「こだわりは、まじめです。」
いきなりクイズです。愛媛にまつわる都市伝説に「蛇口から○○ジュースが出る」というものがあります。さて、○○に入るのは?
ヒントはポ……そう、ポンジュース!
あの「ポン! ジュ~スゥ~♪」のCMを聞いたことがある人は多いはず。
じつは今年(2019年)はポンジュースが果汁100%となって生誕50周年にあたるんです。50年ですよ、50年。半世紀です。
栄枯盛衰の激しい飲料業界で、これだけ長く愛されているジュースも珍しいんじゃないでしょうか?
ポンジュースを作っているのは愛媛にある、その名も「えひめ飲料」。
えひめ飲料さんは「こだわりは、まじめです。」をキャッチフレーズにポンジュースを作り続けている企業です。
50年も愛される秘密はどこにあるのか? やはりまじめさなのか? 気になったので行ってきました。
伝説の「ポンジュースが出る蛇口」は実在した
ここがポンジュースの総本山、えひめ飲料です。青い空に映える「ポンジュース」の文字。
入り口をくぐるとポンジュース50周年のポスターがドン! と。
階段の途中には歴代のテレビCMがずらり。懐かしさを感じさせますね。
そして受付へ向かうと……。
こ、これは! 伝説のポンジュース蛇口は本当にあったんだ! お宝を発見した勇者の気分です。
蛇口をひねってみたい誘惑にかられながらも、隣に目を移すと……。
ポンジュース色の自転車ぁ!?
なんとタイヤがオレンジ色です。
興奮さめやらず、とりあえず受付を済ませて会議室で待っていると……。
「お待たせしました」
な、なんと『メシ通』の取材のために5名の方が。取材に対して盤石の布陣で臨む姿勢。スタートからまじめさ全開です。
愛媛県の都市伝説を再現
対応していただいたのは左から東(あずま)さん、岩本さん、森永さん、田本さん、越智さん。みなさん企画開発部の方です。
──受付のところにポンジュース蛇口を見つけてびっくりしました(笑)。
東:愛媛県の家庭の蛇口をひねったら、ポンジュースが出てくるという都市伝説はけっこう昔からありまして(笑)。それなら実際に作ってみようかということで、2007年に初号機を作ったんですよ。
──1台だけじゃないんですか?
森永:衛生的に洗浄したり、美味しく飲めるように冷やしたりできるように改良を重ねつつ、最終的に4台くらいになりました。
東:それ以来、松山空港に月に一回ほど持って行って無料でポンジュースをお配りしていました。
──観光客にはウケるでしょうね〜。
越智:松山空港での月一回のイベントが話題になったものですから、他の空港からも「うちでもやって欲しい」という話がありまして、それをすれば広告宣伝にはなるんですが、愛媛の都市伝説を再現するのが元々のコンセプトなので松山空港のみに限定しました。
──「蛇口からポンジュース」は愛媛だけ! まじめだ!
東:じつは、一度だけ愛媛から出たことがあります。それは、東日本大震災のときです。仙台に向かい、被災者の方々に提供させていただきました。
──でも被災者のためには駆けつける。ステキです。ちなみに、無料サービスは今でも松山空港でやっているんですか?
東:いえ、蛇口からポンジュースというのが全国的に話題になって地域貢献ができたということで、今は役目を終えて社内で展示しているのみです。
──ここまで有名になったポンジュース。そもそもどうやって誕生したんですか?
東:昭和26年(1951年)に桐野 忠兵衛(きりのちゅうべえ)氏が愛媛県のミカン産業を発展させるためアメリカに視察に行ったのがきっかけです。
──昭和26年(1951年)といえば終戦から6年後ですね。
東:そこで搾汁(さくじゅう)工場を見学したり、朝、食事の時にオレンジジュースが出てきたのを見て非常に驚いたと同時に「日本の柑橘類でもこういったことができるんじゃないか?」とひらめきがあったそうです。日本ではその当時、柑橘類をジュースにして飲むという習慣が全くなくて、生で食べる以外は缶詰ぐらいしか加工品はなかったんですね。
──その時代にアメリカに渡って果汁飲料の可能性を見出すとは……。
東:ホント、革新的だったと思います。そして、帰国してからすぐ工場建設にとりかかり、わずか1年で飲料の製造、販売へこぎつけます。
──行動力のかたまりみたいな人だったんですね。
東:昭和27年(1952年)にポンジュース第一号が発売されるのですが、当時はまだ果汁100%じゃなかったんですよ。果汁20%から30%ぐらいの果実飲料だったみたいです。そして、昭和44年(1969年)ついに果汁100%のポンジュースが発売され、今年で50周年になります。
▲発売当時のポンジュース第一号のポスター
──ポンジュースの名前の由来は?
