政府と日銀それぞれが先日発表したデータを見る限り、これまでの安倍政権の景気回復策は失敗に終わったと言っても過言ではないようです。ジャーナリストの高野孟さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、その失敗の原因を具体的な数字を挙げながら分析・解説するとともに、2020年にかけ日本の景気が下降局面に転がり込む公算が大きくなったという見方を示しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年12月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
いよいよご臨終を迎えたアベノミクス──金融緩和を諦めて財政緩和に転換?
内閣府が12月10日に発表した18年度国民経済計算の年次推計で、同年度の実質GDPの対前年度比伸び率は0.3%、名目成長率は0.1%、すなわちほぼゼロ成長だったことが明らかになった。19年度も、消費増税の影響もあり、前年度と同じかそれ以下の数値となることはほぼ確実である。
それに続き12月13日に発表された日銀短観では、企業の目先の景況感を示す指数は4四半期連続悪化で、「2013年3月調査以来、6年9カ月ぶりの低水準」だった。ということは、まさに6年9カ月前に発動されたアベノミクスは、全くの無駄に終わったということであり、その結果、来年にかけて景気が下降局面に転がり込む公算が大きくなった。
ところが安倍政権は、この事態にきちんと向き合おうとはしていない。何事によらず都合の悪いことはコソコソと隠して知らんぷりを決め込もうとするのがこの政権の常套手段だから、当たり前と言えばそうなのだが、そこで国会にも国民にも何も説明せずに企んでいるのが「金融でだめなら財政緩和」(12月11日付日経「大機小機」欄)という危険なシフト・チェンジである。
日銀短観が出た同じ日の臨時閣議は、経済対策を中心に4兆4,722億円を追加支出する今年度一般会計の補正予算案を決定すると共に、法人税などの落ち込みで税収見込みが狂った分を、赤字国債2兆2,297億円と建設国債2兆1,917億円を追加発行して穴埋めすることに踏み切った。補正後の一般会計予算は104兆6,517億円、国債発行額は37兆0,819億円に達し、「税収が減る中で大盤振る舞いを打ち出すという、いびつな構図」(14日付朝日)が浮き彫りになった。が、その奥に透けて見えるのは、「異次元金融緩和」の総括も後始末もしないまま「異次元財政緩和」に飛び移ろうとする安倍晋三首相の苦し紛れのアクロバットぶりである。
2020年、安倍首相がまず全力で取り組まなければならないのは、景気の下落に歯止めをかけアベノミクスの破綻を隠し通すことであるけれども、その成算はほとんどない。
アベノミクスはなぜ失敗したのか
旧第一勧銀のトップ・エコノミストだった山家悠紀夫は『日本経済30年史/バブルからアベノミクスまで』(岩波新書、19年10月刊)でこう言っている。
日銀がマネタリーベースを思い切り増やせば「増えた手元資金をもとに、市中金融機関は貸出を行うだろうから、民間の経済主体(企業や個人)が保有する資金量(マネーサプライ)も増加するだろう、その増加した資金が消費や投資に向かい民間の経済活動が活発化するだろう、物価も上がるだろう、というのが日銀の狙いである」。
あわせて、日銀が消費者物価の上昇率を2%にすると言っているので「民間の企業や個人も、やがて物価上昇率が2%になると信じるようになり、そうなる前に一段と消費や投資を増やすようになる」だろう……。
これが安倍首相と日銀のアベノミクスのシナリオである。ところが、この2パラグラフの文章の中の「だろう」は、すべてそうはならなかった。それで焦った日銀は、14年10月にはさらなる「質的・量的金融緩和の拡大」と称して、マネタリーベースの増加目標をアップすると共に、市中金融機関の日銀当座預金にマイナス金利を課せば、そこから資金の追い出せるだろうと思ったが、この「だろう」もまた当てが外れた。
「これら『大胆な金融政策』の結果はどうか?惨憺たる失敗、というほかない」と、山家は断言する(同書P.243~244)。
その通りなのだが、これにはもう少し解説が必要だろう。