日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が、保釈の条件を破って国外に逃亡した。逃亡先は、ゴーン氏の第二の故郷であるレバノンだ。
レバノン移民の子としてブラジルで生まれ、中等教育をレバノンで受けて国籍も持つゴーン氏は、同国では英雄的な存在である。報道によると、同国大統領もゴーン氏の保護を約束している。ゴーン氏の逃亡は、どう考えても単独での実行は無理であり、国内外に複数の関係者がいると見られ、レバノンの国家としての関与も疑われる。
今回の逃亡については、国内外で大きな議論が巻き起こっており、日本もレバノンにゴーン氏の身柄引き渡しを求めている。今後、一刑事事件から外交問題に発展する可能性もある。そして対応次第では、国際世論で日本政府が批判されるリスクもある。ここは、事態を冷静に分析し、今後、ゴーン氏が仕掛けてくると見られる海外メディアを使った「情報戦」に備え、それに対抗する手段を構築する必要性があるのではないか。
まず、今回の逃亡は、日本の出入国に関する正規の手続きを踏んでいないことから、明らかに違法行為と言える。ゴーン氏は保釈条件も破ったのだから、民主主義国家における司法手続きを無視した行為でもあり、到底許されるものではない。
ゴーン氏の逃亡劇を受けて、日本では被疑者の拘留期間が長い、取り調べに弁護士が同席できない、日本の刑事事件は有罪率が99%なので判決前にすでに有罪が決まっている、保釈後の制限事項に夫人と会えないことが掲げられているのは人道的ではない、といった日本の司法制度への批判が再び起こっているが、逃亡事件の是非と日本の司法制度が抱える課題を一緒にして論じるのは適切ではないと、筆者は考える。