80~90年代のアイドルと芸能界が描いた「空っぽな東京」
2020年1月5日
知る!TOKYO1980年代後半、空前のバブル景気を東京で目の当たりにした人たちは今、同じ東京で何を思い、何を感じ、どう生きているのでしょう。その時代を知る編集者の中川右介さんが、アイドル評論家・中森明夫氏の著作をベースに当時の東京を振り返ります。
地方出身者のための「東京物語」という物語形式
「私小説」は、「自然主義文学」から派生した、自分の身辺に起きたことを、事実を少し加工しつつ書く小説様式です。中森氏はマスコミで仕事をし、アイドル評論家なので芸能界にも近く、彼の「身辺」には有名な芸能人や作家が登場します。
『青い秋』ではその有名人たちが登場しますが、人物名は皆、「宮川りえ」「野口久美子」「篠川実信」など誰のことかすぐに分かる仮名となっていて、これも私小説の常套的手法。「私」も作中では「中野さん」と呼ばれています。
芸能界が舞台になるので、読み方によっては「芸能界暴露小説」と捉えられるかもしれません。しかしこれは紛れもなく「私小説」であり、「青春小説」であり、そして「東京物語」でもある――そう感じたのでした。
「東京物語」といえば、最も有名なのは小津安二郎の映画『東京物語』(1953年)でしょう。広島県尾道に住む老夫婦が東京で暮らしている息子や娘たちを訪ねる物語です。
また世代によっては、柴門ふみの漫画『東京ラブストーリー』(1991年)こそが「東京物語」だと言うかもしれません。愛媛出身で東京に出てきた男ふたりと女ひとり、帰国子女によるふたつの三角関係のドラマでした。
『東京ラブストーリー』は鈴木保奈美と織田裕二の主演によりフジテレビの「月9」枠でドラマ化され、高視聴率を獲得した大ヒット作です。これを見るために月曜はみんな早く家へ帰るので、「月曜夜、銀座からOLが消えた」という都市伝説まで生まれたほどでした。
『青い秋』も『東京ラブストーリー』と同じ時代を背景にしていて、どちらも地方から上京してきた者たちを描いているという共通点があります。「東京物語」という物語形式は、「東京で生まれ育った人の物語」ではなく、「地方から東京へ来た人の物語」なのです。
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