東:当時の愛媛県知事だった久松さんが名付け親で「ニッポンで生まれて世界に輝くジュース」みたいな感じで「ポンジュース」になったと聞いています。
それとは別に、久松さんはフランスに住んでいたことがあったそうで、フランス語の「ボンジュール」と「ポンジュース」の響きが似ているから。など、いろんな説があります(笑)。でも、ニッポンの「ポン」が一番しっくりくると思っています。
──100%ポンジュースの生誕から50年。その間、味というのは変わっているんでしょうか?
東:はい、変わっています。最初、果汁100%になったとき、世の中にまだ無かったものですから「胸焼けがする」とか「酸っぱすぎる」とか「これは薄めて飲むものなのか?」とか、いろんなご意見があったようです。そこで、酸味だけを取り除く技術を開発して飲みやすくしたり、時代にあった工夫を続けてきました。
天然ものだからこそ出る風味の違い
──今でこそ当たり前の100%ジュースも初めはそんな反応だったとは……。
東:技術が進んだ現在では糖度や酸味など調整して作るんですけども、どうしても果実が生産された場所や収穫時期によって違いがあります。
そこで、この時期に搾ったものと、この時期に搾ったものを、この割合でブレンドして……といったように、なるべく味に差が出ないようにしてるんですけども、やはり天然もので余分なものは加えてないものですから、風味の違いは出ます。
──風味の違いなどはわかるものですか?
田本:愛飲されているお客さまからはそういうお話も聞きますので、わかる人には風味だけでなく微妙な濃さの違いも分かるようです。
──そこまで愛されているって嬉しいですね。
東:そうですね、本当にありがたいと思っています。
越智:それだけに、いい加減なものは作れないですね。
──真面目なコメント! ポンジュースがここまで永く愛されるようになった要因は何だと思われますか?
東:まず、農家の方々のおかげです。農家さんが美味しいミカンを作り続けてくださるので、ポンジュースも作ることができます。それと、我々の先輩たちが研究開発を重ね、みんなで売ってまわったということ。そして一番大切なのは、変わらずに買い続けてくださるお客さまだと考えております。
──ポンジュースの生産でこだわってるところはありますか?
東:先ほどの「味の変化」という話とつながっているんですけど、昔のミカンって酸っぱかったんですね。今はいろんな種類と、農家さんの努力のおかげで、すごく甘いミカンができるようになりました。ただ、昔は酸味が強かったものですから「酸っぱすぎる」という声もあったわけです。そこで、酸っぱい成分だけを取り除く技術を確立しました。
──砂糖を加えて甘くする、とかじゃなくて酸味を取り除いたわけですね。
東:引き算の発想です。酸味の部分だけ取り除くことで、果汁100%なんだけれども甘いジュースができます。でも、お客さまの好みもどんどん変わっていきますので「もっと爽やかな感じがいい」ということで、オレンジとブレンドしたり、改良を重ねてきました。
──消費者の好みも変化しますからね。
東:素材のミカンについては受け入れ基準を設けていますので、必ず現地の農家さんのところに足を運んで「ミカンの色づきはこのくらいでお願いします」など品質についてお話しています。少しでもいいものをご提供したいですから。
──ミカンの色も基準の1つなんですね。
東:容器に関しては「酸素バリアボトル」といって中身が酸化しづらい特殊なペットボトルを採用しました。三層構造になっていて、真ん中に酸素をブロックする層があります。それによっておいしさやビタミンCなどの栄養成分が酸化で失われるのを防ぎます。
──一見してわからないところにも工夫があるんですね。
東:酸素バリアボトルのおかげで賞味期限はかなり長くなりました。ガラス瓶とか、缶詰のほうが賞味期限は長いのですが、それに匹敵するくらい長くなりました。
──酸素バリアボトルはいつから採用されているんですか?
