郎)せっかく ご紹介頂いたのに…。
いや かまへん かまへん。ほな 奥さん。 弟子には…。
はい 明日 うちの方で話させてもらいます。
(柴田)頼むわ。ほな 銀座に向けて集中しいや。もう目玉になる新作は出来たんか?
いや まだ…。うん まあ… ここらで こう…イメージを一新させるような芸術作品は出来んかなあ言うてたで 佐久間さん。
はい…。あっ もうお茶はええで すぐ行くし。
ほう…。
(柴田)「たけしのさくひん」。可愛らしいな。
(柴田)「きみこのさくひん」。何や いろいろバラバラやな。こりゃ 何で 穴が…。(八郎)手に取ってみて下さい。
(柴田)うん?お… 軽いな。
子どもも楽に持てる皿です。
子どもの好きなお菓子や揚げ物をのせるんです。
なるほどな。 それで工夫したんや。
僕も この作品 気に入ってますねん。
奥さん 銀座の個展 どうするんや?いつもみたいに ハチの後ろに控えてお客さん 出迎えてくれるんやろ?
はい もちろん そのつもりです。ほな 美しい格好してな?
美しい格好ですか?銀座やで!
ほれ 前に銀座でやってやった備前焼のほれ…。(八郎)ああ…。
あの作家の奥さん高そうな着物着てはったなあ?
着物ですか?ほんで あの奥さんな英語にフランス語に中国語も話せる言うてたで。
そんなん必要ありますか?任せて下さい!
うち 滋賀弁と大阪弁と東京の言葉も少しやったら話せますぅ。
何やったら もう訳の分からん言葉も話してみせますぅ。
ハッハッハッハッ… 何 言うてんねん。かなわんなあ 奥さん。
川原八郎の奥さんやいう自覚忘れんといてや。
はい。(柴田)ほな お邪魔しました。
頼むで。ありがとうございました。失礼します。
♪~
ごめんな 信作。 どないした?ああ… 火まつりの話なんやけどな。
火まつり? まだ半年も先やんけ。
今から押さえとき言われたんや。
いろいろ忙しいやろうけど火まつりは 是非 参加して下さい。
ハハッ…。役場の商工観光課も 力入れてるし。
それ 毎回 言うてるな。毎回 言わされんねん。
お前 川原八郎先生と仲ええやろ口利いとけて…。
俺ら 仲ええよな? 仲ええよな?仲ええよ。 フフフッ。
笑いながら言うてるやん!2回も聞くからやんけ。
最近 全然飲みに行ってくれへんねんもん。
昔は よう2人であかまつ飲みに行ってたのに…。
あっ!
いや… 話 それだけ? 火まつり出ていう。
そや。 顔見せて念押ししとこう思てな。ハチ 何やかや 引っ張りだこやから…。
怪しいな。
俺?あかまつ 最近 別の人とよう飲みに行ってるらしいやん。
えっ 誰?
うちの かわいい かわいい妹や。
えっ! ゆ… 百合ちゃん?
ああ…。何か言いたくて来たんやろ?
うん… まあ…。えっ えっ そうなん? そういうこと?
そういうこと?
おいおい おいおい ちょっと お前 座れ。椅子 椅子 椅子 椅子…。
椅子椅子 椅子椅子…。ここ。ここ?
どこでもええやん。ほな ここ 座れ。
座れ。
はい。はい。
さあ 言えや。言えや。
いや… ええ~。
いやいや…やっぱり 俺が言うことやない。
俺が言わんで誰が言うねん!百合子と飲んでんのは ほんまやろ?
何 話してるん?何 話し…。
2人で どんな話 してるん?
ああ! のみ込みよった のみ込みよった!
こいつ… 出せ 出せ!おいおい… ちょ ちょ… 喜美子…。
ここ押したら出るか? ここか? ここか?喜美子 喜美子 喜美子…!
やめろ やめろ やめろ!信作も反応せえや。
あ~。「あ~」やないわ。ああ。
ほな! 言うけどな。
はい。はい。
その… 結婚して 夫婦になってな?
あんなあ!
はい。はい。
結婚して 夫婦になってな?はい。はい。
今 思い描いてた夫婦になってないやろ?
えっ?えっ?
喜美子思ってたんと 今 違うことしてるやろ。
百合子はな?それでも お姉ちゃんは ようやってるお義兄さんも ようやってるええ夫婦やなあ言うてんねん。
ほやけど 俺は…俺は そうは思わん。
お前 さっきかて 何や あれ。
窯業研究所の柴田さん。「奥さん奥さん 奥さん奥さん」て。
喜美子は どこ行ってん。
何 言うの!