田本:2006年から酸素バリアボトルを採用していて、現在では5つの商品に使われています。
──そういえば、果汁飲料で「濃縮還元」と「ストレート」ってあるじゃないですか? 飲み比べをしたら違いなどはありますか?
森永:ストレートを持ってきていますので、飲んでみますか?
濃縮還元とストレートの違い
東:ストレートのほうが、素材の香りや風味などをしっかり感じられると思いますよ。
──ゴクリ…… おお! 香りが爽やかで、ミカンの甘みがしっかり感じられますね! おかわりしたいくらいです(笑)。
東:濃縮還元の果汁も、搾った直後はストレートなんです。しかし、保管や輸送のことを考えると1/5、1/7に濃縮したほうがコストが抑えられます。保管スペースも限りがありますし。
──そのほうがコストが抑えられますよね。
東:そのため真空で濃縮するんですが、香りの成分なども飛んでしまうんですね。そこで、濃縮したものを還元するときに飛んでしまった香りを補うため、天然の香料を添加して戻すという工程が必要になってきます。ストレートはその工程がないため、本来の風味や甘さがしっかりと楽しめます。
──ちなみに、他社のオレンジジュースは意識しますか?
東:ドライ(常温流通)の市場ではポンジュースが一番売れているんですよ。もちろん、それにあぐらをかいてる場合じゃないですから、他社さんの新製品が出たら買ってきて飲んで評価する。そうしたことは日々やっております。
──とはいえ、やはりポンジュースが一番と思っていますよね?
東:もちろんです(きっぱり)。
──でも、なかには「他社のドリンクだけど、こいつは美味いな」っていうのがあるのでは?
東:美味しさではポンジュースが一番だと思ってますが(笑)、チルド(冷蔵流通)だと繊維成分を入れて生絞り感を出しているようなタイプがあって、独特の味わいがありますよね。
──昔、粒が入ったオレンジジュースが好きでよく飲んでいたんですが、最近では見かけないですね。
東:今でも作っていますよ。作ってはいるんですけど、美味しいミカンって粒になりにくいんですよ。
──美味しいミカンだとダメなんですか?
東:ええ。硬くて少し酸っぱいくらいのほうが粒がしっかりしていて、加工に向いています。最近のミカンは甘くて美味しいんですが、粒ジュースにすると潰れてしまうんです。
──それはもったいない。
東:そうなんです。さらに、粒を作るのってすごく大変で人手がいるんですね。そういったこともあって、将来的には粒の商品は無くなっていくのかなと思います。すごく特徴もあるので残念なんですけど。
ミカンの色の話
──粒入りの他に特徴がある商品はありますか?
東:新発売になった「POM蜜柑~コク出し製法果汁使用~」ですね。これは果汁20%なんですが、果汁100%の味を目指して作りました。ミカンの色の成分には味があって、その色素を多く抽出することで「果汁20%なんだけどコクがあって果汁100%に近い味」を再現することができました。
──色にも味があるんですね。なんていう成分ですか?
東:β-クリプトキサンチンといいます。これはカロテノイドの一種で、ミカンのオレンジ色の正体です。
──これからオレンジ色を見たら「β-クリプトキサンチン」なんだって思うようにします(笑)。あと、ポンジュースといえばテレビCMも有名ですね。
東:テレビCMはずっと流してたんですけど、東日本大震災の時に我々の茨城工場が被災しまして、そちらの復興を優先するということで一時期停止してたんですよ。今回、50周年を記念してまた流すようになりました。
とりあえず愛媛県内だけですが、今後は拡大したいと思っています。一方で、現在ではテレビだけではなくInstagramやYouTubeなどさまざまなメディアがありますので、宣伝の仕方も変わっていくかもしれませんね。
──今はSNSの活用が重要ですもんね。企業の広告などもよく見ますし。そのあたりは女性陣が担当しているんですか?
東:森永が担当しています。インスタ部長です(笑)。
──Instagramではどういったことを?
森永:現在はポンジュースバイクが当たるフォトキャンペーンをやってます。
──おお! 受付のところにあった自転車ですね。
東:愛媛県はサイクリングに力を入れていて、自転車に乗る人がけっこういます。海外からのサイクリストも多いですし。
──しまなみ海道は自転車乗りの聖地ですもんね。
森永:12月31日までなので、インスタされてる方はぜひ写真を撮って投稿してみてください。
──SNS以外でお客さまと交流することもありますか?
東:直接ということになると、小学生の工場見学があります。あとは、イタリアで修行していた日本の靴職人さんが、帰国してお店を開いたんですけど、その人がミカンをイメージして作った靴を送ってくれたことがあります。
──ミカンをイメージした靴?
田本:ミカン色なんですよ(笑)。持ってきましょうか?
──うわー! 本当にミカン色だ(笑)。これは世界に1つだけの靴ですね。
田本:応接室に展示させていただいてます。
変わらないものと、変わるもの
──農家さんとの交流などはありますか?
東:昨年、愛媛県では豪雨災害がありましたので、被害が大きかった地域にはボランティアとして摘果のお手伝いをしました。愛媛の柑橘は急こう配で崖のような斜面で栽培しているところもたくさんあります。
作業の途中で足を踏み外しそうになったり、猛烈な暑さで水分補給も足りないくらいでした。また、ポンジュースのボトルをリニューアルしたとき、2カ月間の売り上げの中から、一部を義援金として愛媛県に寄付させていただきました。
──これからは何を目指しますか?
東:変わらないものと、変わるものがあると思います。変わらないものは我々がこれまでずっとやってきたこと。お客さまと、農家の方々、先人への感謝。これは、今後も忘れずにやっていきます。
そして変わるものは、お客さまの好みや、時代のニーズなど求められるものが変わってきていますので、そのときに一番いいものをまじめにご提供していこうと思っています。柑橘のおいしさを皆様にお届けし続けたいですね。
──最後まで本当に真面目なコメントをありがとうございます! それでは、『メシ通』読者へ向けて、ポンジュースを使ったおすすめレシピを教えてください。
岩本:こんなのはどうでしょう?
ポンジュースを使ったおすすめレシピ
というわけで、ポンジュースを使った料理のレシピを紹介してもらいました。ポンジュースの公式ページには他にもいろいろなメニューが掲載されてます。
“お肉やわらか“スペアリブのグリル -ポン仕込み-
“魚介の旨味際立つ“シーフードポンピラフ
“風味香るソースが決め手”ポンカツ丼
──お肉、魚介、丼物とそろってますね。さっそくポンジュースを買ってきて、作ってみます。今日はありがとうございました。
工場見学 〜ポンジュースができるまで〜
そして、なんとえひめ飲料さんのご厚意でポンジュースの製造工場の見学をさせてもらえることに! ワクワクしますね。
受け入れ
まず、搬入されたミカンが、トラックごと斜めになって一気に出てきます。
大量のミカンです。壮観。
搾汁
表面の汚れやゴミをきれいに洗ったミカンを搾ります。
ミカンを搾る時は、果汁と内皮・外皮に分かれます。
残った外皮は陳皮(ちんぴ)という七味唐辛子の原料に。
冷凍貯蔵
果汁を濃縮したあとはマイナス18度の冷凍庫で保管。
いやはや、あのポンジュースがどんどんできていく様は壮観のひと言でした。
「こだわりは、まじめです。」というえひめ飲料さんの姿勢は、取材中もあふれていました。
企業の風土は一朝一夕でできるものではありません。
50年かけて醸成された「まじめさ」は、次の50年へ向けてすでにスタートしているように感じました。
書いた人:星☆ヒロシ
夫婦で食べ歩きが趣味。夫は食べる専門で、妻は呑む専門。若いころは海外へも足を運んだが、最近は日本の良さを再認識し、旅をしながらその土地ならではのおいしいものを食べ歩く。