俺はな お前らのこと よう見てきたからつきあい始めたんも知ってる。
結婚して夫婦になったんも。
あの 2人で めおと貯金やいうてお金ためてたんも聞かされてた。
ほんでや ほんで 独立して 電気窯買うてこういう作業場も月賦で建てて。
あっ 夫婦の工房やからいうて「かわはら工房」名付けて。
そんなん ずっと見てきた。見たくなくても見せられてきたんや。
口には せんかったけどなええ夫婦になってるな思てたんや…。同じ夢に向かって切磋琢磨して 一緒に陶芸やってく。そういうのなかなかええなぁ思てたんや…。
ほやけど この3年 うん? 2年半か?
喜美子は ここ来るたんびお茶いれて 掃除して 弟子の面倒見て。こんなんばっかりやんけ。こんなんちゃうかったやろ。もう ここは 「かわはら工房」やない「八郎工房」になってもうてるわ。
もうええねん うちは かまへんねん。
今は こう言うてるけどなそのうち 絶対 爆発するで。
せんわ!今の喜美子は 喜美子やないねん!
そんなことないわ!無理してたらな! いつか ゆがむぞ。
沢村 知ってる?沢村?キックボクサーや こういうな。
やめえ やめえ やめえ。喜美子 喜美子! やめえ やめえ…。
だって こいつが余計なことペラペラ ペラペラ!
知ってんでえ こういうやつや!おおい! 信作もやらんで やらんでええ!
もう 子どもか! いくつや思てんねん!もう…。
来い。来い。
もうええて…。
ええねん ええねん やらんでええ…!お前は やんな。
もう 足くじくで?骨折するわ お前。
滑って頭打つで。おう 頭打って 転がっていくわ。
もうええ もうええ もうええ…。せん! 絶対せん! 一生せん!
(笑い声)
もうな こいつの言うことなんか気にせんでええからな?
お前もな 余計なことペラペラ言うな。
無理してたら あかんちゅう話をな百合子と。
心配してんねやんけ。
それだけ?うん?
百合子と話してんのは それだけ?
ああ 原付きの免許取りたいいう話か?
ほかにはないのん?ほか?
その…百合子と つきあってるんちゃうの?
はあ?ちゃうの?
つきあってもええの?そんなこと言うてへんわ!
アホ!向こうが そんな気 1ミリもないわ。
あっ 分かった分かった。
ほな 帰れ帰れ。 話 済んだやろ。
はいはい はいはい。さいなら さいなら。
ほな またな。バイバイ。
(戸が開く音)
喜美子。うん。
これ 日本陶磁器次世代展に応募しよう。
次世代展やったら 新しい賞やからな女性陶芸家も受け入れてくれるやろ。
なに いきなり。
僕も気にはなってたんや。
2人でやっていこう言うたのに金賞取ってから喜美子は 僕のことばっかり優先してる。
喜美子が嫌や言うても応募するで?
ほんで 喜美子は喜美子でもっと世界を広げてなもっと やりたいことやったらええわ。
釉薬の調合のことかてもっと知りたいやろ。
もっと勉強したいはずや。
八郎さん。うん。
頼まれた花瓶 釉薬かけんでええの?僕の仕事の話は置いとけ。
ううん 聞かせて?どんな色にしよう思てる?
これ。
これ どんなふうに釉薬を調合してどんな色に焼き上げるか もう考えた?
先方は 落ち着いた感じの色がええ言うてたから深い緑色にしようかと…。
ほな 調合は…長石50 土灰30 石灰15蛙目5に 酸化銅8%ベントナイトが2 酸化焼成で1,280度で焼き上げたら 深い緑色になる。
合ってる…?
今 言うたんで合ってる?
合ってる…。そんなん いつの間に…?
勉強してん。いつ そんな…。
10歩も20歩も下がっててもな勉強はできるで?
ハチさんのやってること後ろからついていきながら学ばせてもろてた。
釉薬のテストピース 研究結果ぜ~んぶ 頭に たたき込んでな。
この2年半 釉薬のこと 調合のこととことん勉強したで 身につけたで?
ハチさんに追いつきたかったからな。
驚いた… すごいな…。
すごいな 喜美子。
さすがや 大したもんや。ほんま?
ほんま。
ありがとう。
ほな 調合だけやってみたいやってみてもええ…?
うん。 ほな 見たげるからやってみぃ。
はい!
頭で分かってても実際やってみんことには分からへんもんなあ。
よ~し…。
♪~